第851話 ボス前の会話

【視点:レイ】


 それからレイ達はアカメに案内されながら異界化した魔王城の地下を進んでいく。


 進むごとに瘴気の侵食が酷くなっていく。だが、レイ達はその瘴気の中を突き進みながらついに最深部へ続く階段に辿りついた。


「……」


 皆は階段の先から漂う強大な負のエネルギーを感じ取り、顔を曇らせる。


「……多分、この先に魔王が……?」


「……おそらく」


 姉さんの問いかけにアカメが小さく頷く。


「……うん。僕も何となく感じる……以前に戦った事があるから……」


「……思い出すだけでもイヤになりますね……この威圧感……」


「……情けない話でございますが、正直あの時の事を考えると……身が凍り付く様な感覚でございます……」


 当時の事を思い出したのか、エミリアやレベッカは表情を凍らせて語る。


「……ルナ、ノルン……二人は魔王と会ったことは無かったよね……?」


「う、うん……なんか分からないけど……ちょっと寒気がするかも……」


「……数多くの魔物や、闇に囚われた人間達を多く見てきたけど……まるでそれらの集合体のような気配ね……あらゆる生物の暗黒面が集束したような……」


「大丈夫……? 二人とも、もし怖いならここで待っていても……」


 二人の話を聞いてカレンさんが彼女達を気遣うように言う。だが、二人は首を左右に振った。


「……冗談。ここで怖気づくなら私はカレンを助けた後、さっさと帰国していたわよ」


 ノルンはこの状況でも表情を変えずにカレンにそう言い返す。


「流石ノルンね、頼もしいわ……ルナちゃんは?」


「わ、私も大丈夫……皆が居るし……それに……」


「……それに? 何かあるの、ルナちゃん?」


「……以前に、約束したので……サクラちゃんと……」


「え、サクラと?」


 カレンさんがキョトンとした表情でサクラちゃんに視線を合わせる。ちなみに、僕もルナがサクラちゃんと何か約束をしていたという話は聞いたことが無かった。


「本当、サクラ?」


 カレンさんはサクラちゃんにそう質問するが、サクラちゃんはカレンさんの質問に答えずにルナに笑顔で言った。


「えへへ、覚えてたんですねルナちゃん……もし何かあったら迷わず実行してくださいねっ」


「うん……でも、そんな事が起きないように私も精一杯頑張るよ、サクラちゃん」


 ルナは何処か気恥ずかしそうにサクラちゃんにそう言った。


「うん! 信じてるよ、ルナちゃん」


 サクラちゃんは笑顔でそう言ってから僕の方を見て言った。


「レイさん、ルナちゃんにここまで言わせたんだから絶対勝ちましょうね!! 先輩も!!」


「え、あ、うん!」


「勿論、勝つことに全力を注ぐつもりよ。それに……もう私は誰にも負けるつもりはないわ」


「その意気です!! ファイトですよ、ファイト!!」


 サクラちゃんは僕とカレンさんを鼓舞する。そんな彼女の姿を見てルナはクスクスと笑うのだった。


「(ところでレイ君、二人の約束って何なの?)」


「(僕も分かんない……)」


 二人ってそこまで接点無かったように思ってたんだけど、僕が居ない間に交流があったのだろうか……?


「(でも、今ではすっかり打ち解けられていて良かった……)」


 最初に会った時のルナ……当時は元の世界の”時の”椿楓”という名前を名乗っていたが、ドラゴンの身体に精神が封じ込められていて性格も今とは変質していた。


 あれは普通の状態に思えたけど精神的な消耗による現実逃避が理由だったことがウィンドさんだと聞いている。


 今のルナは本来の彼女の性格だ。気弱で若干いじめられっ気質な面もあるが、その分とても仲間想いで優しい。


「……以前から思っていたのですが、今のルナ様はレイ様に似ておられますね」


 僕が彼女の事を考えていると、不意にレベッカがそんな事を言った。


「そんなに似てる?」


 僕がレベッカに問うと、レベッカは「仲間への気遣い方がそっくりでございます」と答えてくれた。


「レイ様とルナ様は同郷の友なのも理由なのかもしれませんね。きっと、考え方が近しいのでしょう」


「まぁ、確かに」


 この中で、僕とルナだけは異世界から転生した存在だ。僕とルナはレベッカの言う通り、元々同じ世界・同じ国の生まれであり、中学時代の同級生でもある。そう考えれば、ここにいる誰よりも彼女と僕は関わりが強い。


 そして僕とルナの境遇もかなり似通っている部分がある。それが理由か彼女は僕の事を慕ってくれている。とはいえ、僕自身も彼女の存在に助けられている。


「ノルンも、ここまで一緒に来てくれてありがとうね」


「……お礼は全部終わってからよ。といっても、私は直接的な戦闘力は皆より低いからサポートメインになるけどね」


「それでも助かるよ。いざという時に姉さんとノルンが控えてくれてるだけで、いくらでも巻き返せる気がするし」


 僕がノルンと話していると、自分の事を話題に出された姉さんがこちらに近付いてくる。


「何の話?」


「姉さんとノルンは頼りになる、って話だよ」


「お姉ちゃん嬉しいわ……魔王が相手でも頑張っちゃう!」


 先程まで不安そうな顔をしていた姉さんだったが、少し気が緩んだお陰で笑顔でそう言ってくれた。


「ふふ、まぁ元神様と見習い神様のコンビだからね……」


「……そう言われてみると、ノルンちゃんと私は色々と共通点多いわよね……」


「(二人が神様なこと、時々忘れそうになるんだよなぁ……)」


 日頃の態度が全く神様っぽくないし、結構フリーダムな存在なので仕方ないかもしれないけど……。


 ……と、後はレベッカとエミリア、それにアカメだ。彼女達にも大丈夫か聞いておかないと。


「レベッカ、これから魔王と戦うことになるけど大丈夫?」


「はい、わたくしは問題ございません。レイ様は如何でしょうか?」


「僕……? まぁ、皆が居れば何とかなると思うよ」


「ふふ、レイ様に信頼して頂いて仲間冥利に尽きますね……」


「エミリアは大丈夫?」


「世界の命運を分ける天下分け目の最終決戦の前の問いですか?」


「いや確かにそうなんだけど、そんな重苦しい話をするつもりで聞いたわけじゃないから」


「なんだ、雰囲気出そうと思ったんですが……」


「むしろその言葉で緊迫した雰囲気が台無しだよ!?」


「あはは、冗談ですよ。私は平気です。いつでも魔王と戦えますよ」


「……例の魔法は絶対使っちゃダメだよ?」


「”無制限破壊”の事ですか?」


「それ。使えばエミリア死んじゃうから絶対ダメ」


「私どころか皆巻き込んじゃうので流石に使いません。……でも、ずっと前に習得した最強魔法なのに永遠に出番来ないの不遇過ぎませんか……?」


「最強魔法ってそんなもんじゃない? 強すぎて使いどころに困るっていうか」


「鳴り物入りで習得したというのに役立たずな魔法でしたね……」


 エミリアは残念そうだ。

 しかし、魔王と戦う前に最後にエミリアと交わす会話がこんな緊張感が無いままでいいのだろうか……。


「良いんじゃないですか? 意味深な事言って死亡フラグ踏んでしまうのもアレですし」


「そうだね……って、ごく普通に心読むの止めて!」


「ふふっ、私の前では何もかもお見通しですよ」


 エミリアは何故か胸を張って答えるのだった。ともかく、エミリアとレベッカに関してはいつも通り過ぎて全く問題なさそうだ。


「……後は、アカメ……大丈夫?」


「……問題ない」


 僕が質問するとアカメはこちらまで歩いてきてそう呟く。


「一応、アカメの上司だった相手と戦うことになるわけだけど……」


「それも問題ない。貴方と一緒にいられるのであれば、アレを滅ぼすことに何ら躊躇は無い」


「そ、そう……?」


「それよりも気を引き締めた方が良い。魔王と名乗るだけあってアレは強い。魔軍将と戦った時と同じような感覚で戦うと危険」


「……だね」


 アカメの言葉に僕も気を引き締める。魔王と戦うのは二度目だが、油断だけはしないようにしないと……。


「―――よし!」


 僕は自分の左右のほっぺたを自身の手でパンと叩いて気合いを入れる。すると、仲間達が会話を中断してこちらを見る。


「……皆、今度こそ最終決戦だよ。必ず勝とう!!」


「ま、言われるまでもないですね」


「ええ、必ず勝ちましょう、レイ様!」


「当然ですっ!」


「……うん」


「……ええ、魔王を倒しましょう」


 僕の言葉に皆はそれぞれの反応を見せる。そして最後に姉さんが僕の前に出て言った。


「……レイくん、これが終わったら話したいことがあるの」


「姉さん、最後に自ら死亡フラグっぽい発言するのやめよ?」


「…………お姉ちゃん、タイミング間違えた?」


「いや、別にそんな事はないと思うけど……」


「ま、まぁそれなら話の続きが出来るように頑張って魔王を倒しましょうね!!」


 姉さんはそう言ってガッツポーズを取る。

 そんな言葉を聞いて、僕達は笑い、最後に皆で頷き合う。


「(今度こそ、絶対にケリを付ける……!)」


 僕はそう心に誓いながら、仲間達と共に階段を下っていくのだった。

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