第849話 魔王城地下
――魔王城 ???階――
玉座の間に隠されていた隠し階段を見つけたレイ達は、目的の魔王を追うためにその階段を降りていく。長い長い階段を降っていくと僅かな薄明かりが見え始めた。
「……ようやく見えてきたね」
ずっと薄暗い暗闇を進んでいたレイ達は、僅かな灯りを見て僅かに安堵の息を漏らす。
「油断は禁物よレイ君、さっきノルンが言ってたようにこの先は異界化してる可能性が高いわ。レイ君が危惧していたように戻れなくなる可能性もあるから、しっかり注意してね」
「分かってるよ、カレンさん。何だかんだで今の僕はいつもよりも気合いが入ってるから」
「おお、頼もしいわね……アカメのお陰かしら?」
「大体合ってる」
ラストダンジョンでまさかの実妹登場でテンション上がり中だ。これが小説だったら話が意味不明過ぎて逆に評価が上がるだろう。知らないけど。
「……気持ちは嬉しいけど、いつ魔王が現れるか分からない。油断は禁物」
その実妹に釘を刺されてしまった。反省。
「……と、気を取り直して……」
階段を降りた先の出口付近まで歩いて行き、慎重に先を覗き込む。
先は石造りの通路の分かれ道になっており、大方の予想通り迷宮のような場所になっていた。
だが通常の迷宮と違って場所によっては紫色の霧の様な物が立ち込めており、何処となく不快な印象を感じてしまう。
「……何だろう、アレ」
僕がそう呟くと同じく出口を覗きこんでいたノルンが言った。
「……密度の濃い瘴気ね。アレに触れると危険、身体に害があるだけならまだマシな方。下手をすれば魂その物を穢される可能性がある」
「もし近くを通るならお姉ちゃんが浄化の魔法で何とかするけど……流石に全部は無理ね……」
ノルンの言葉に補足する様に姉さんが言った。
「ふむ、おそらく魔物も徘徊しているでしょう。……アカメ様、この場所に心当たりはございますか?」
レベッカがアカメに質問するが、アカメは首を横に振る。
「ごめんなさい……ここは私も知らない場所……」
アカメでさえもこの場所を知らない、と言う事はおそらく魔王軍が秘密裏に作っている隠し通路なのだろう。
「うーん、空気が重いですねぇ。こういったダンジョンはわたしの得意分野なんですけどぉ」
「ここは普通のダンジョンと違うのだから同じ感覚で挑むと痛い目に遭うわよ、サクラ」
「はーい、分かってますよぉ先輩……で、レイさん。そろそろ行きませんか?」
そう質問されて僕も覚悟を決める。
「うん……罠もあるかもしれないし慎重に進もう」
「ルナ、逸れないようにしっかり私の手を握っててください」
「うん……ありがとう、エミリアちゃん」
エミリアに手を差し出されてその手を取るルナ。彼女はこういったダンジョン攻略の経験があまり無いため、エミリアがフォローする必要がある。
「だいじょーぶですよ、ルナさん♪ ダンジョン慣れしたわたしも居ますし♪」
「あはは、ありがとうサクラちゃん……」
「……ではレイ様、おそらくここから正念場でございます。この悪しき迷宮を突破し、その先に待ち受ける悪鬼悪霊共を退けて魔王という畜生を成敗いたしましょう」
「……もう何が敵なのか分からなくなってきたけど頑張ろう……うん」
若干壊れた発言のレベッカにツッコミをいれつつ、僕達は魔王城最下層に繋がるであろう迷宮へと足を踏み入れた。
◆◇◆
無限湧きの如く襲い掛かってくる魔物達を退けながら魔王城の迷宮を進む僕達。
時には硫酸の溜まったような落とし穴に落ちそうになったサクラちゃんをカレンさんがギリギリのところで彼女を引き戻して事なきを得たり、突然後ろから迫ってきた魔物をノルンの魔眼で足止めしてからレベッカの石の魔法で固めて壁を作って後続の敵を足止めしたりと、それぞれの得意分野を活かして迷宮攻略を進めていた。
しかし、奥へ進めば進むほど瘴気の量が多くなっていき、それに比例するように魔物の数も増えていく。まるで瘴気から魔物が溢れて来るような勢いで次々と襲い掛かってくる魔物に辟易しそうになる。
「かなり瘴気が濃くなってきましたね」
「瘴気もだけどさっきから魔物の数が多すぎね。いい加減腹が立ってきたわ……」
「慎重に進んできたけど、このままだとこっちの消耗の方が大きいかも……」
「確かに、これだけ魔物が多いと敵を倒してもキリがないですね。何か打開策を打たないと……」
皆の消耗が激しいため、僕達は一旦足を止めて瘴気の少ない場所に移動し作戦会議を行う事にした。
「結界を張ったわ。少しくらいの時間なら魔物も来ないと思うわ」
「ありがとう姉さん」
結界を張ってくれた姉さんにお礼を言ってから僕達は作戦会議を始めた。
「この迷宮は魔王城の最下層まで続いてると思う?」
「確実に」
僕の質問にアカメが即座に答える。
「これほどの広大な迷宮を作る理由は一つ。それは攻め込んできた敵を誘い込んで確実に包囲して殲滅するため。魔王は確実にこの先に居る」
「……元魔王軍幹部の言葉なら信憑性あるわね」
「そういう事なら、こんなところで足踏みしている場合じゃないかな……今まで慎重に動いてきたけど、敵の強さもある程度把握出来たし罠の傾向も見えてきた。この迷宮の構造さえ分かれば急いで駆け抜けたいところだけど……」
「迷宮の地図のようなものがあれば良いけど、そんな都合のいいものが用意されてるわけないわよね……」
姉さんの尤もな言葉に、僕達はゲンナリした表情でため息を吐く。
「……地図は無いけど、方法は無くも無い」
「どういうこと、アカメちゃん?」
「……魔王がこの迷宮の奥へ進んだとするなら、必ず足跡が残っているはず。それを辿ることで正解の道を割り出す事は可能」
「……ふむ、それが出来ればこの上もないアイデアでございますが……」
レベッカはそう言いながらエミリアに視線を移す。しかし、エミリアは首を軽く横に振る。
「索敵の魔法でどうにかならないかと試してみたのですが、無力化されているのか効果が使えないんですよ」
「おそらく既にここが”異界化”しているからね。”索敵”だけじゃなくて”迷宮脱出魔法”も使えないと思う」
エミリアの疑問にノルンがそう答える。それを聞いたエミリアが若干落ち込んだように俯く。
「ダンジョン攻略の基本的な攻略手段が封じられてしまいますね……困りました……」
真の敵の行方が分からず、退路を断たれた僕達は苦境に立たされている。ここにいる全員がその事に薄々気付き始めており、少しずつ僕達は焦り始めていた。
そんな僕達の様子を見て不憫と感じたのか、これまであまり意見を出さなかったアカメが言った。
「……確かに普通の人間には突破は困難。―――だが方法は残されている」
彼女のその言葉に、僕達は静まり返り、彼女に視線が集中する。そして僕は彼女に質問する。
「そんな方法あるの?」
「ある……私に任せてほしい」
アカメは僕の目をジッと見て言った。僕は言った。
「……うん、信じるよ」
「ありがとう……レイ……」
彼女はそう言って歩き始めた。僕達も彼女に続いて歩き始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます