第848話 奈落の底へ?

【視点:レイ】


 前回のあらすじ。玉座の後ろに隠し階段があった。以上。


 アカメが見つけた玉座の後ろの床を調べると、分かり辛いが取っ手のような場所があり、それを引くと地下への階段が姿を現した。


「まさか本当に玉座の後ろにあるとは思わなかったよ……」


「ふむ? レイ様は何かしらの確信があって言ったのだと思っておりましたが……?」


 僕の唖然とした呟きにレベッカが反応する。


「あ、うん……まぁ……もしかしたらそうかもって……まぁ勘だけど」


「流石レイ様でございます。勘一つでここまで的確に相手の思惑を看破してしまうとは」


「……私もレベッカの意見に同意。流石、お兄ちゃん……」


「はは……ありがと……」


 レベッカとアカメに尊敬の表情でそう言われて乾いた笑みを浮かべる。


「(実際は勘じゃなくて、某有名RPGにそういうギミックがあったから言ってみたんだけどね……)」


 あれはただの創作だと思っていたが、実際に隠し階段が存在するとは……。


「それで、魔王がこの下に?」


「可能性は高い」


「よし、じゃあ行こう……」


 仲間達に確認を取ってから僕は鞄からランタンを取り出して階段を降りていく。地下への階段は殆ど灯りが無く一寸先は闇の状態だ。万一、何かあった時の為に自分が先陣を切るべきだろう。


「気をつけてねレイくん」

「うん」


 後ろの姉さんに注意されて頷いて、ランタンの差す僅かな灯りを頼りに降りていく。


 この階段の先が罠であることを念頭に置いて、僕は慎重に慎重を重ねてランタンの灯りで足元を照らして、万一降りる階段がなくて奈落に真っ逆さまなんていうありがちな展開を想像しないようにしながら降りて行った。


「……」


 ランタンの灯りだけが頼りなので、実際のところは分からないが、体感で3階層くらい降りた時……ふと僕は空気が変わったことに気付く。


「(この先に行くと簡単には戻れない気がする……)」


 この感覚は以前に感じた事がある。外界と遮断されたような閉塞感だ。現実感が徐々に無くなっていき意識が遠のく感覚に近い。


 この先が危険なのは承知の上だが、いざという時の退路が断たれてしまうかもしれない。僕は考える時間が欲しくなって足を止める。


「わわっ……! どうして急に止まるんですかーっ!」

「あ、ごめんねサクラ」


 どうやら僕が足を止めた事で、最後尾を歩いていたサクラちゃんがそれに気付かずに彼女の前を歩いていたカレンさんにぶつかってしまったようだ。


「レイくん、急に足を止めてどうしたの?」


 姉さんにそう質問される。


「……ん、ちょっとヤな予感がして……」


「ヤな予感? 階段降りたらいきなり魔王が出迎えて来そうとかそんな予感?」


「ううん……多分それは無いと思う。階段降りたらいきなり魔王が居るような隠し通路は流石に無いと思うし……」


 こういう複雑な地下経路が無数に存在する場所なら、おそらくこの先は迷宮のような構造になっているだろう。流石にいきなり魔王と対面という可能性は少ないはずだ。


「……なら、一体?」


「……多分、この先に進むと簡単には戻れない気がするんだよね。姉さん、空気が変わったことに気付かない?」


「空気? ……確かに、妙に息苦しさを感じるわね……。これは瘴気かしら……?」


「かもしれない……それが理由かどうかは分からないけど、意識が薄れていく感覚なんだよね」


「なら、私が”浄化”の魔法で払ってあげる」


 そういうと姉さんは僕と位置を交代して最前列に出る。そして杖を取り出して、詠唱を唱える。


「はらいたまえ、きよめたまえー!!」


「(そんな詠唱だったっけ……?)」


 以前に姉さんが行っていた”浄化”の詠唱文と比べると随分シンプルだ。だが、ちゃんと効果があるようで、身体に纏わりついていた息苦しさが徐々に薄れていった。


「どう? 効果あった?」

「うん」


 浄化の魔法の効果で意識がはっきりしていくのを感じながら、僕は頷く。しかし……。


「……イヤな予感は消えないね。もしかしたら、この先に何か仕掛けがあって退路を塞ぐような結界があるのかもしれない」


 僕がそう不安を口にすると、背後のアカメが不意に僕の手を握る。そして彼女は言った。


「……怖い?」


「……怖くないと言ったらウソになるね」


「……大丈夫、私がいる。仮にそういう結界があったとしても、何かしらの手段はある」


「そう、だね。……うん。ありがとうアカメ」


 僕は彼女の手を握り返してお礼を言った。そして僕は後ろを振り返って他の仲間達に声を掛ける。


「皆、聞いて。この先何が起こるか分からない。もしかしたら魔王を倒すまで戻れなくなるかもしれない。覚悟はいい?」


「……ふむ。可能性はありそうですが……」


「……ここまで来て、引き返せるかって感じですね」


「怖いけど……私も皆に付いて行くよ」


 レベッカとエミリア、そしてルナはそれぞれ同意の言葉を口にする。


「カレンさんとサクラちゃんはどうする?」


「あはは、レイ君は私がそんな程度で尻込みする様に思えるの?」


「サクラは勇者なので、魔王を倒すまで逃げたりしません!」


 カレンさんは冗談っぽく笑ってサクラちゃんは双剣を構えてそう宣言する。どうやら皆、ここで引き返す様な事は考えていないようだ。


 ただ、一人だけ何も話さずに無言で僕を見つめる女の子が居た。


「ノルンは? さっきから無言だけど……」

「……そうね」


 僕が彼女に声を掛けると、返事をして目を瞑る。


「……レイの漠然とした不安は当たってるわ。この先、おそらく一部が異界化してる。ある程度踏み込むと戻れなくなるかもしれない」


「異界化?」


 ノルンは僕の不安を肯定すると同時に、その現象について言及した。


「異界化は、まぁ簡単に言えば空間の隔離ね。瘴気が強くなりすぎると稀に起こる現象なのだけど……おそらく魔王が意図的に起こしてるのだと思う。

 対策が無いわけではないわ。私とベルフラウが居れば、仮に異界に取り残されたとしても何とか戻ってこれるはずよ……臆せず行きましょう」


「分かった」


 どうやらノルンは僕が不安視していた事を察してくれたらしく、異界化について言及した上で付いて来てくれると言ってくれた。頼もしい限りだ。


 僕は頷いて、姉さんに浄化の魔法の再発動をお願いして先へと足へ踏み入れていった。

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