第846話 理想を押し付ける妹

 前回のあらすじ。アカメちゃん超強い。以上。


 魔王城の最上階に進む為に、レイ達は再び魔物達との戦闘を繰り広げながら進軍を再開する。


 ちなみに前回アカメが緊急参戦したが、一応元部下達と戦うのは避けたいようで、基本的には戦いに参加せず後ろから見守っている。が、戦闘が始める度にソワソワし始めて、レイに危険が及びそうになると結局飛び出してくるのであまり意味は無い。


「やっぱりアカメちゃんがいると格段に楽ね」


「頼もしいのはいいんだけど、魔王軍に寝返らないと良いんだけどね……ホント……」

 そんなやり取りが周囲で繰り広げられている中、レベッカは危機に瀕していた。


「エミリア様、わたくしピンチでございます」


「え、突然どうしたんですか」


「アカメ様の事でございます。これまで、レイ様には実妹が居ないと思っていたので、わたくしはレイ様の妹としての立場を盤石のものとしておりました。ですが……実妹がいらしたのならば、わたくしの立場がもはや崖っぷち……風前の灯火でございます……!! 」


「……レベッカ、それピンチですか?」


「何を言っておられるのですかエミリア様、どう考えてもピンチでございます」


 エミリアの問いかけにレベッカは力強く返す。


「今までレイ様は血のつながらないわたくしの事を世界でただ一人の妹として大切に扱ってくださっておられたのは周知の事実でございますが……」


「いうほど周知でしたっけ……」


 エミリアは首を傾げるが、レベッカは続ける。


「アカメ様が実妹と知った今、わたくしはレイ様にどのような顔をしてこれから接すれば良いのでしょうか……!!」


「……普通に今まで通りでいいんじゃないですか?」


「そんなわけには参りません!! アカメ様が妹と分かった以上は、今までのようにレイ様の妹ポジションを享受するわけには……」


「……まぁ、確かにアカメの前では今までのようにベタベタするわけにはいかないかもですね……」


 というか、実妹の出現でレイのそれまでの女性関係のアレコレが色んな意味で修羅場に陥りそうなのが怖い……。


 エミリアは背後からこっそりと付いてくるアカメの視線を感じながらそんな事を考える。


「それで、具体的にはどうしたいんですか?」


「はい、そこでレイ様の元恋人のエミリア様に相談でございます。わたくしの今後の身の振り方のアドバイスを頂きたいのでございます」


 ――ゾワッ!


「(……今、背後のアカメから殺意を感じたんですが……)」


 主に『恋人』発言の辺りで、アカメから恐ろしいまでの殺意を感じたエミリア。


「そ、そうですねー……私としては、今まで通りでいいと思いますけど……」


「わたくしもそうしたいのでございますが、アカメ様の立場を想うと……」


「……レベッカは優しいですねぇ……それなら、本人に聞いてみるのが一番早いんじゃないですかね……」


「本人?」


「……こっちに来てガールズトークと洒落込みましょうよ、アカメ」


 エミリアは軽く後ろを振り向いてアカメにそう声を掛ける。


「……」


 アカメは気配を消したままこちらに近づくと、エミリアとレベッカの間に立つ。


「……何か用?」


「そんな事言って、聞き耳立てていたのバレバレですよ。……で、アカメは私達のことどう思ってるんです?」


「……あなた達は、おに………彼にとって大切な仲間だということは理解しているつもり。彼とどういう関係とか……そういうのに口出しをするつもりは無い……」


 アカメは淡々とした口調でそう答える。


「つまり?」


「……私の事は気にしなくても良い」


「……ということはアカメ様。わたくしは今まで通り、レイ様の妹として接しても問題ないということでしょうか」


「…………………黙認」


 アカメは10秒ほど時間を置いた後にそう呟く。


「つまりはOKという事ですね!!」


 レベッカは嬉しそうにそう言ってアカメの手を握る。


「……気安い」


「あ、わたくしとしたことが……申し訳ございません……」


 レベッカは距離が近すぎた事を反省して一歩後ろに下がってアカメに頭を下げる。


「……私は、あなた達の仲間になったつもりはない。レイがそう望むのであれば、それも吝かではないけど、私はあくまで『彼』の味方なだけ……勘違いしないで……」


 アカメはそう言うと、再び後方へと下がっていった。


「(なんというテンプレなツンデレ……)」


 エミリアは彼女の最後の台詞を聞いてそんな感想を抱く。


「まぁそういうことらしいですよ? 良かったじゃないですか、レベッカ」


「はい、これでわたくしも大手を振ってレイ様の妹として甘えることができます」


「……レベッカ、あなた控えめに見えて結構図太いですよね」


「いえ、そんな事はございませんよ。では、早速レイ様に甘えてきます……レイさま~」


 レベッカはそう言いながら前を歩くレイに後ろからハグをする。


「突然どうしたのレベッカ」


「近頃、レイ様とスキンシップが不足しておりましたので……」


「え、そう? 構わないけど、この後魔王戦が控えてるのに、流石に緊張感と雰囲気が台無しというか……」


「レイ様、魔王如き鎧袖一触でございますよ」


「無茶振りすごい」


 そんなやり取りをしているレイとレベッカを見て、エミリアは軽く息を吐いた。


「(……ま、これで一安心ですかね)」


「……ところで、エミリア」


 突然、エミリアの耳元でアカメの淡々とした声がする。


「ひっ!?」


 エミリアは驚き、声を出してしまう。背後を振り返ると、さっき後ろの定位置に戻っていったはずのアカメがすぐ近くに居た。


「……別にそこまで驚かなくても良い」


「……あ、はい」


「……レベッカがあなたに『レイ様の元恋人』と発言していた件について……事実確認をしたい」


「(あ、こっちはアカメ的にNGなんですね)」


 エミリアは彼女の顔色を見てそう思った。


「……ええと、実は一度彼に告白を受けていまして、それで……」


「……今は?」


「……色々あって関係を解消しています」


「……グレーゾーン」


「(なんでそうなるんですか……)」


「……情状酌量の余地はあるが、余罪の追及をする必要がある」


「余罪!?」


「……私にとっての兄は、女性に対して紳士的かつ、誰に対しても公平平等で、家族には深い情愛を持つつ清い人格であることを望む」


「何その重過ぎる期待」


 コイツ、もしや面白い女か?


「あなたから彼の情報を引き出して、それとなく彼を私の理想に軌道修正しなければ」


「(レイ、逃げてー!!)」


 エミリアは心の底からレイの無事を祈った。

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