第845話 チートキャラ

 前回のあらすじ。

 元魔王軍幹部ことレイの実妹のアカメが仲間になった!!


「……じーっ」


 アカメはレイ達の背後からそっと様子を見ている。


「……」

「……」


 アカメの視線を感じながらレイ達は魔王を倒すために魔王城の奥へ進んでいく。


 しかし彼女の視線がどうしても気になるようで、レイの仲間達は時々背後の彼女の様子を伺いながら彼女の事をコソコソと話し合っていた。


「アカメさん……ずっとこっち見てますねぇ」


「正確には、レイ君だけをずっと見つめているわね……。私達の事はどう見えているのかしら……」


 サクラとカレンはアカメの視線を受けて不快ではないものの、何とも言えない気持ちになっていた。


「レイ、貴方の妹ですよ。何とかしてくださいよ……」


「何とかしてって言われてもなぁ……」


 エミリアにそう言われて、レイは後ろをチラリと振り向く。


「!」


 するとアカメは一瞬で物陰に隠れて、頭のツノだけが少しだけ見えている状態になった。


「恥ずかしがり屋なのかしら……」


「……でも襲ってきた時はどうなるかと思ったけど、本来はあんな普通の女の子だったんだね……見た目はちょっと怖いけど……安心したかも」


 ルナは彼女の事をそう評す。ベルフラウに躊躇なく攻撃をしてきたため、ルナは彼女に警戒心を持っていたようだが、その後のレイとアカメの関係を知って印象が随分変わったようだ。


「……彼女も色々苦労したのでしょうし、大目に見てあげましょう……それよりも……」


「……ええ、皆様、足をお止めくださいまし」


 前を歩いていたノルンとレベッカが急に足を止め、僕達もを止める。


「どうしたの、二人とも?」


 レイがそう尋ねると、二人は黙って魔王城の奥の方を指差す。そこには多数の二足歩行の獣人の魔物達が、人間の様な武装を装備して待ち構えていた。


「……敵!」


 レイ達は武器を構えて戦闘態勢に入る。すると、その魔物達はレイ達に敵意を見せて声を上げる。


「魔王様の敵だ!! 殺せ!!」


 その声と同時に魔物達が一斉に襲い掛かってくる!


「来るよ!」


 レイが仲間達にそう叫ぶと、全員が一斉に動き出す。まずはカレンとサクラが前に出て最初に襲ってきた前衛の魔物達を蹴散らしていく。


 彼女達は複数の魔物が同時に襲い掛かってきても、余裕で耐えきれる防御武装と、剣を使った近接戦闘を得意とする為、アタッカーとしてもタンクとしても役割も非常に強力なこののパーティの主力だ。


 次にエミリアとルナとレベッカが攻撃魔法と弓による中距離射撃で彼女達をサポートしながら後続の敵を次から次へと屠っていく。


 槍による接近戦を得意とするレベッカだが、強力な前衛が何人もいるこのパーティだと槍を使うよりも弓を使って前衛をサポートした方がいいと判断したようだ。


 最後尾にいるベルフラウと後方まで下がったノルンの二人は、束縛系の魔法と回復魔法で戦況を支える。地味な役割であるが、敵の動きを制限しつつ状況に応じて回復や補助魔法で仲間達を支える優秀なサポーターだ。


 そして、パーティの頭目であるレイは司令塔の役割だ。


 彼の勇者としての能力は、危機的な状況でも瞬間的に判断出来る状況把握能力と、仲間に指示を出してその能力を最大限引き出せる指揮力。


 更にエミリアとルナには流石に劣るものの強力な攻撃魔法と、サクラに次ぐ接近戦での戦闘力の高さと総合的な能力も高い。


 だが、彼の聖剣を活用した時の戦闘力はカレンすら凌ぐ。


「―――聖剣技―――聖なる光の輝きディバインレイン


 レイが聖剣技を発動する。すると、聖剣から放たれた光が無数の光の雨となって降り注ぎ、魔物達を一掃する。


「……すごい……」


 アカメはその圧倒的な戦闘力に思わず声を漏らす。


「……これで終わりかな」


 そう言いながら軽く息を吐き、剣を鞘に納めようする。だが、彼は途中で動きを止めて再び剣を構える。


 何故と思うより先に、奥から再び魔物達が出現する。数は先程の倍以上だ。1戦目と同じく敵の武装も整っており、魔物にも関わらず統率が取れて何らかの陣形を取って動いている。


「……連戦ですか」


「前半部よりも罠の数が減っていると薄々感じてはおりましたが、なるほど代わりに兵力を集中させているようでございますね」


「魔王への距離がそれだけ縮まっているって事かしら。お相手さんも必死なんでしょう……何せ、魔王軍の幹部の一人がこちら側についちゃってるわけだしね」


 カレンはそう言いながら背後で見守っているアカメをチラリと見る。


「……」


 アカメはその視線に気付いていたが、特に反応を示さずにレイの方をジッと見つめている。


「……頑張れ、お兄ちゃん……」


 アカメは、多分聞こえていないだろうと思いながら、自身の実兄のレイにエールを送る。


「(お兄ちゃんって言ってる……)」


「(アカメちゃん可愛い……)」


 アカメのレイに対する呼び方を聞いた女性陣がそんな感想を抱いていると、レイは仲間達に指示を出す。


「皆、連戦だけど頑張って戦おう。カレンさんとサクラちゃんは疲労を感じたら中衛のエミリアの所まで下がって、その場合僕が代わりに前線に出る」


「分かったわ」


「りょうかーい♪」


「エミリア、敵が正面からここまで押し上げてきているのは何かの作戦かもしれない。念の為、索敵サーチを怠らない様にしてて。ルナとレベッカは引き続き前衛の援護をお願い」


「中々難しい事を要求しますね。まぁ私なら余裕で可能ですが」


「うん、エミリアちゃんの分まで張り切るよ!」


「了解しましたレイ様」


「姉さんとノルンは敵が固まってる所を狙って束縛系の魔法を中心に戦ってほしい。敵を進軍を妨害した方が効率的だからね」


「OK、お姉ちゃんに任せて」


「その手の戦い方は私の得意分野ね……」


 レイの指示を仲間達はすぐに受け入れて、各々が連携を取って動いていく。


「……お兄ちゃん、強いだけじゃなくて頭もいい……完璧……」


 アカメは、レイの指示出しを見てそんな感想を漏らす。彼女の目にはレイが自身の理想の兄そのものとして映っている。


 ……なお、アカメの独り言はレイの耳にもしっかりと聞こえていた。


「(実妹にカッコいいところを見せるチャンス……!!下手に失敗しない様に気を張っておかないと……!!)」


 レイは心の中でそんな闘志を燃やしていた。彼が無駄に饒舌に支持出しをしているのはアカメの前で格好付けたいが為である。


「さて、頑張りますか……!」


 レイ達は先程と同じように前衛と後衛に分かれて戦闘を開始した。そして、今度は敵の隊列が乱れているのもあり、比較的容易に相手を圧倒していく。


 だが、魔物達も魔王の命令を受けて必死なのか、どれだけ倒しても後続がどんどん現れてキリが無い。


 いくらレイ達が強いといっても体力にはいつか限界が来るというもの。


 今はまだ余裕があるものの、頭目であるレイはこの後の魔王戦を考えて、この場をどう切り抜けるか頭を悩ませていた。


「(……流石に魔王城の魔物だけあって強い……その上、数もあとどれだけ残ってるか分からない……。多少体力を削ってでも大技で一気に突破するか……それとも、一旦撤退して体制を立て直してから再度挑むか……あるいは、逃げると見せかけて追ってきた魔物を待ち構えて各個撃破を狙うか……)」


 一応、レイはこれでもかなりの戦闘経験を積んでいる。


 以前にグラン陛下に戦術眼を評価されていたように、その判断力と少数精鋭を用いたパーティ戦の動かし方は目を見張るものがある。


 だがこの魔王城の敵の強さは、外の魔物と比較しても段違いに強い。故にレイは中々最適な手が打てないでいた。


「(ここで逃げようにも、きっと逃げるのを読まれて待ち伏せされてる可能性が高い……かといって大技を使って相手を一気に倒そうとしても、その隙に魔王が逃げてしまうかもしれない……)」


 レイは必死に頭を回転させて考える。だが、突破口が全く見えてこない。


 ……と、そこでレイ達の前方やや上空から何かが複数こちらに向かって飛んでくる。


「あれは……レイ様、敵の弓兵の攻撃でございます!!」


 動体視力に優れるレベッカがそう叫ぶと、仲間は迎撃すべく攻撃魔法を撃ち出して相殺を試みる。しかし、飛んでくる矢の数が多く、防ぎきれない。


「……く」


 ここで、レイは温存していた先程よりも強力な聖剣技の使用を決断する。このまま遠距離から攻撃を撃たれ続ければ、こちらの消耗がより大きくなってしまうと判断した結果だ。


 だが、レイがそう決断した瞬間、それまで身を隠していたと思われる俊敏な魔物がレイ達の仲間を飛び越して、レイの元へと一気に接近し―――


「っ!!」


 頭を働かせていたレイは、急接近してきた敵への対応が一歩遅れてしまう。その敵は手に持った巨大な鎌を、レイに向かって勢いよく振り下ろす。


「!」


 レイは咄嗟に聖剣を使用した障壁を発動させ防ごうとするが、対応が間に合わない。


 次の瞬間に襲い掛かってくる自身への激痛を耐えようと身構えるが―――


「……お兄ちゃんに、手を出すな……雑兵……!!」


 それよりも早く、後方で見守っていたアカメが割って入り、魔物の首を手に持った剣で一瞬で跳ね飛ばす。


「―――!?」


 レイは一瞬唖然とするが、その間にアカメは次の行動を起こす。


「……消えろ……雑魚共……<混沌たる闇の呪縛>ブラッドカース


 アカメがそう呟いた直後、レイ達に向かって矢や魔法を放っていた魔物達が急に苦しみだし、次々と倒れていく。


「これは……」


「どうなっているの……?」


 その光景を見ていた仲間達は驚きを隠せない。何故なら倒れた魔物達の体が黒く変色し、その体を徐々に蝕んでいるからだ。そしてやがて黒い物質の塊へと変化を遂げるとそのままドロドロと溶け出し消滅していく……。


「……アカメ、何をしたの?」

 突然の事で驚いていたが、魔物達の様子を見て冷静さを取り戻したレイは彼女にそう質問する。


<混沌たる闇の呪縛>ブラッドカース……肉体よりも対象の魔力の分解して魔力ダメージを与える攻撃魔法……。

 魔物は大半部分が魔力で構成されている魔力生命体だから、この攻撃が有効……この魔法は敵の魔力構造にダメージを与えてその構造を乱し、存在そのものを崩壊させるもの……。つまり、これは私のお兄ちゃんへの不埒な行為に対してのお仕置き……」


 アカメはそう言いながらレイを守る様に彼の前に立ち塞がり、残った魔物達を睨みつける。


 しかし、元々敵側に位置していたアカメは当然魔物達にその正体を知られており、彼女の正体を知る魔物は彼女を見て憤慨して叫ぶ。


「貴様……魔軍将アカメ……裏切ったのか!!」


「魔王様を裏切るとは……!! 貴様は魔族の恥さらしだ……!!」


「勇者レイと勇者サクラの前に、裏切り者のあの女が標的だ……やれぇぇぇ!!!」


 そんな叫びと共に、残った魔物達が一斉に攻撃魔法をアカメに集中させて放ってくる。


「アカメ、僕の後ろに下がって!!」


 レイは大事な妹を守るためにそう叫んで彼女を下がらせようとするが、アカメは首を軽く横に振って


「大丈夫」と小さく呟く。


 そして、彼女は一歩前に出て、自身へ飛んできた無数の攻撃魔法を睨みつける。


「―――その程度の魔法は通用しない」

 彼女がそう言うとアカメの瞳が怪しく輝く。すると次の瞬間、彼女に放たれた攻撃魔法の数々が一瞬で消失する。


「なっ……!!!」


「馬鹿な……!!」


「今、一体何が……」


 魔物達が動揺する中、カレンが叫ぶ。


「レイ君、今よ!!」


「!! 皆、総攻撃を掛けて一気に突破しよう!!」


「了解!!」


 カレンの声を聞いたレイは、即座に指示を飛ばして仲間達に攻撃を指示する。既にアカメが無力化している魔物達との戦闘は非常に楽だった。特に大きな被害を出す事なく戦闘を終えることが出来た。


 そして、敵の連戦を終えてホッと一息付くと、レイは言った。


「……あぁー、アカメにカッコいいところ見せたかったんだけどなぁ……むしろ、僕がアカメの強さに驚かされちゃったよ」


 レイは脱力して彼女にそんな事を言った。そんなレイに対して、アカメは少し照れたように頬を染めて言った。


「……ううん、お兄ちゃんも凄く格好良かった……強いし、賢いし、凛々しいし、格好いいし……」


「いやいや……それは身内贔屓が過ぎるよ。僕はそんなに凄くないって」


「……お兄ちゃんはもっと自分に自信を持つべき……本当に凄いんだから……」


「うん、ありがとう。アカメがそう言ってくれると自信が湧くよ」


「……ふふふ……」

 そんなやり取りをする兄妹を見て、他の女性陣は思う。

「(((あぁ、やっぱりブラコンなんだ……)))」


 敵の時は底が知れない難敵だったアカメも、実の兄の前では年相応の女の子らしい姿へと変わる。


「……ところで、さっき魔物達の魔法を無効化してたみたいだけど、何をやったの?」


「……あれは、私の所有する魔眼の力で―――」


 アカメはそう言ってレイに説明しようとするのだが、その前にエミリアが割り込んで言った。


「”破邪の魔眼”……自身の視界に入った魔法を無効化し打ち消す効果があります。元々習得率が極端に低い魔眼カテゴリにおいても、その効果は上位の代物じゃないですかね」


 エミリアはアカメが喋り終わる前に説明を補足する。


「……私が言おうとしたのに……」


 アカメは不満そうにエミリアをジト目で睨みつける。


「エミリア、詳しいね」


「彼女と戦った時に、その魔眼の能力に苦戦させられましたから……本当、魔法使いの天敵ですよね、それ」


「……否定はしない」


「そんな凄い魔法が使えるんだ……凄いね、アカメ」

「……そんな、大した事は……」


 謙遜するアカメだが、レイは彼女の手をギュッと握りしめて彼女を見つめる。


「ううん、アカメは凄いよ。それにさっきもアカメに助けられた……本当にありがとう……」


「……ぁ………うん………」


 アカメは顔を真っ赤に染めて、小さく頷く。


「((……本当、天然の人たらし……))」


 そんな二人のやり取りを見て、女性陣はレイに対してそう思った。

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