第840話 彼女の真実
「私は……彼と同じく異世界から転生した存在」
アカメは傷付いた右肩を手で抑え片膝を付いた状態で、まるで全てを諦めたかのようにポツリと語り始める。
「……彼? 彼ってもしかして……?」
「……レイ様の事を仰っておられるのですか?」
レベッカの問いに、アカメは表情を変えずに小さくコクンと頷く。
「そして、私は……本来、生まれるはずだった彼の『妹』……」
「……! レイ様の……親族なのですか」
「嘘……?それじゃあベルフラウさんの姉妹でもあるの!?」
アカメの言葉に、カレンは驚きに目を見開く。
「いえ、カレン様。ベルフラウ様とレイ様は血は繋がっておられないので、関係性としては姉妹ではございません」
「あっと、そうだったわね……そもそもあの人、元は女神様だったって話だし……」
カレンはレベッカの説明を聞いて、頭を掻きながら誤魔化すようにそう呟く。
「でも、”生まれるはずだった”ってどういうこと……?」
「……私は、彼の母親のお腹の中に宿って、本来であるならレイとは双子として生まれる予定だった。……だけど、その直前で私はこの世界に無理矢理転移させられて、全く別の夫婦の子供として生を受けた……」
「……そんなことが」
カレンとレベッカはアカメの言葉に聞き入ってしまう。今まで敵として認識していた彼女が、まさか自分達の想い人であるサクライレイの妹だと誰が想像しただろうか。
「……その事をレイ様はご存知なのですか?」
「……まさか。彼は自分の妹が居たなんて知るわけもないし、母親だって生まれてすらいない私を認知していたかも怪しい。……当然、私が『妹』だと彼に名乗っても信じてもらえるわけもない」
アカメは、悲しそうな表情でこう続ける。
「……いえ、それも違う。私は、単に本当の事を言って彼に拒絶されるのが怖かった……。
私のこの姿を見てそんな事言っても信じてくれるわけがない。きっと彼から見た私は、人間とも魔物とも言い難い気味の悪い化け物にしか思えないでしょう……」
「アカメ……」
レベッカは同情するようにそう呟くが、カレンは納得のいかない表情を浮かべる。
「……彼との関連性は分かったけど……。でも何故アンタは純粋な人間の姿じゃなくて悪魔みたいなツノと翼を持ってるの?
いえ、それだけじゃない。何故アンタがこの世界に転移したのかが未だに読めないわ。理由を聞かせてくれるかしら」
カレンはアカメにそう尋ねる。すると、彼女は小さく首を横に振る。
「……幼い頃に魔王軍に誘拐されて人体実験されたからよ。私を浚ったあの骸骨の男が言うには『転生した人間がどういう工程を辿って身体を作り替えられたのか、その身体を調べさせてもらう』……と言っていた」
「そんな事が……」
「骸骨の男って……もしかして魔軍将ロドクの事? あいつ、そんな非道なことをやっていたのね……」
「……結果、私は人間とも魔物ともつかない半端な姿になってしまった。ただ、私はそれほどあの男を恨んではいない」
「それは何故?」
「実験の見返りとしてロドクが今まで研究で得た知識を私も共有出来たのが理由。ロドクは次元の門を通じて並行世界を渡り歩く為に召喚魔法という太古の技術を完璧に再現し、そこから失伝魔法とされていた魔法をいくつか再現して私に教えてくれた」
「貴女がロドクの得意とする<召喚魔法>や<重圧>を扱えていたのは、それが理由だったのですね」
レベッカが納得したように頷く。
「……そして何より、私がどの世界から転移したのかも男は全て調べ上げて私に教えてくれた。人体実験で辛い思いはしたけど、私にとって十分な対価を得たから恨みは無い。……それに、
「……アンタがなんでそんな姿をしていて魔王軍側にいる理由は納得出来たわ」
「ではもう一つ……何故、貴女はこの世界に転移することになったのでございますか?」
「……それは」
レベッカの質問に対して、アカメは答えようとするが、すぐに口を噤んでしまう。
「――ここからの話は、私が話すわ」「!!」
レベッカ達が話をしていると、彼女達の後ろから聞き覚えのある女性の声がそう言った。同時に、その声を聞いたアカメの顔が怒りに歪む。
「……その声!」
アカメがそう叫ぶと、そこに居たのはレイの義姉であるベルフラウの姿があった。彼女の傍には寄り添うようにルナとノルンの姿もある。
「ベルフラウ様!!」
「良かった、無事だったのね……!」
逆にレベッカとカレンは、彼女の無事な姿を見て安心したような表情を見せて彼女に駆け寄る。
「二人とも心配させてごめんね。ノルンちゃんとルナちゃんのお陰でどうにか助かったわ」
ベルフラウは二人に優しく笑い掛けながら治療された自身の腹部を手で摩る。
そしてスッと表情を戻して、怒り目で自身を睨んでいるアカメと視線が合う。
「……一応、『はじめまして』で良いのかしら? 貴女はどういう経緯か私の事を知っていたようだけど……」
「……女神ベルフラウ……お前のせいで……私は……私は………!!」
「……」
ベルフラウはアカメの言葉に一瞬顔を曇らせたが、すぐに普段通りの凛とした表情を取り戻す。
「ベルフラウさん。どういうことなの、彼女、随分と貴女を恨んでいるようだけど」
「分かってるわ、カレンさん。この話は落ち着いてからレイくんだけに話すつもりだったのだけど……」
ベルフラウはそう言いながらカレンとレベッカの隣に立つ。
そして、今もなお片膝を付いて右肩から血を流しているアカメを見下ろす。
「……いいわ、話しましょう――」
ベルフラウはアカメと名乗る彼女に何があったのか語り始めた。
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