第839話 キャットファイト(敵を交えて)
ベルフラウがなんとか目を覚まして命を取り留めていた頃。
カレンとレベッカは襲撃してきた最後の魔軍将アカメ激戦を繰り広げていた。
「はあっ!!」
「やあっ!!」
カレンとレベッカは息の合ったコンビネーションで、アカメの攻撃を捌きつつ互角以上に渡り合っていた。
「――く」
アカメはレベッカから飛んできた無数の矢を躱したところでカレンに接近され、それをどうにか手持ちの剣でガードする。
だが、一撃ガードしたところでカレンが更に追撃の剣技を放ったところでアカメは後方にバックステップして距離を取る。
「―――ち、ウザい。……
流石のアカメも戦闘力の高い二人に同時に攻め込まれると厳しいのか、アカメは空を飛んで黒の剣を振り上げると、自身の真下から黒い魔法陣が出現する。すると、そこから大きなトカゲの姿をした黒い影が数体出現する。
「また召喚魔法ね……今度は大きなトカゲ……その前はヘビ……よくもまぁレパートリーが尽きないものね」
カレンは舌打ちをしながら目の前の魔物達を見据える。
「これで十八体目でしょうか……いつまでもストックが切れないのは大したものでございますが……」
レベッカは顔に疲労を滲ませて弓を構えながらそう呟く。
「ベルフラウさん大丈夫かしら……」
「ノルン様とルナ様がいらっしゃいますから大丈夫かと思われますが……っ!!」
レベッカはそう言いながら上空でこちらを見つめるアカメに視線を戻し、矢を三発解き放つ。
「―――無駄」
冷たい声と共に放たれた矢は、アカメの身体に触れる前に黒い霧となって消えてしまう。
「くっ……!!」
「あの技……確かロドクが使ったものよね。召喚魔法といい、しっかり技術を引き継いでいるじゃない」
「あちらも以前より強くなっていると考えた方が良さそうでございますね……」
「そうね、でも関係ない―――わ!」
カレンは一息つくと表情を切り替えて一気に駆け出す。そして、アカメが召喚した魔物に瞬時に接近すると剣を一薙ぎして黒いトカゲ達を纏めて両断した。
「……!」
魔物達が一瞬で撃破されたのを見たアカメは僅かに表情を歪める。カレンはそのアカメを睨みつけて言い放つ。
「随分と雑魚ばかりに頼るじゃない、アカメ。……ああ、別に文句を言ってるわけじゃないわよ。私とレベッカちゃんを同時に相手にしてアンタも余裕なんて全く無いものね。
途中で雑魚を召喚して体力回復の時間を稼ぐ必要があるのは戦術的に必須なのは理解してるわ。ええ、好きなだけ召喚して頂戴。アンタのストックが無くなるまで付き合ってあげるわ」
言うまでもなくカレンの挑発である。
だが、アカメは表情一つ変えずにカレンの言葉に反論する。
「……下らない挑発。私が戦うまでもないと判断して部下に任せているだけ……その程度の事も分からないなんて……」
「あら、それはどうかしら? 少なくとも召喚魔法無しの貴女よりは私の方が強いと思うけど」
「……お前達はただ強いだけ。目の前の敵を倒すだけに固執してその先が見ていない。私程度に手間取ってるお前達では……」
「なんですって……?」
カレンは眉を顰めるとアカメに剣を向ける。
「随分と遠回しな言い方するみたいだけど、アンタ、さっきから何が言いたいの?」
「……別に。私にとってはこんな戦いに何の意味もない……命は奪わないであげるからそこを退け。私が用があるのはあの忌まわしき女神、ただ一人……」
そう言いながらアカメはこちらに手を向けて静止する。
すぐに攻撃してこないところを見ると、今の言葉は嘘ではないようだが……。
「……分からないわね。真っ先にベルフラウさんを狙ったのも不可解だったけど、アンタはベルフラウさんに何の用があるっていうの?」
「……」
アカメはカレンの質問に答えず、手からベルフラウを不意打ちしたレーザーをカレンに向かって放つ。
「くっ!!」
だが、真正面からの攻撃であれば反応速度に優れるカレンであれば反応するのは容易い。即座に後ろに下がってその攻撃を回避する。
「何の用がある……ですって? ええ……分からないでしょうね。大切な家族と引き離された気持ち……そして、その元凶に復讐したいと考えるこの感情……。温かい家庭で育ったお前達には……理解できるはずもない」
「……一体、何の話?」
「分からなくていい。元々、理解してもらうつもりなど無い……だから、そこを退け」
アカメはそう言って再び手から黒いレーザーを放つ。
「……っ! もう、話しても無駄みたいね……!!」
カレンはそのレーザーを剣で斬り払うと一気に駆け出す。
「レベッカちゃん、援護をお願い!」
「承知致しました」
カレンの言葉に頷きながらレベッカは矢継ぎ早に矢を放つ。だが、その矢もアカメの展開した魔法陣によって無力化されてしまう。
だが、アカメがレベッカに注意を割いたことでカレンに対しての警戒が薄れてしまう。そこでカレンは一気に空に向かって跳躍し、アカメの頭上に躍り出る。
「!?」
上空にいるアカメは近付いてきたカレンを迎撃する為に剣を構えて、黒い斬撃を放つ。が、単純なオーラの出力に関して言えば、カレンはアカメよりも上の実力だった。
「聖剣技――
「っ!?」
放たれたカレンのオーラの聖剣技がアカメの放った黒い斬撃を相殺する。そして、そのままアカメに向かって剣を振りかぶる。
「ちぃ……!!」
アカメは舌打ちをして、急激に地上に降下することでカレンのその一撃を回避する。だが、カレンもそれは織り込み済みだった。
「レベッカちゃん、頼んだ!」
「承知致しました!」
地上で弓を構えたレベッカがアカメに向かって矢を放つ。
「っ!!」
アカメは矢を迎撃するために魔法陣を展開しようとするが、先程から何度も使っていることもあり、すぐには魔法陣の展開が出来なかった。
そして、放たれた矢は寸分違わずアカメの右肩を貫く。同時にレベッカの矢に圧されてアカメの身体が大きく吹き飛び、その身体が地上に落ちる。
「っぐ……!」
アカメは何とか着地するが、すぐに体勢を立て直すことが出来ず片膝を着いてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「もう終わりよ。大人しく投降しなさい」
カレンが剣をアカメに向けてそう言い放つが、彼女はそれでも諦めずに立ち上がる。だが、左腕で傷付いた右肩を抑えており、明らかに戦える状態では無かった。
しかし、それほど弱っているアカメの戦意はそれでも消えていなかった。
「……私は、私から全部を奪ったあの女に……復讐を………」
カレンやレベッカの視点からすれば、今のアカメは誰かを恨みながら復讐に駆られているように見える。
レベッカは彼女のその様子に困惑しながらも、一つの考えに行きつく。
「……アカメ、その女とは……まさかベルフラウ様の事……なのですか?」
「……そうだと言ったら?」
「わたくしが知る限り、ベルフラウ様が貴女に報復を受けるような事をなさるとは思えません。ですが、貴女の鬼気迫る様子を見るに、嘘を付いているようにも……」
レベッカが困惑しながらそう尋ねると、アカメは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべて睨みつけてくる。
そんな様子を見て呆れたカレンは、警戒を解かずに武器を構えたままレベッカに言う。
「……もう戦える余力は無さそうだけど放置するわけにもいかないわね。
こいつを縛り付けて情報を引き出す? それとも、この場でトドメを刺す?コイツは難敵よ。下手に逃せば何を仕出かすか分かったもんじゃないわ。……というわけで、私は後者をおススメするけど?」
カレンの言葉にアカメは表情を歪めると、剣を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる。
「……いえ、カレン様。彼女は既に死に体……トドメを刺すまでには至りません。それより――」
レベッカはそう言いながら<限定転移>で弓と矢を虚空に消失させて、アカメの方へ歩み寄っていく。
「……詳しい話を聞かせていただけませんか? 貴女とベルフラウ様……そして、貴女が何処か執着しているように思えるレイ様……一体、どのようなご関係なのですか?」
「……」
レベッカがそう尋ねると、アカメは沈黙する。しかし、しばらくするとポツリポツリと語り始めた。
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