第838話 彼女のコト

 サタンとの戦いが終わったレイ達は、武器を収めて仲間達と合流する為に魔王城を彷徨っていた。


「しっかし、あのサタンとかいう奴。死んだと思ってたのにピンピンしてましたね。レイ、手を抜いたわけじゃないですよね」


 レイの後ろを歩くエミリアにからかい気味にそう言われて僕は立ち止まってエミリアの方を向く。


「む……! 手なんて抜くわけないだろ……? 大体、エミリアも僕がアイツを倒してたところ見てたと思うんだけど?」


「まぁそうなんですけど……」


 エミリアは苦笑して話す。すると、二人の話を聞いてたサクラが言った。


「あ、もしかして前に戦った死霊術使いのアンデットさんが何かしたんじゃないですか? ほら、アンデットして蘇らせたとか……」


「あり得るね、サクラちゃん」


「それか、魔王が蘇生させたとかですかね。まぁどうでもいいですけど」


「どっちみち倒してるしね……。……あ、そういえばサクラちゃんは大丈夫? 結構アイツの攻撃を受けていたように見えたけど?」


 最終的に圧勝したため弱い印象があったが、一応それまでサクラちゃんと一騎討ちしていた時は強力な魔法と宝玉による攻撃でそこそこ苦戦していたように見えた。


「あ、全然大丈夫です! わたし、強いですし!!」


 サクラちゃんは笑顔でそう言ってグッと右腕で力こぶを見せるポーズをする。


「……まぁサクラちゃんなら問題ないか」

 何ならあのまま一人で倒しちゃってた可能性が高いくらいだ。


「……ですが、私達に襲いかかってきたということは、ベルフラウ達にも刺客を差し向けられている可能性が……?」


「あっ」


 エミリアに言われて僕は気付いた。確かに僕達がサタンと戦っている最中に、向こうにも敵が襲ってきている可能性がある。


「……もし、襲い掛かってくるとしたら、残った最後の魔軍将―――」


「ええと、確か名前は……”アカメ”……でしたっけ?」


「ええ……」


 サクラちゃんが呟いた名前にエミリアが同意する。


「(……アカメ、か)」


 魔王軍の中では最も人間らしい少女の姿をした魔物の少女。いや、そもそも彼女は魔物なのだろうか?最初に会った時は彼女は素顔を隠していたがその雰囲気は人間と変わらなかった。


「(どうして彼女は、あんな危険を冒して僕に接触してきたんだろう)」


 最初の会った時は、闘技大会の予選。その次は、魔王軍が王都を襲撃してきた後に僕に会いに来た。その時の彼女は、僕に敵対する様子もなく僕を戦いから遠ざけるように提案をしてきた。


 ……彼女の目的は一体……。


「……レイ?」


「……ああ、ちょっと考え事……。あの子、一体僕に何の用事があったのかなって……」


 その時は、カレンさんを傷付けられた怒りで彼女に敵意しか向いてなかったのだが、今思えば彼女は妙に僕を気に掛けていた。


 闘技大会の時なんて再会しなければちょっと変わった女の子としか思わなかっただろう。


「レイさんも変な人ですねー。カレン先輩を傷付けたんだからただの敵に決まってるじゃないですか」


「……そうだよね」


 いつも通り明るいサクラちゃんの声。だが、何処かいつもより語気が強めのような気がする。


「そうですよー! 魔王軍の味方をする人なんて大っ嫌いです!! 」


「……そうだね」


 僕はそう返すと再び歩き始める。


「(……でも)」


 そんなサクラちゃんの言葉で、僕の考えは少しだけ変わった。


『(……でも、本当に彼女は敵なんだろうか?)』


 そんな考えが僕の頭を過るのだった。


 ◆◇◆


 一方、ベルフラウ達は―――


「ベルフラウ、しっかりして……!!」


「……う」


 普段のノルンの平坦な声とは違う焦った声で目を覚ましたベルフラウは瞼をゆっくりと開ける。


 最初に見えたのはノルンの顔、そして彼女の隣には泣きそうな表情のルナの顔があり、ベルフラウのお腹の辺りに手を当てて何かをしているようだった。


 どうやら自分は横たわっているようだ。何故そうなったのかベルフラウ自身に全く覚えが無かった。


「……ノルンちゃん……ルナちゃん……」


「!!」


「ノルンちゃん、ベルフラウさんが!!」


 ベルフラウの意識が戻ったことを確認して二人は安堵する。


「私は一体何を………く……」


 ベルフラウは身体を起こそうとするが、腹部に激しい痛みを感じて起き上がることが出来なかった。


「ベルフラウさん、動いちゃ駄目!」


「ベルフラウは敵の不意打ちを受けて重症を負っているのよ。今、動くとお腹の傷が開いてしまうわ……」


「不意打ち? 一体誰に……?」


 ベルフラウがそう尋ねると、ノルンは首だけ動かして左を向く。ベルウラウはそこに何かあるのかと思い、痛む腹部を押さえながらそちらを向こうとするが、ノルンに制止されてしまう。


「見ない方がいい。今の貴女は血を流し過ぎた」


「え……?」


 ノルンはそう言ってベルフラウの身体をゆっくりと横に向かせると、再びお腹に手を当てる。すると、その部分からじんわりと温かい熱を感じ始める。

「……これは?」


「私の回復魔法……。貴女はね、背後から熱線を撃たれて腹部に20センチくらいの穴を開けられたのよ」


「……っ!」


「即座に傷を治療しないと出血多量で死んでしまうところだったわ。私一人じゃ治療が間に合わなかったかもしれない……ルナが手伝ってくれてギリギリって感じね……」


「ベルフラウさん、もうちょっとで終わるはずだから今はジッとしてて……!」


「わ、わかったわ……ごめんね……二人とも」


 ルナにそう言われてベルフラウは力を抜いて横になり、そのまま目を閉じた。

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