第836話 ナナシの敵さん
【視点:レイ】
分断された仲間達と合流する為にレイ、サクラ、エミリアの三人は魔物達に見つからない様にコソコソと魔王城を動き回る。
だが魔物だらけのこの城の中で魔物と遭遇しないように動くなど至難の業だ。
最初の方はエミリアの忠告もあって焦りを抑えていたレイとサクラだったのだが、時間が経つにつれて徐々にアラが出て雑な動きをし始めていた。
結果、どうなったかというと……。
「もう面倒だし、出会った敵を全部薙ぎ倒せばいいんじゃないですか?」
「よし、それ採用!!!」
「……(怒)」
結局、殲滅しながら進めばいいじゃんという完全に短絡的な結論に至った。
当然だが、慎重に動きべきと僕達に注目していたエミリアが納得するわけなく、僕とサクラちゃんはエミリアの渾身の杖アタックを頭に喰らって悶絶するのであった。
「あいたぁ!? エミリア、何するのさ!?」
「二人が短絡的な結論に至ったからでしょうが! そんな行き当たりばったりな作戦で本当に上手くいくと思ってんですか!?」
「れ、冷静なエミリアさんが凄く怒ってるぅ!!」
「ここが何処だと思ってんですか、魔・王・城ですよ!!
敵の総本山!! この城の何処かに世界の敵である魔王が潜んでるかもしれないんですよ!! だというのに肝心な勇者がこんな考えなしじゃ一生世界なんて救われないじゃないですか!!」
「……ごめん」
「……は、反省してますぅ」
エミリアの剣幕に思わず謝る僕とサクラちゃん。
「……はぁ、分かってくれたなら真面目に行動してくださいね……。あーあ、カレンが居てくれたら私もこんなに苦労しなかったのに……」
エミリアはそう呟いて、ここには居ないカレンさんに思いを馳せる。だが、すぐに表情が真顔に戻って言った。
「……冷静に考えると、カレンも最終的にごり押しでの解決を得意としてたような……」
……うん、確かに!!
「えっへん! カレン先輩はわたしの剣の師匠ですよっ! やるときはやるんですっ!」
「それは今関係ないでしょうが!!」
何故か得意げに語るサクラちゃんに、エミリアの怒りの杖アタックが炸裂する。もう完全に僕達は魔物達から隠れるという目的を忘れてしまっていた。
「……はぁはぁ……とにかく、カレン達と合流すれば、後は何とかなるはず……」
「そうだね。早く皆と合流……」
「!!」
次の瞬間、僕達の頭上から黒い何かが飛んでくる。それが敵からの攻撃だと本能で察知した僕達は、即座に散開してその攻撃を躱す。
「く……」
「何者だ!!」
僕は魔法が飛んできた方向に向けて大声を上げる。そこには、悪魔の翼を生やした人の眼鏡を掛けた優男が冷たい目でこちらを睨んでいた。
「……お前は!」
「……久しぶりといっておこうか。しかし、仲間達と逸れたというのに、敵地のど真ん中で仲間割れとは……やはり人間は愚かと言わざるおえないね」
男はそう言って身に付けた眼鏡をクイッと上げる。
「……誰?」
サクラちゃんは初対面な為、彼を見て戸惑ったような反応だ。
「サクラ、コイツが例の奴ですよ」
「……他の冒険者達さん達を不意打ちで襲ったっていう……!!!」
「……」
男は無言で僕達の会話を聞いている。僕は即座に剣を男に向けて言った。
「お前、何故生きている? あの時、僕が止めを刺したはず……!!」
「……トドメか。確かに、私は雷龍捕獲の任務の最中に貴様らに邪魔をされ、最後は貴様の神の
……だが、運よく私は生き残れたのだよ。そう、魔王様の加護によってな……!!」
男はそう言いながら全身に黒いオーラが迸っていく。そのオーラは男の身体を包み込みながら、徐々に悪魔の様な容姿に形を変えていく。
「わわわ、何ですかあの人!? 人間みたいな格好だったのに、如何にも魔物みたいな身体に変態していきますっ!!」
「(それは変身の間違いでは……)」
※変身も変態も意味は同じです。
「この姿は、魔王様の加護によって授かった新たなる力だ……! これで貴様らを抹殺するッ!!」
「ぐ……!」
男の魔力が跳ね上がったことに警戒した僕は咄嗟に防御魔法を発動する。次の瞬間、男の魔法が発動し巨大な黒い炎が僕達に襲い掛かった。それをエミリアの防御魔法で何とか防ぐ事に成功する。
「……危なかった、油断してた……!」
以前に戦った時と比べて明らかに魔力が上がっている。どうやら奴の言う”魔王様の加護”というのも嘘ではないらしい。
「見た目通り強そうな相手ですね! それで、この人何者ですか!?」
「……」
「……」
サクラちゃんの質問を僕とエミリアをスルーして武器を構えて敵の動きを警戒する。
「(やっぱり名前が思い出せない……魔軍将?だっけ?)」
「(……正直、どうでもいい相手なので記憶の隅にすっ飛んでいってます……)」
「え、レイさん? ……あっ(察し)」
サクラちゃんは僕達が難しい顔をしているのを見て察したようだ。
「……よし、皆! 目の前のコイツを倒すよ!!」
名前が思い出せないので、とりあえずそれを悟られない様に勢いで押すことにした。
「ほぅ……いいだろう。魔王様の力を得たこの私の力を見せてやろう!!」
こうして、僕達と謎の男との二度目の戦いが幕を開けるのであった。
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