第835話 敵の罠に嵌る勇者一行

 他の冒険者と別れて更に魔王城の先へ進むレイ達。しかし、冒険者達の助言通りに先の道は険しく、沢山の罠や強力な罠が待ち受けていた。


「居たぞ、勇者達だ!!」

「!!」


 罠を掻い潜りながら慎重に先に進んでいると突然大勢の魔物が正面から襲いかかってくる。


 僕達は周囲の罠に掛からない様に動き、魔物達と交戦を始まるのだが、戦いが長引くほど敵がどんどん集まってきて挟み撃ちにされてしまう。


「か、囲まれたわね……!!」


「不味いな、この状況……」


 数が多いだけなら対策のしようがあったかもしれないが、背後から迫ってくる敵に対応する余裕が無い。これだけの数に囲まれてしまうと仲間を守り切れる自身もないし、僕自身の体力が持たずにいずれ力尽きてしまう。


 ……だが、様子が変だ。


「(どういうわけか敵が積極的に攻撃をしてこない)」


 これだけの数がいれば一斉に攻撃を仕掛けてきてもおかしくないはず。そうなればこちらも消耗覚悟で敵陣を突破するくらいの手しかない。


 なのに敵はまるで壁を作るように一か所に集まってこちらの動きをけん制しているようだ。


「一体何を企んで……」


 僕が敵の手の内を何とか読もうと必死に頭を回転させる。だが、サクラちゃんが大声で叫ぶ。


「皆さん、一旦逃げましょう!あっちの通路だけ魔物さんの数が少ないです!!」


 サクラちゃんが腕を突き出してそちらの方向を指差す。すると、仲間達は頷いて即座に駆け出す。


「っ!!」


 考えるのは後回しだ。今はサクラちゃんの言葉通り、この囲いを突破するのが先決だろう。そう思い僕も皆と一緒に駆け出した。


 ◆◇◆


【パーティ1:レイ・サクラ・エミリア】


 それから10分後、僕達はどうにか魔物達の追跡を躱して、魔王城の一室に身を潜めていた。 

 

「―――はぁ、はぁ……」


「大丈夫? エミリア」


「はい……何とかぁ……」


「ビックリしましたねぇ……でも、この後どうしましょうか、レイさん?」


「そうだね……」


 サクラちゃんにそう質問されて、僕は思考を巡らせる。


 意気揚々と魔王城の奥へ進んだ僕達は、目の前に現れた魔物達と戦っている間に挟み撃ちを喰らってしまい、途中にあった分かれ道に逃げ込んだ。


 そこまでは良かったのだが、僕達が入り込んだ通路にも罠があったらしく、突然壁が動き出して僕・サクラ・エミリアの三人だけ他の皆と分断されてしまって窮地に陥ってしまった。


 なんとか壁を破壊して合流しようと考えるが、魔物達に邪魔されてそれどころじゃない。このままでは消耗戦になってしまうと考え、仕方なく僕達はその場から撤退を選んだ。


 そして、今に至るというわけだ。


「魔物達を振り切ったのはいいけど、皆と分断されちゃったね……」


「うぅ……ごめんなさいぃ……わたしが余計な事を言っちゃったせいで……」


「サクラのせいじゃないですよ。というよりあの魔物達、明らかに私達をそっち誘い込もうとしてましたし……今思えば罠だったのは明らかです」


 思い返してみるとあの魔物達は、僕達を倒すというより何処に追い立てるような雰囲気を感じた。何か企んでいるとは思っていたけど、まさかこんな戦法で僕達を追い込んでくるとは。


「とにかく皆と合流しよう。このままバラバラじゃ僕達も危ないし、皆だって心配してるはずだ」


「ですね! ……でも、皆が何処に居るか分かりませんよ……?」


「あ、そっか」


 サクラちゃんに言われて気付いた。合流するにしても別れた仲間が何処に行ったのか分からない。

 あれだけの敵に囲まれて交戦するとは考えにくいが、ここは一度戻って確認を取った方がいいかもしれない。


 もしかしたら僕達を探して周囲を散策してる可能性もある。

 

「一度別れた場所まで戻ってみる? もしかしたら僕達を探してるかもしれない」


「ですね、そうしましょう!」


 僕の意見にサクラちゃんは賛成してくるのだが、エミリアが待ったを掛けてくる。


「いえ、待ってください。今戻るとまた魔物達と遭遇する可能性がありますから、少し様子を見た方が良いと思います」


「う……でも」


「こちらは三人だけだから動くの得策ではありません。逆にあちら側はまとまって行動しているのであれば、数の面で戦力が充実していますし、一旦自分達の安全を確保すれば、時間を置いてから私達を迎えに来てくれるはずです。今、無理に動いて危険を冒すのは逆効果ですよ」


「そ、それは……そうかもだけど……」


 エミリアの意見は至極真っ当なものだった。こういう時、僕は視野が狭くなる傾向がある。どうしても仲間の安否が気になって焦ってしまうのだ。


「エミリアさん、じゃあ私達は何もしないでここに?」


「ええ、すぐ動こうとすると魔物達と鉢合わせしてしまう可能性がありますからね」


「で、でもでもぉ……わたし達三人ならその辺の魔物なんか楽勝ですよ! ねぇ、レイさんもそう思いません?」


「うーん……」


 サクラちゃんに問われて僕は咄嗟に答えられずに言い淀む。


 エミリアが言っていることは正しいけど、正直皆と早く合流しないと不安だ。それにサクラちゃんの意見も一利ある。


 正直な所、今まで戦った魔物達は強敵ではあるのだけど、まともにやり合って負けてしまうとも思えない。先程のように大勢に同時に襲われてしまえば危険だろうけど、それでも気配を消して動けばどうにでもなるはずだ。


「……エミリア、僕のサクラちゃんと同じ意見なんだけど」


「えー……? サクラならともかく、レイまでそんな安直な判断を下すのは予想外……」


「ぶーぶー! わたしは安直じゃないですよーだ!」


 エミリアが不満そうにそう呟くと、サクラちゃんが頬を膨らませて抗議する。


「……仕方ないですねぇ。レイとサクラは私達パーティの最高戦力ですし、よっぽどの状況じゃない限り何とかなるでしょう」


「じゃあ?」


「……リスクはありますが、二人の気持ちも理解できなくはありません。ですので私の指示に従って動いてくれるのであれば許可します」


「分かった。エミリアの指示に従うよ」


「……言質取りましたからね。では、今すぐ出ていくとまた魔物達に遭遇する恐れがあるので、まずは5分待ちましょう」


「うん。分かった」


「やった! エミリアさんありがとう!」


 僕とサクラちゃんはそれぞれ感謝の言葉でエミリアにそう伝える。するとエミリアは苦笑して「やれやれ」と呟いて、帽子を深く被って目元を隠すのだった。

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