第833話 皆を助けよう
休憩を終えて更に魔王城の奥へ進む僕達。
奥へ進むごとに敵と戦う頻度が多くなっていき他の冒険者達の姿もよく見るようになってきた。だが、敵が強いのが理由か、傷だらけで倒れている冒険者達が彼方此方に居るのも珍しくはない。
広間に出ると、十人近くの冒険者達が地に伏せて倒れていた。周囲は瓦礫の損壊が激しく、かなり激しい戦いがあったようだ。倒れた冒険者達はボロボロで、何人かは辛うじて息があるようだ。
僕達は、一番近くで倒れていた人に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
そう言いながら倒れた男性冒険者の肩を揺らす。すると反応があり、僅かに手がピクリと動く。倒れている冒険者の恰好に見覚えがあった。以前、本戦で戦ったことがある相手だ。
「うぅ……」
「この人……確か闘技大会に出てた……? ……姉さん、お願い出来る?」
「酷い傷……魔物にやられたのかしら……。待っててね……
地に伏せてうめき声を上げている冒険者に、姉さんが回復魔法を掛けて傷を癒やす。
「おぉ……体が動く……」
「これでもう大丈夫なはず……動けます?」
「ああ、助かった……。おや、レイじゃないか。お前たちもここまでやってこれたんだな」
僕の事に気付いたのか、陽気な雰囲気で彼は声を掛けてくる。
「アルベルさん、久しぶりですね」
彼の名前はアルベル。西部劇に出てくるようなガンマンのようなカウボーイハットを被ったおじさんだ。剣と片手銃を器用に使いこなす戦士で、闘技大会で戦った時はかなりの強敵だった。
「ああ、しかしこんな情けない形で再会することになるとは……」
やれやれと、アルベルさんは床に落ちていた帽子を被り直して立ち上がり、全身の埃を払い落とす。
「悪いがベルフラウさん。他の仲間達も助けてやってくれないか。その辺に倒れているはずだ……何人かはもう駄目かもしれないが、今助ければなんとか持ち堪えるかもしれない」
「!! 分かった。なるべく急いで回復させるね」
姉さんはそう言って急いで他の倒れている人達に駆け寄っていく。
「レイ、貴方も怪我人の手当てをお願いします」
「分かった。ルナとノルンも回復魔法使えるよね。手伝って貰っても良い?」
「うん」
「……人命が掛かってるわ。それぞれ分担してやりましょう」
僕とルナとノルンも姉さんに加勢して、怪我人の回復を手伝っていく。
「サクラとカレンもお願いできますか? 二人は瓦礫で埋まっている怪我人を助けてあげてください」
「了解よ」
「大変! サクラも全力で救出任務に向かいます!」
カレンさんとサクラちゃんもエミリアの指示に頷いて怪我人を助けに向かう。エミリアとレベッカは回復魔法が苦手な為、怪我を治療して動けるようになった冒険者達から情報収集することを選んだようだ。
「一体、何があったんです?」
冷静な口調でエミリアはアルベルさんにそう尋ねる。
「俺達は複数の冒険者パーティと連携をしながらここまで進んだんだ。正直、限界が近いと感じて、そろそろ引き返そうかと思ってたんだが……」
「……だが?」
「……突然、上が真っ暗になったと思ったら、見た目人間みたいな姿の男が空に浮かんでいて……そいつが急に魔法で俺達を襲撃してきたんだよ」
「人間の姿?」
「ああ、だが本当に人間かどうか分からない。そいつは『魔王様がお怒りだ』とか『真の悪魔の前では、キミ達ただの人間などモノの数にも入らない』だのとほざいていてな……」
「!? ちょっと待って下さい。今、何て言いました!?」
「魔王がどうしたとかどうのとか、人間をモノ扱いするようなことを言っていたが……それがどうかしたのか?」
「……いえ」
アルベルの言葉に、エミリアな妙な胸騒ぎを覚えた。
「(何処かで聞いたようなセリフ……だけど、アイツはずっと前にレイに……)」
一方、レベッカの方は―――
「お怪我の方は大丈夫でございますか。フレデリカ様」
ノルンの治療によりなんとか上半身を起こした女性の身体を優しく支えながらレベッカは質問をする。フレデリカは「よっこいしょ」とレベッカに支えされながらなんとか立ち上がる。
彼女もアルベルト同じく以前の闘技大会の参加者だ。本戦のベスト8残るほどの実力者であり、並み居る強豪の中で唯一、素手での戦いと得意とする武術家である。
「あはは、完膚なきまでに負けちまったよ。いやぁ、アタイもまだまだ力不足ってこったねぇ」
頭を掻きながらバツの悪そうな表情で笑うフレデリカ。
「フレデリカ様ほどの実力者であっても倒されてしまうとは……」
「でもアイツは卑怯者だ。アタイ達は一旦引き返して態勢を立て直すかどうか相談してる時に、いきなり空からドッカーン! と来たもんだ!! 見た目人間みたいな輩だったがありゃ人間の匂いがしなかった。多分変身魔法か何かで中身は魔物なんだと思うさ。それも多分ドエライ強い奴だね」
「変身魔法……それは厄介な相手でございますね」
「アンタ達もこの先に進むつもりかい? 気を付けなよ。そいつ、自分が四魔軍将がどうの言ってたし、多分魔王軍でもそこそこ地位に居る奴じゃないのかい?」
「四魔軍将……? ですが、殆どの魔軍将は既に倒されているはずでございますが……」
「そんなの知るもんかい。アタイ達には敵が何だろうがブチ倒して魔王を討ち取らなきゃならないんだから。なら相手が魔軍将だろうが四天王だろうが関係ない。だろ?」
「ふむ、道理でございますね」
「それよかアンタ」
「?」
フレデリカはまじまじとレベッカの顔を見る。
「アンタ、以前と比べて雰囲気が変わったね。何かあったかい?」
「そうでございますか? わたくしは以前と何も変わっておりませんが……?」
「いいや、アタイは勘が良くてね。アンタ自身気付いちゃいないようだが、なんかオーラが違っている。どっかで面白い力でも手に入ったのかい?」
「……ふむ」
フレデリカにそう問われて、レベッカは自身の小さな胸を抑えて思案する。
「(……フレデリカ様の仰る通り、最近のわたくしは何かが変わった気がいたします……。常に何処からか力が流れ込んでいるような……)」
「まぁ、アンタ達なら何とかなるだろ。お前さんの恋人のレイもいるんだろ?」
「こ、恋人……!?」
レベッカは思わず大声で叫んでしまい、周囲の視線が集中してしまう。そして、慌ててレイに聞こえていないか確認するが、彼は他の怪我人の手当てをしている最中で、こちらの話は聞こえていなかったようだ。
「ななな、何故わたくしがレイ様の恋人になるのですか!?」
「違うのかい? アタイの勘ではアンタはあの少年に惚れているんだろ?」
「……そ、それは合っておりますが……その……」
「ああ、そういうことかい。まだ付き合っちゃいないんだね、あはは。アタイとしたことが、どうやら余計なお世話を焼いちまったようだ」
「いえ、お気になさらず……」
レベッカは顔を赤らめながら内心ドキドキしているのだった。
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