第832話 殆ど真実
見張りの最中。
話に夢中になってるレイとベルフラウの二人だったが……。
「………」
彼ら二人を背後から見つめる一つの影があった。
「……っ」
だが、影は何も言わずにそのまま走り去っていく。レイ達はその事に気付かないまま仲間の所へと戻っていった。
レイとベルフラウが仲間の所へ戻っていくと―――
「―――実はレイって女装癖がありまして、私達が居ないところでは普通に可愛い着てるんですよ。知ってました?」
「ええっ!? 私、そんなの知らないよ……!?」
「意外ね……あの子、男の子にしては妙に可愛いから似合わない事は無さそうだけど、そんな趣味が……」
「で、実は本当に女の子になったこともありまして……」
「え、嘘?」
「嘘じゃないですよ。ルナも知ってますよね?」
「あ、うん。それは本当だよ、ノルンちゃん」
「……見たいわ」
僕が居ない間にエミリアがルナとノルンにとんでもない事を吹聴していた。
しかもノルンは壁にもたれ掛かって眠っていた筈なのに、今は目を見開いて食い入るようにエミリアの話を聞いてるし。
「って、何を言ってんだこらぁぁぁぁ!!!」
「げっ……もう帰ってきたんですか……もうちょっと見張りしてても良かったのに……」
エミリアはバツが悪そうにそう言って僕と目を合わせない。
「ねぇ……レイ、エミリアの言ってたことって本当?」
さっきまで眠っていた筈のノルンが僕に疑惑の眼差しを向けてくる。
「いや、全くもってデタラメだから信じないでほしいかな……」
「え、事実よね」
「余計な事言わないでよ姉さん!!」
折角デタラメということでこの場を流そうと思ったのに!!
「……えっとね、ノルン。少なくとも、僕に女装癖なんて無いからね。それだけは誤解だよ」
以前に姉さんに女装させられた経験は確かにある。
だが、あれは強引に言われたから仕方なくやっただけで僕の意思じゃない。
ちなみに、その時に女装させられた洋服店は自分の教え子のセラちゃんのお父さんのお店だという事を後で知って絶望した。
「……ということは、他は全部本当ということ?」
「……」
僕の訴えは無情にも伝わりませんでした。いや、他は否定できないのは確かなのだけども。
「レイが、可愛い服が好きっていうこと?」
「い、いや……そういうわけじゃなくてね? やめて、普段眠そうな目ばかりしてるのに、こういう時だけキラキラした目向けるの本当に止めて」
ノルンは普段表情が薄くて、あまり感情を表に出さない子なのだが、こういう話は興味を示すらしい。
「ねぇ、レイ。魔王討伐終わったら、レイに着せたい服があるのだけど」
「絶対に着ないからね!?」
「………レイ、私のこと嫌いかしら?」
「嫌いってわけじゃないけど、その服は着ないよ!?」
「……」
「わ、分かったから……魔王討伐を終えて、全員無事に生還したらね……?」
「約束よ」
ノルンはそう言ってニコリと笑うと、普段の細めに戻った。
「(あ、これ絶対言わされたやつだ)」
普段しないノルンの表情に僕はそう思った。
「……レイ君」
僕の背後からカレンさんの声が聞こえて、肩を軽く手でポンと叩かれる。
「それ、死亡フラグよ」
「……」
はい、確かにそんな事言いましたね。ええ。そして、さっきの話を僕よりも先に聞いていたらしいカレンさんも、何故かノルンと同じような目で僕に訴えかけてきた。
「……」
「……」
「レイ君、私のドレス」
「着るからそれ以上言わないで」
「おっけー」
そんなテンポの良いやり取りをした後、僕はエミリア達の元へ。
「魔王討伐のモチベーションが下がるようなことしないでくれるかな!?」
「ごめんなさ……ぶふっ」
謝ってる途中で吹き出したエミリア。絶対こうなると分かってて言ったに違いない。
「というか、本当に女の子になったことは否定しないんだね……」
「ルナ、話を蒸し返さないで!! ノルンが思い出して変なこと言ってくるから!」
「大丈夫。しっかり聞いてるわ」
何も大丈夫じゃなかった。完全に把握されてる。
「レイ、今から女の子になれる?」
「なってたまるか」
女装とTSネタはもうこりごりだ。
「コホン……皆様、まるで男性とは思えないレイ様の愛らしい姿を想像して盛り上がっているところ恐縮でございますが……」
レベッカは咳払いをしてエミリア達に注意を促す。
「そろそろ休憩を切り上げて奥へ進みましょう。わたくし達は、この城の奥に待ち構える魔王を倒すという使命がございますゆえ……」
「「「………」」」
そういえばここ、魔王城でしたね。
魔王が居ようと居まいと、僕らはお弁当を食べながらピクニック気分で雑談に花を咲かせに来たわけでない。多分……。
「皆十分休んだよね。さぁー皆立って! 張り切って魔王をしばいちゃうぞー」
「皆、大変です。レイのテンションがおかしいです」
誰のせいだよ。完全にエミリアのせいだよ。まさか魔王討伐当日に女装ネタでイジメられるとは思わなかったよ。
こうして、僕達は休憩を終えて魔王討伐任務を再開するのだった。
「……レイ様、ところで」「ん?」
休憩を終えて歩き出すと、レベッカがトテトテと僕の方へ歩いてくる。
「……休憩中、敵意に近い妙な気配を感じたのでございますが、見張りの最中に何かありませんでしたか?」
「妙な気配……」
レベッカにそう言われて、僕は休憩中の事を思い出す。特に気になる気配はなかったような……。
……待てよ? 姉さんと話をしている時に何か……。
「……言われてみれば…………視線を感じたような」
「……成程」
レベッカはそれだけ言うと、僕との距離を詰めてくる。そして僕だけに聞こえる距離で彼女は言った。
「お気を付けくださいまし。ただの魔物ならば即座に襲い掛かってくるところであるはずなのに、襲いもせずに遠巻きから伺うということは何らかの意図があるやもしれません」
「……レベッカは、その気配に心当たりが?」
「……一つだけ。ですが、確証はございません。もし、仮にその相手が襲ってくるのであれば……」
「大丈夫、その時は僕が―――」
「―――いえ、レイ様ではなく、わたくしが対応致します」
「……!」
僕はレベッカの言葉に目を見開いた。
「もし、その相手がわたくしが想像する”敵”であるのならば、おそらく”敵”もレイ様と交戦を避けたいと思っているはず……」
「……僕と戦うのを嫌がってる? ……それは僕に勝てないからってこと?」
「……いえ、実力に関してはまだ完全に把握しきれておりませんが、強さとはまた別の理由があると思われます」
……なんだろう。レベッカの意図する言葉に妙な胸騒ぎがする。
”敵”は僕を伺ってたというのに、その敵は僕と戦うのを望んでいない……。それは一体……。
「―――二人とも」
「「!」」
僕とレベッカがコソコソと話し合っていると、カレンさんが神妙な表情でこちらを伺って歩いていた。
「カレン様?」
「少し気になってちょっと盗み聞きさせてもらったわ……。レベッカちゃん、その”敵”の対応は、私とレベッカちゃんの二人でやりましょう。おそらく、レベッカちゃんでも確実に勝利を見込めるかは怪しいわ」
「……ふむ」
「ちょっと待って。その言い方だと、カレンさんもその”敵”に心当たりがあるって事?」
「レイは気にしなくていい……大丈夫、私達に任せて。貴方に負担を掛けさせる気はないし、今度こそ負けないから」
「……今度、こそ?」
その言い方はまるで、以前に負けたような言い方に聞こえてしまう。
「……もしかして、その相手って……」
僕がその”敵”の心当たりを口にする前に、カレンさんは目を鋭く細めて言った。
「レイ君、今は魔王を倒すことだけに集中して」
「ええ、レイ様に余計な心配をさせるつもりはございません」
「二人とも……」
二人にそう言われて僕は押し黙るしかなかった。僕は、彼女達の覚悟を信じて今は魔王討伐に専念する事にした。だが、僕の胸のモヤモヤは晴れないままだった。
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