第829話 テンション上げて行こう
魔王の城にて。ついに敵の本拠地に乗り込んだレイ達。
そこに敵の姿はなく、レイ達の目の前には変わり映えのしない城の広い廊下が続いていた。それが罠であることに気付いたレイ達は仲間を相談しながら脱出を試みるのだった。
「では、これから
「私もサポートするわ」
エミリアがそう言って魔法陣を発動させると、ノルンが彼女と同じ魔法を発動させて同時に<索敵>行う。
索敵の魔法で何をするかというと、全方位に魔力を飛ばして壁に反射させて地形の把握を行うのだ。分厚い壁に向かって魔力を放つと行き場の無い魔力は戻ってくるが、もし壁の中に空洞がある場合は魔力が素通りする。その素通りする場所を二人は調べようということである。
二人が<索敵>の魔法を使用してから三十分……。
ノルンが魔法を中断して、隣で魔法を発動させ続けているエミリアの手を軽く引っ張る。
「どうしたんですか?」
「……感知できた。ここからそう遠くない場所よ」
場所を把握出来たノルンは僕達に声を掛けてから歩き出す。それから五分程歩いたところでノルンは歩みを止めて右の壁の方を向く。
ノルンは右腕を突き出して、そおーっと壁の方へゆっくりと歩いていく。彼女の右手の先端と壁が接触するかと思われたが、彼女の突き出した右腕は壁を通過し何の抵抗も無く壁の向こうへ行ってしまった。
「僕達も行こう」
僕達は頷き合ってノルンの後を追う。僕達も同じように壁に手を突き出して歩くと何の抵抗もなく壁の中へと進んでいく。
そして、壁の向こう側に出ると、そこにはノルンがこちらの方を向いて僕達を待っていた。そして、彼女の横には今まで散々破壊した悪魔の彫像が一体置かれていた。
「お待たせノルン」
「構わないわ。それより……」
ノルンは僕の言葉に頷いてから隣に設置されている彫像に視線を移す。
「隠し通路の先にまだ彫像が置かれていたなんて……」
「ね、予想通りだったでしょ」
僕の呟きにカレンさんは誇らしげにそう言った。僕はカレンさんを横目で見て軽く苦笑して頷く。そして再び彫像に視線を戻す。
「これを破壊すれば先に進めるのかな?」
「どうかしらね……怪しい場所なのは間違いないと思うのだけど……」
僕の疑問に姉さんが肩を竦めて答える。
「じゃあ、サクラちゃんよろしく」
「はいは~い♪」
僕が声を掛けると彼女は機嫌良さそうに双剣で彫像に斬りかかる。
バキィィッ!! と鈍い音が響いて、サクラちゃんが斬った彫像は簡単に砕けてしまう。
「さてさて、壊しましたけどぉ」
サクラちゃんは手慣れた動作で双剣を左右の鞘に納めて呟く。
彼女がそう言ってから数秒後―――
……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
「……嫌な予感がする」
「こ、怖いよ……サクライくん……!」
ルナはそう言いながら僕の服の袖をギュッと掴む。僕とルナが不安に感じていると、彫像の砕けた残骸から突然魔力の光が浮かび上がる。そして、その光は徐々に大きくなっていく。
「皆! 下がって!」
僕は皆に呼び掛けて警戒態勢を取る。皆は僕の警告に従って急いで後ろに下がったのだが、完全に避ける前に光が一際大きく瞬いて視界が真っ白になった。
次に目を開けた時、目に飛び込んできた光景は全く違うものだった。
「ここは……」
気が付くと、さっきまでの普通のお城の光景から一転して、そこは古びた廃墟のような場所だった。
周囲は崩れた壁と瓦礫が目立ち、天井も一部欠けているのだが、そこから見えるのは夜空ではなくて真っ暗な闇だった。
「無事に脱出出来たって事かな……」
「そうね……さっきまでの光景より、今のこの不気味な場所の方がよっぽど魔王城らしいわね」
僕の呟きにカレンさんが反応して答えてくれる。
「もう夜なのでしょうか……」
「時間的に考えればおかしくないですけど……あの砕けた天井から見える夜空……不気味ですね……なんというか……」
「うん……怖い」
レベッカとエミリアは夜空を見ながら呟き、ルナも少し震えながら夜空に視線を送る。僕もそんな3人に同調するように頷いた。
「……怖がってる場合じゃないわ。さっきまでの場所は多分は偽物だとしたら、おそらくここが真の魔王城よ。……覚悟はいい?」
そう言ってノルンが僕達に確認する。
「勿論」
「ここまで来て、逃げるなんて選択肢は最初っからないですよ」
当然だが僕達全員頷く。魔王城に乗り込んだのだ。今更逃げるはずがない。
「よし、行こう!」
いつもより気迫を込めて言葉にする。
そして僕達は真の魔王城の奥へと足を踏み入れていったのだった。
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