第828話 永続ループ罠

 それから1時間程掛けて僕達はゆっくり捜索を行う。


 悪魔の彫像が怪しいのは間違いのだけど、それ以外にも途中にあった部屋の扉やその他オブジェクトなどに何かしら仕掛けが無いかしっかり調べていった。


 結果としていくつか分かったことがあった。


 最初はエミリアとルナの報告だ。


「まず、通路で見掛けた扉のある場所は全部ただの飾りでした」


「エミリアちゃんと調べ回ったけど、どれも壁の上に扉が張り付けられてるだけっぽいよ」


 扉をノックした時に、先が空洞であれば多少なりとも衝撃を吸収するし音も反響する筈だが、どの場所も無音で硬い壁のような感触だった。つまり扉は部屋があるように見せかけた偽物ということになる。要するにこの一本道以外に進む選択肢は最初から無かったという話である。


 次に僕、レベッカ、サクラちゃんだ。


「戻る時に敵の気配が無いかサクラとレベッカの二人に協力してもらったけど気配は全く無かったよ」


「はい、レイ様の仰る通りでございます」


「わたしたち前衛組は<心眼>の技能である程度周囲の気配を感じ取れますからね。ですけど、それっぽい気配はなーんにもなかったです」


 一人だけの場合索敵漏れやブレが生じやすいけど三人で行えばある程度正確に感知可能だ。

 だが、気配があるのは僕達だけで意外の気配は何も感じなかった。魔王城の中だというのに魔物一匹も居ないというのは不気味過ぎる。


 ここは意図的に魔物を配置していないのか、それとも……。


 そして最後はノルン、姉さん、カレンさんの結果報告。ノルンが代表して話を行う。


「……最後は私達ね。どのあたりからループが発生するか調べたのだけどおおよそ3キロの範囲だったわ。それ以上進むと初期地点に戻されてしまうみたい。ループ地点にある悪魔の彫像を調整しながら破壊したから目星をつけるのは意外と簡単だった」


「ループが始まる以前の場所に戻ることは出来た?」


「無理ね。初期地点から更に後退しようとしたのだけど、途中から不自然に足が進まなくなるの。それでも強引に進もうとすると意識が遠くなって気が付くと初期地点に戻ってたわ」


「そっか……」


 ノルンの話を聞くかぎりではごり押しで逃げ出す事は不可能なようだ。僕が考えていると姉さんは言った。


「ところで皆は彫像をどれくらい壊した? 数のカウントは取る約束よ?」


「私達は悪魔の彫像を全部で30破壊しておいたわ」


「多くない?」


 僕はそう突っ込むのだが、カレンさんは涼しい顔で続ける。


「認識した瞬間に私が破壊したから見逃しは無いはずよ」


「カレンさん本当に容赦ないから……」


 姉さんは苦笑して話す。


「えっと……僕達は全部で22だったよね」


「はい、間違いございません」


「エミリアさん達は?」


 サクラちゃんがエミリア達にそう質問する。


「私達は全部で12でしたよね、ルナ?」


「うん……」


 エミリアの報告と聞いて僕達はどれだけの彫像を破壊したか合算する。


 ベルフラウ&カレン&ノルン組は30。レイ&レベッカ&サクラ組は22。エミリア&ルナ組は12。最後にサクラが壊した最初の1を足すと、合計65の彫像を破壊したということになる。


「……だけど、僕達は未だにここから脱出できないね」


 最初の一つ目を破壊した時に一瞬視界が揺らいだため、間違いなくこの彫像が関係しているのは間違いない。だが、僕達が把握した全ての彫像を破壊したにも関わらずそれ以上の変化は起らなかった。


「……うーん、もしかして僕達が気付いていないだけで、全部破壊したと同時に脱出口が何処かに出現してるとか……ない?」


「……見た感じ変化は無かったわ。細かく調べていれば些細な変化はあったかもしれないけど、ノーヒントでそれを見つけるのは困難ね」


 僕の考えにノルンは冷静に返してくる。


「……では、何が足りないのでしょうか? 彫像以外にも怪しいものはありましたか?」


 エミリアは僕達に質問して僕達を見渡してくるが、残念ながら僕達も彫像以外に特に怪しいと感じるものを見つけることが出来なかった。


「……何も無さそうですね。……あー、じゃあ何がダメなんでしょう? もしかして時間制限があって、それまで突破できなかったからアウト……なんて展開だったら洒落になりませんよ?」


 サクラちゃんがそう言って頭を抱える。僕も同じ意見だった。もし、そんなトラップが仕掛けられているとしたら、残り時間はそう多くない事になる。


「落ち着きましょう、サクラ」


 エミリアはそんなサクラちゃんを宥める様に言う。


「まだ時間はあるわ。だから慌てずに考えましょう?」


「はいー……でもでも、他に何があります?」


 サクラちゃんの疑問に僕達も頭を捻って考えるが……。


「実は見逃しがあって、まだ壊してない彫像が残っているとか?」


「可能性的にそれはありそうよね、レイ君」


「だけど、一本道だからまず見落としなんて考えられませんよ。私達、かなり慎重に調べてましたし」


「……それ言われたら反論できないんだよぁ」


 エミリアの言葉に僕は肩を落とす。


「でも、何か見落としている可能性は否定できませんよ。もう一度、彫像を調べてみましょう」


「そうだね。今度は見逃しが起こらない様に全員で行動しよう」


 そして、更に1時間後――


「……3回ほどループしたのに見つからなかったね」


「……うー、同じ光景ばっかり見てて、頭が変になっちゃいそうですぅ……」


「でも、見落としは無いはずよ。全員、何度も指差し確認して彫像が完全に壊れていることを確認したでしょ」


 ノルンは淡々とした口調でそう言うが……。


「……じゃあ、彫像を全部破壊するのが脱出の条件として考えても、最後の一つだけ敵の手の内にあるとか……?」


「そんな事になってたら、私達詰んでない?」


「だよねぇ……」


 僕達はいつの間にか悪魔の彫像のループから脱出の条件に付いて話し合っていた。だが、一向に脱出の糸口が見えない。


「……実は何処かに私達が知らない脇道が存在する……とか」

「……!」


 姉さんの言葉に僕達は一瞬反応するがすぐに冷静になる。


「姉さん、それこそ可能性は低いよ」

「でも、それくらいしか……」


 姉さんも意見が煮詰まってきているため、発想を変えようと言ってみただけなのだろう。だが、カレンさんが言った。


「いいえ、レイ君。ベルフラウさんが言った可能性は十分にあるわ。

 よく考えてみて。私達はずっと同じような通路を延々と彷徨って、壁の隅々をずっと調べたわけじゃない。あくまで彫像を見逃さない様にしてただけでしょ。

 例えば、パッと見は他の壁と同じようにしか見えなくても、だまし絵のように脳を錯覚させる巧妙な隠し通路が存在するとしたら……」


「う……嘘ですよね……?」


 サクラちゃんが恐る恐るカレンさんに聞く。すると、彼女は首を横に振る。


「いいえ、そうと決まったわけじゃないわ。私もただの仮説よ」

 

だが他に脱出の糸口がない以上それが本当であるか検証する他ない。正直言えば疲労も溜まってきているので出来れば早く脱出はしたいのだ。


 僕達が意見を交わし合っていると、ノルンはふと気付いたように質問してきた。


「……ねぇエミリア? 貴女、<索敵>サーチの魔法使えるわよね?」


「ええ、使えますが……」


「”索敵”の魔法って、基本的には”心眼”と同じく気配を察知する為に使うものだけど、規模を広げれば地形の把握だって不可能ではないわよね?」


「……あ!」


 ノルンはそこまで言うと、エミリアは察したように目を見開く。


「魔法でこの通路を調べてみましょう」


 ノルンの一言でこれからどうするか即決で決まった。

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