第824話 ハッピーエンドのその先だけ考える

【視点:レイ】


 ドラゴン達の背を見送ったレイ達は無事に魔導船に戻る。そして待っていた仲間達にドラゴン達の脅威は去ったとレイは伝えた。


「もうドラゴン達の事は大丈夫です。あとは魔王城に攻め込むだけですね」


「素晴らしい成果じゃないか! しかし、どうやってあれだけの数のドラゴン達をこの短時間で蹴散らしたんだ? いくらキミ達が強くともこれだけの短時間で対処しきれる相手では無かったように思うが……」


「ええと……」


 クロードの質問にレイは困ったように笑う。


「待て、クロード。実は部下に様子を見させていたんだが……あの竜達を倒さずにどこかに逃がしたと報告を受けた……事実か?」


「……見られてましたか。はい、その通りです」


 僕がそう答えると、グラハムは眉間に皺を寄せてミントさんの方に視線を向ける。

 

「ミント、一体何をやった? あのような誘導が出来るのはお前しかいないだろう? 何故倒さずに逃がした?」


 責めるような口調でグラハムさんは、僕とミントさんにそう質問する。


「そう、怒らないで。私達は、最小限の労力で、強大な敵であるトカゲさん達を対処したのよ。何が問題なの?」


「あれでは確実に戦力を削ったとは言えないだろう。お前が具体的にあの竜達を操ったのかは知らんが、万一があったらどうする?」


「そんなことはならないわ。私の掛けた<庭園魔法>フラワーガーデンはそう容易く解除できるものじゃない。少なくとも数日は時間が掛かるように魔法を掛けたつもり……。それに、仮に解けてもきっと大丈夫」


「……そう言い切る根拠は何だ? 竜種は知性がある。もし自分達が魔法によって操られていたと気付いたら怒り狂ってまた襲ってくる可能性も十分考えられる」


「この子……レイがトカゲさんの一匹と心を通わせたからよ」


 ミントさんはそう言いながら僕の方を見る。


「レイが……ドラゴンと心を通わせた……ですか?」


「へぇ……そんなことが出来たの、レイ君?」


 エミリア驚いた表情を見せ、カレンさんは感心したように言う。


「何となくだけどね……。でもミントさんの言う通り大丈夫だと思うよ。あの子、蹴飛ばしちゃったのが申し訳ないくらい素直な良い子だったから」


「素直な良い子って……ドラゴンですよ? まるで子供みたいな扱いしますね」


「僕よりは年下くらいだと思うよ。……人間に例えるなら大体レベッカと同じくらいの年齢の……多分、女の子?」


「む、わたくしと同じくらいの年頃のドラゴンというわけでございますか?」


「あのドラゴン、女の子だったの?」


 レベッカとルナが何故か少し呆れたような声で言う。あれ、もしかして不味い事言っただろうか?


「……生物学的に言えば『メス』と呼ぶのが正しいのでしょうけどね。彼が言うなら大丈夫なんじゃない?」


「グラハムさん、私の弟の事を信じてくれませんか? これまでこの子のお陰でどうにか私達は切り抜けてこられたんです」


 ベルフラウとノルンが落ち着いた声でそう皆を説得する。


「……分かった、信じよう」


 グラハムはため息を付いてそう言った。

 

「……なら、俺はこの事を陛下に報告してくる。御苦労だったな、レイ。お前たちは次の出撃まで部屋に戻って休んでいるといい」


「分かりました、アルフォンス団長」


「多分、陛下の事だから準備ができ次第すぐに作戦実行するだろうぜ。これが最後の休息になると思うから今のうちにゆっくりしておけよ」


「了解です」


 アルフォンスさんの忠告に僕達は頷く。


 そして、それからしばらくの休息を取った後―――


『皆の者、甲板に集まってくれ。いよいよ決戦だ』


 魔導船内に魔道具によって拡張された陛下の音声が響き渡る。


「いよいよ……だね」


「ようやく魔王城に直接向かうことが出来るわけね」


 魔王城か……遠くから空を眺めている時に見えたけど中はどんな感じなんだろう。


「レイさんレイさん!」


「何、サクラちゃん?」


「最後に円陣組んで気合い入れましょう!!」


「何その体育会系みたいな気合いの入れ方……まぁサクラらしいけどね」


 サクラちゃんの提案にカレンさんは笑って話す。


「……なんか暑苦しいですね、私は嫌ですよ」


「えぇー!? エミリアさん、こういう時に協調性無いと駄目ですって!!」


「サクラのテンションの上げ方はなんか私に合わないんですよ。もっと知的なやり方が良いです。例えば……そうですね。

 ……私、エミリア・カトレット、この雌雄を決する戦いにおいて、皆を勝利へ導くことを誓います……的な誓いを立てるのはどうでしょうか?」


「わぁ、カッコいいですね♪ じゃあわたしもやります!! わたし、サクラ・リゼットは、皆のヒーローとして誰一人欠けることなく魔王に勝つことを誓います♪」


「決戦前の最後のイベント台詞みたいね……じゃあお姉ちゃんも……。

 元女神ベルフラウの名において、あなた達に勝利の祝福を与えましょう……正義の心を持つあなた達にならきっと勝てるわ……頑張りましょうね」


「……では、わたくしレベッカも……。

 ……皆様、ここまでの旅路、わたくしのような未熟者を導いてくださり感謝しております。ですが、わたくしは皆様とまだまだ旅を続けたい。魔王はさぞ強敵でしょうが、それでも今のレイ様やサクラ様、それにここまで旅をしたわたくし達ならば、必ず勝利できると確信しております」


「……れ、レベッカちゃん……カッコいい……!!」


「ふふ……では、ルナ様もどうぞ」


「え!? えっと……」


 ルナは深呼吸してから立ち上がり、緊張した面持ちで皆を見る。


「わ、私は……えっと、その……。私は皆と旅してそこまで長くないけど、皆の事が大好きです……誰一人死んでほしくない……。だから、皆で力を合わせて絶対に勝とうね!!」


「……ええ!」


「わたくし達も、ルナ様と同じ気持ちでございますよ」


「……よ、良かった……。じゃあ、次はノルンちゃんで………」


 ルナはホッとした様子でソファーに座っているノルンに視線を向ける。


「……え、私? ……そうね、頑張りましょうね」


「短いっ……! ……ノルン、もしかして寝てた?」


 僕がそう質問すると、ノルンは目を細めて「寝てないわ」とちょっと不機嫌そうに言う。


「そ、それじゃあカレンさんは?」


「……そうね、私が言いたい言葉は大体皆が言ってくれたし、今更同じ言葉を繰り返すのも………あ、そうだ。レイ君」


「何、カレンさん?」


「この戦いが終わったら、私と改めてデートしましょう。二人っきりでね」


「え、うん。分かった」


「ふふ……約束よ?」


 カレンさんは僕の返事を聞いて満足そうに笑う。だが、姉さんがわざとらしく咳払いしてカレンさんに言った。


「……こほん、レイくんのお姉ちゃんとしてカレンさんにちょっと言いたいことがあるの」


「な、なんでしょうか……ベルフラウさん」


 姉さん、余計な事言おうとしてる……。


「……カレンさんのその言葉、レイ君の世界では死亡フラグって言うのよ」


「……し、死亡フラグ!?」


「そ、『この戦いが終わったら結婚するんだ』とか『ここは私に任せて先に行け』みたいに、今まで出てきた仲間が死ぬ前によく口にする言葉のこと。……それを口にすると大抵の場合、本当に死ぬのよ」


「な……なんて恐ろしい……まるで呪いの魔法ね……!!」


「んな大げさな……」


 だが姉さんの言う事も分からなくはない。創作の話に限ったことではあるけど、確かにそういった台詞を強敵と戦う前に言うと、大抵ロクな事が起こらない。


「ちょっと待って、それじゃあ私は『死亡フラグ』を言ったから死ぬって事なの?」


「ううん、僕がカレンさんを守るから絶対死なせないよ」


「レイ君……」


 カレンさんは僕の言葉を聞いて、胸に手を当ててため息をつく。


「ふふ……やっぱり私、今死んでもいいかも……」


「もう、そんな事言っちゃダメよ、カレンさん」


 そんなカレンさんの態度に姉さんはおかしそうに笑いつつそう呟いた。


「……じゃあ、最後に」


「……そうですね、最後に」


「……はい、最後にわたくし達をここまで導いてくださったレイ様、お願いします」


 姉さん、エミリア、レベッカにそう促されて、僕も皆の前に立ち――


「―――うん、皆の期待に応えられるかどうか心配だけど……」


 僕は最初にそう言って少し考える。そして、自分の中で何を言うか決めてから言葉を紡いだ。


「……皆で力を合わせれば絶対に勝てる。そうなるように僕は頑張る。だから、魔王討伐なんて面倒事さっさと終わらせて、皆でハッピーエンドを迎えようね」

 

 僕はそう言って皆に向かって笑いかけた。

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