第821話 女神様はただ見てるだけ

 前回のあらすじ。

 ジュンさんに仲裁の丸投げされてしまった。


「……あのー」


 僕は恐る恐る険悪ムードの騎士達と四賢者達の会話に割り込む。

 するとクロードさんとアルフォンス団長がこちらに視線を向けて言った。


「おや、目覚めたんだね」


「もう片割れの勇者はちゃんと生きてたか、ちゃんと足付いてるか?」


「いや、人を勝手に殺さないでくださいよ、アルフォンス団長」


 アルフォンスさんの性質の悪い冗談に苦笑しながら僕は話す。


「さっきジュンさんに『揉めてるから何とかしろ』って頼まれましたよ。陛下に休んでもらってる間に随分とこじれてますね」


「仕方ねぇだろ、陛下は久しぶりの戦闘で少々お疲れの様子だ。後は俺達騎士団に任せてくれと言って先に休んでもらったんだ。いざ島に上陸した時は陛下に働いて貰わなけりゃならんからな。で、この程度の露払いは俺達でどうにかしようって話さ、お前も付き合え」


「その結果、仲違いしかけて未だに作戦が決まらない有様だけどね……」


 アルフォンさんの話に横から呆れたようにカレンさんがジト目で呟く。


「うっせぇな、じゃあアンタには何か策があったのかよ?」


「だから私が最初に提案したのよ。レイ君達を呼ぼうって。他の冒険者達はさっきの襲撃でかなり疲労して休んでもらってるし、そもそもあのドラゴン達相手にしてもらうには分が悪すぎる。ならこちらの最大戦力をぶつけて相手を萎縮させるのが最も効果的よ」


「相変わらず女のクセに脳筋思考だな、”元”副団長」


「今度同じ事言ったら、その顔を二度と女が近寄ってこない顔に変形させるわよ、”現”団長」


 カレンさんとアルフォンスさんが睨み合う。最近忘れてたけど、この二人あんまり仲良くないんだよね……。


 そんなカレンさんを見てエミリアは呆れた声で彼女に言った。


「……仲違いがどうの言ってた割に、カレンだって人の事あんまり言えないじゃないですか」


「あら、失礼ねエミリア。私が嫌いなのはコイツだけよ。それ以外の団員のメンバーにはちゃんと慕われてるし、魔法都市の彼らとも仲良くやってるわ」


「……ぐぐぐ、言わせておけば……! いつかマジでリベンジしてやるから、その時に泣いて謝っても許さねぇからな!」


「似たようなこと今まで何回か聞いたわね。それで”現”団長様は私に一度でも試合で勝てたことあったかしら、ねぇ?」


「………っ」


 うわぁ、やばい。カレンさんとアルフォンスさんの間に目には見えない火花が散っている。


「カレンさんの前では、アルフォンスさんも形無しね……」


 姉さんが小さな声で僕にそう言う。


「あの、サクライくん。この調子で大丈夫なの……?」


 ルナは二人の剣幕に圧されて、僕の背後に隠れてそう聞いてくる。はルナを安心させるように微笑んで答える。


「カレンさんもアルフォンスさんも、今は気が立ってるだけで普段はここまで喧嘩はしないんだよ」


「そうなの? サクライくんが言うならそうなんだろうけど……」


 やはり不安なのかルナは困った表情で言い淀む。


「……ともかく二人とも、一旦喧嘩は止めよう? 今はあのドラゴン達をどう対処するか決めないといえないし。陛下の為にもね」


「……騎士を辞めたお前に諭されちまうとは……」


「流石レイ君ね。物事の優先順位を冷静に判断出来てる」


 僕の説得で何とか二人は落ち着いたようで、僕達は改めて作戦会議に入った。


「さっき少しだけ聞いてたんですけど、クロードさん達が飛行魔法を使ってあのドラゴン達を討伐するって話をしてましたよね?」


 僕がクロードさんにそう質問すると、「ああ」と頷く。


「それはクロードさん含む賢者三人で討伐するって事ですか? それともクロードさんの部下の人達も連れてってことですか」


「後者だね。あの数のドラゴン達を相手にするのであれば流石に僕達三人では手が足りない」


「……何なら、俺の部下も使っても構わないが」


 グラハムさんが静かにそう提案をする。しかし、今まで微笑んで成り行きを見守っていたミントさんが、グラハムさんの言葉を聞いて待ったを掛ける。


「……グラハム、それは駄目。あなた達の部下が、一番この魔導船に精通してる。もし、彼らに何かあれば、この魔導船に異常事態を起こした時に、対処が難しくなる……わ」


「……しかしだな。ここであの目障りなトカゲ共ドラゴン達を始末しておけば、その心配も要らないだろう」


「それは、あなたの部下が生き残れた時の話。あなたの部下は、あなたほど強くはない……わ」


「……」


 ミントさんに正論を言われてグラハムさんが黙り込む。


「……クロードもそう。あなたの部下も、さっきの戦いで随分と疲弊してた……でしょ? これ以上酷使したら、彼らの命の保証が出来なくなる」


「う……。それを言われると否定は出来ないね……」


「……そういえば、ミントさんの部下は連れてこなかったんですか?」


 僕は彼女にそう質問する。すると、ミントさんは静かに首を横に振る。だが、それ以上何も言わずに彼女は元の優雅な笑みに戻ってしまった。


「???」


 ミントさんの反応に困惑した僕達はクロードさんに視線を移して、無言で説明を求める。


「ああ、外部の者は知らなくても仕方ないか。彼女は魔法都市エアリアルの四賢者の中で唯一直属の部下を持っていない。彼女の役割は彼女以外には不可能だから、部下が居てもあまり意味が無いんだよ」


「なんですか、その役割って?」


「……ふふ、乙女の秘密……よ」


 ミントさんは微笑みながらそう言った。何そのカッコいい話の逸らし方。


「……となると、クロードさん達が出向いても戦力が足りてないって事ですよね。アルフォンス団長、騎士達は空の上でも戦えるんですか?」


「ある程度はな。大半はここに残って大砲や副砲を使ってサポートしてもらう事になる」


「ちなみに残るドラゴンの数ってどれくらいですか?」


 僕がそう質問するとカレンさんが言った。


「成体級が四、中体級が十一、それ未満が二十ってところね。あくまで見えてる範囲の話だけど」


「成体級が四か……流石に手強いね」


「ちなみにレイ君とルナちゃんが協力して倒したのは別格の竜王級。他にレイ君が単独で倒してたのは中体級一体、成体級二体。私がこの子達を推薦したがる理由が分かるでしょ?」


「……カレン、お間が彼らを推す理由は分かる。しかし、国王陛下に言われているだろう。彼らの力はなるべく温存しなければならないと」


「分かってるわよグラハムさん。当然、彼らが行くなら私も出撃するわ。いざとなればこの身を盾にしてもこの子達を守るつもり」


「……なら、俺達三賢者と、彼らとお前……それに騎士団の一部のメンバー総出であのドラゴンの駆除をすることになるか」


 ……これはかなり労力の掛かる前哨戦になりそうだ。


「……いえ、グラハム、ここは私に任せて、欲しいの」


「ミントさん?」


 今まで大人しかったミントさんが突然手を挙げてそう言った。


「あら、どうしたの? 何か考えでもあるのかしら」


「ええ、私なりに、考えたの」


 そう言ってミントさんはクロードさんに目配せをすると彼は無言で頷く。そして彼女は僕達の方に向き直り言った。


「……レイ、ルナちゃん、あなた達に頼みたい事が……あるの」

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