第820話 険悪な雰囲気に割って入ってこそ勇者(解釈違い)
甲板に出ると、そこにはエアリアルの四賢者三人とグラン陛下の直属の騎士達という珍しい顔ぶれの姿があった。代わりにグラン陛下とダガール騎士団長の姿は無いようだが……。
彼等は僕達が来たことにまだ気付いておらず、こちらに背を向けて空の方を指差しながら議論をしている。
「あれだけ動き回る飛ぶ竜たちを大砲で捉えて仕留めるのは至難だろう。ここは僕達に任せてほしい」
「確かに……私達なら、空を飛んであの竜たちと、正面から戦える、わ……」
「というわけだ。お前達は空を飛ぶことも出来ないだろう。我らに任せてこの魔導船の防衛に専念していてくれ」
三賢者のクロードさん、ミントさん、グラハムさんの三人が魔導船の騎士達にそう説明していた。どうやら彼等もあのドラゴン達と戦ってくれるらしい。だが彼らのその言葉が騎士達には反感を買っているようで、特にアルフォンスさんは強い口調で彼等に反論する。
「おいおい、その言い方はねぇだろ。確かに空の敵と戦うのは得意じゃないが、魔道具を使った空中戦闘の心得はある。アンタ達の技術協力には感謝してるが、あくまで此度の戦いは俺達が主導の作戦だ。あんまり俺達の作戦に口出ししてほしくねぇんだが……」
「だが話で聞いているかぎり、あのドラゴン達に打つ手が無いようじゃないか。キミ達の作戦に口出すつもりは無かったが、あまりにも状況が好転しないのが歯痒くてね」
「今はまだ会議中なんだよ。陛下達とダガール団長は度重なる戦闘で疲労してるみたいだから先に休んで頂いてるが、ここからは俺達自由騎士団が指揮を取らせてもらうぜ」
「……でも、お困り……でしょ?」
「……」
「陛下がお休みの間の指揮代行とあれば、余計に作戦に失敗など許されまい?」
「……っ!」
グラハムさんの言葉に、アルフォンスさんが顔を顰める。だが、反論しない辺り彼の言葉に思う所があったのだろう。そこに話を黙って聞いていたカレンさんが仲裁に入る。
「二人とも落ち着いて」
「ぐ……何だよ、”元”副団長。アンタはこいつ等の味方か?」
「何言ってんのよ、”現”団長。同じ目的の為に肩を並べている同志なんだから味方に決まってるじゃない」
「ち……」
カレンさんの正論に黙り込むアルフォンスさん。
「ふむ、少々話が込み入っているようでございますね」
「騎士団とあの人達、仲があんまり良くないのかな……」
彼らの口論に入って行けず、僕達は甲板から少し離れた場所で彼らのやり取りを見ていた。
「あの女の人……」
「ルナ、ミントさんの事知ってたの? あ、そういえば一応会ったことあるか」
「……う、うん。それとは別にお世話になったことがあって」
「?」
詳しい話を聞こうと思ったのだけど、背後から誰かに僕の肩をポンと叩かれる。僕達が振り向くと、そこには騎士の一人である男性、僕の知り合いのジュンさんの姿があった。
「よ、勇者ご一行。レイの誕生日に呼ばれた時以来だな」
「あっ、ジュンさん」
「ようレイ、相変わらずだな。どうでもいいけど、お前よく会話の最初に『あっ』って言うよな」
止めてその指摘。コミュ障をマイルドに指摘されてみたいで地味に傷付く。
「ジュンさん、お久しぶり。随分と意見の相違が起こってるみたいだけど、大丈夫なの?」
僕が地味に傷付いていると進行を代行してくれた姉さんがジュンさんにそう質問する。
「あー……見ての通りさベルフラウさん。冒険者やお客さん達が居る手前、あまり外に出さないようにしてたんだが、最近になって王宮に入り浸るようになったアイツらと騎士団は折り合いが悪くてなぁ。ああやって意見が割れるのもそう珍しい話じゃないぜ」
「そうなの……ま、察せられるけどね……」
姉さんは今も口論してる彼らの方を遠い目をして見据える。
「ところでジュンさん。サクラちゃんは何処に居るの?」
「おう、あっちで正座してるぜ」
そう言ってジュンさんが指差した先を見ると、そこにはサクラちゃんが強風が吹く中、冷たい床に死んだ目をして正座していた。
「何やってんの、あの子」
「皆が真面目に議論してる中、妙にハイテンションで『わたしに任せて下さい♪』とか空気読まずに、無許可でドラゴンに攻撃を仕掛けようとするもんだからカレンさんが全力で止めてから説教した結果だよ」
「(最近、サクラちゃんの扱いが不憫になってきた)」
基本的に超良い子なんだけどなぁ……。
「あっ、口論の事で忘れてましたけど、どうして僕達が呼ばれたんですか?」
「また、『あっ』って言ったなお前」
「うぐ……それ止めてください」
「冗談だよ……。俺達騎士団とアイツらだといつまでも話が纏まらないから、両方に面識のあるお前達に仲裁してもらおうと思ってな」
「あっ、そういう内容だったんですね。てっきり、僕達がドラゴンをどうにかしろとか言われるのかと思いました」
「(指摘されてからずっと『あっ』って言ってるわね……可愛いから良いのだけど……)」
「……ノルン、僕を見てどうかした?」
「……別に?」
ノルンはプイッと可愛らしく僕から視線を逸らした。
「というわけで、レイ。頑張って話を纏めてきてくれ」
「結構な無茶振りしますねジュンさん」
「悪いな。俺は国王陛下に事情を説明しなきゃならんから、ここは頼むわ」
そう言うとジュンさんは僕に丸投げして船内で休息を取っているグラン陛下に報告に向かった。僕もあの話し合いに混ざるのかぁ……。
そんな僕の心配を余所に、魔導船の甲板では戦闘態勢に移行する為の準備が着々と進められていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます