第819話 知らない天井

「おお、英雄の帰還だぁー!!」


「すげぇな、お前ら!! あんなデケエ化け物を立った二人で倒すなんて!」


「しかもそっちの女の子はドラゴンに変身してたぞ。何者だ!?」


「竜に変身するなんて、一体どんな魔法を使ったんだ?」


 巨竜を倒したレイとルナの二人が魔導船に戻ると、僕達二人は注目の的になっていた。


「うわ……必要以上に目立っちゃった」


「サクライくん……皆がこっちを見てるんだけど……?」


 魔導船に戻って竜化を解いたルナは自分達が注目の的になっていることに困惑していた。


 僕はともかくルナが注目されるのは仕方ない。皆が人間だと思ってたルナが突然竜に変身して巨大な竜相手と死闘を演じたのだから。問題は、今回の件でルナが周囲から変なで見られたりしないか心配だが……。


「いやぁ、細かいことは良いじゃねえか! なんにしろ二人のお陰で危機を乗り越えられたんだからよぉ!?」


「そうさ。二人は俺達の命の恩人だよ!」


「ありがとな! これで何とか立て直せそうだ!」


 皆が口々に僕とルナに対して感謝の言葉を述べてくる。どうやら僕達があのドラゴンを倒した事はあまり気にしていないようだ。


 僕達はホッとしていると、グラン陛下が僕とルナの前までやってきて感謝の言葉を述べてきた。


「……その通り、彼らが何者なのかなど些細な事だ。キミ達二人のお陰でどうにか窮地を脱することが出来た……ありがとう」


「あ、いえ」


「ももももも、勿体ないお言葉です!!」


「ルナ、緊張し過ぎだって……」


 ルナはグラン陛下にお礼を言われてガチガチに緊張していた。そんな彼女の様子に、僕はつい気が抜けて笑みを浮かべていたのだが……。


「………う」


 先程までのダメージが響いたのか、突然身体がフラついて膝を崩してしまう。


「サクライくん!!」


「レイくん、大丈夫!?」


 僕が突然膝をついたことに驚くルナと姉さんの声が聞こえたのだが、僕はそのまま意識を失ってしまった。



 ◆◇◆



「……ここは」


 気が付くと、船内のベッドの上だった。どうやら、誰かにベッドに運ばれて治療されたようだ。怪我をした部分に包帯が巻かれている。


 そして、隣には誰かが居る感覚がある。そちらに顔を向けてみると……そこにはスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てているノルンの姿があった。


「……なんで?」


 考えてみると僕達がエミリアを迎えに行って帰還した後からノルンの姿を見ていなかった。


 あの時はそれどころじゃなかったから気にしている余裕は無かったのだけど、もしかして僕達が戦ってる間、ずっとここで寝てたのだろうか。


「………ん………レイ、おはよう……あなたもお昼寝してたの?」


「いや、違うけど……」


 僕がそんなことを考えていると、隣で寝ていたノルンが目を覚まして大きく伸びをする。


「……よく見たら包帯だらけじゃない? どうかしたの?」


「色々あって大きなドラゴンと戦う羽目になって……」


「ドラゴン?」


「うん、滅茶苦茶大きかったよ。他のドラゴンに突進されて危うく意識を持ってかれそうになったし」


「……そうだったの……ちょっと診せて」


 そう言ってノルンは僕の身体の治療を始める。


「……うん、大怪我してたようだけど、回復魔法によってちゃんと治癒されているみたいね。この治療の仕方は、貴女の義姉のベルフラウかしら」


「そんな事まで分かるの?」


「自然治癒じゃない回復魔法は人によって治療痕がはっきり残ってしまうものなの。その点、ベルフラウは回復魔法に関しては完璧ね。跡が全く残っていないわ」


 ノルンの説明を聞いていると、部屋の外からノックの音が聞こえて人が入ってくる。


「失礼します……あ、サクライくん、起きてたんだね」


「レイくん、何処も痛くない? お姉ちゃん、ちゃんと怪我を治したつもりだったんだけど、まだ痛いところがあったら言ってね」


「元気そうで良かったです……ってノルンも一緒ですか……」


「ノルン様、ここにいらっしゃったのですね」


 部屋に入ってきたのはルナ、姉さん、エミリア、レベッカの四人だった。どうやら心配させてしまったようだ。ただ、エミリアに関してはノルンの姿を見て少し呆れた様子をしていた。


「僕は大丈夫、姉さんの治療のお陰だね。ありがとう、姉さん」


「あ、あれ? なんでお姉ちゃんが治したって知って………あ、そっか、お姉ちゃんの愛の力だね!」


「……いえ、私が彼の身体を軽く診察して推測しただけよ……愛の力って……」


 姉さんのブラコン発言に対してノルンが冷静に突っ込む。そんなやり取りをしていると、皆がそれぞれベッドの周りに集まってきて今回の戦いについて話をし始める。


「それにしてもレイ様、ルナ様、お見事でございました。あれほどの巨大な竜をたった二人で打ち倒してしまうとは……」


「カレンに聞いたんですけど、あの竜は『竜王級』に該当する大きさの基準を超えていたみたいです。もし、冒険者ギルドの依頼で討伐したのであれば相当な報酬を貰えたでしょうね」


「ん、それって龍王ドラグニルと同じくらい強かったって事?」


「肉体の強さだけならそうだったかもしれませんね」


「龍王ドラグニル様は、肉体の強度だけでなく、人間と同じように魔法を使いこなし、人間以上の知性を持っておられたので『竜王級』の中でも別格の扱いだそうです。ただ、今回の竜王級ドラゴンは、知能が低くただ暴れまわるだけでしたから……」


 レベッカがそう言いながら、今は亡き龍王ドラグニルに敬意を表していた。


「……ところで、僕が気絶してからどうなったの? 皆がここにいるって事は、まだ魔王城に攻め入ってはいないんだよね?」


「はい。一番強そうなドラゴンはレイとルナが倒してくれましたけど、他にもドラゴンがうじゃうじゃいて、そいつらが邪魔で地上に魔導船を降ろすことが出来ない状態なんです。そいつらをどうにか駆逐する策を練るためにカレン達がグラン国王陛下や騎士達と甲板で話し合っています」


「”極光の槍”は使えないの?」


「魔力を抑えて使ってギリギリなようです。全力で使ってしまうと魔導船を動かせなくなってしまうので、迂闊に使ってしまうと後がなくなってしまいます」


「という事でございまして、わたくし達も話に加わってほしいと言われて様子を見に来たのでございますが……」


「レイくん、すぐに動けそう?」


 姉さんにそう質問され、僕はベッドから飛び降りて体の関節を動かして自分の体調を確認する。


「うん、大丈夫そう」


「じゃあ、私達も行こうよ」


 僕はルナの言葉に頷くと、一緒に甲板へ向かうことにした。

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