第818話 ドラゴン VS ドラゴン

 レイは周囲のドラゴン達を撃破しながら目的のドラゴンを仕留めに行く。


「(あの魔導船の船底に取り付いたひと際デカい竜を倒せばクリアだ!!)」


 武器を槍のように突き立てて飛行魔法の速度をブーストさせる。そして、一気に加速させてドラゴンの腹部に目掛けて突っ込む。だが……!


『!!!』


 そのドラゴンは野生の本能で自らの危機を察したのか、魔導船から自身の身体を引き離してレイの突進を回避する。


「(察知された!? ……だけど!)」


 あの巨体で攻撃を回避された事は驚きだが、魔導船から身体を離したことで、負荷が無くなった魔導船が徐々に浮上し始めた。


 こうなってしまえば、あとはドラゴン達が魔導船に寄り付かないようにけん制して自分も戻れば今回の仕事は終わりだ。


「(……とりあえず、こいつをどうするか)」


 後々仕留めることになるだろうが、今無理して倒す必要はない。レイは目の前の巨竜に隙を見せない様に睨み合いながら飛行魔法で徐々に後退していく。


 ……だが、不意に背後から熱を感じた。


「っ!!」


 瞬間、身を翻してその場から即座に離れると、自身のさっきまで居た場所に熱風が通り過ぎるのを肌で感じる。


 どうやら他のドラゴンから攻撃を受けたらしい。後ろを振り向くと、目の前のドラゴンよりも二回りほど小さなドラゴンがこちらに向かって物凄いスピードで飛んできていた。


「ち、迎撃しないと……!」


 しかし、ここでレイは判断ミスを犯す。それまで対峙していた巨大なドラゴンに背を向けて、奇襲を仕掛けてきたドラゴンを標的にしてしまった。そして、その巨竜はそんなレイの隙を見逃さない。


『グギャアア!!』「あ……」


 口から高温のブレスが吐き出されて、無防備なレイの背中に襲い掛かる。攻撃されたと思った瞬間、レイは無意識的に聖剣による防御壁を発動させ直撃こそ防いだものの、その直後に背後から迫ってきたドラゴンの突進攻撃をその身に受けてしまう。


「――っ!!」


 ドラゴンの突進攻撃を人間が受けてしまえば普通なら自動車に轢かれた以上の衝撃を受けて全身バラバラになってしまうほどの威力がある。


 現代人よりも圧倒的に肉体の強度が底上げされているレイの身体が肉片になるような事は無かったものの、あまりの衝撃に全身がバラバラになったような激痛が走り、そのまま大きく吹き飛んでしまう。


 レイはその激痛に耐え切れず、空の上で意識を数秒間手放してしまう。


「……や‥…やば……」


 意識が戻ると同時に、自分が遥か遠くまで吹き飛ばされてしまった事に気付く。即座に復帰しようと再度飛行魔法を発動させようとするのだが、全身に走る激痛で精神集中が妨げられて飛行魔法の発動が出来ない。


 当然、飛行魔法が使えなくなったレイの身体は、重力に従って地上へと落下していく。


「しまっ……!!」


 レイは自分の死を一瞬覚悟して迫りくる死の衝撃から目を背けるために目を瞑ってしまう。そして数秒後に襲い掛かる激痛を覚悟するのだが―――


「……………………………?」


 どういうわけか10秒ほどの時間が経っても、地上に激突するような衝撃は襲ってこない。その違和感に、恐る恐る目を開けると――


「……! あ、あれ……?」


 途中で地上に激突する前に何かに落っこちた事で助かったらしい。それを脳が理解するとレイは即座に起き上がる。だが次の瞬間、全身の痛みで苦しみ再びその場に跪いてしまう。


「~~~~っ!! い、痛い……けど、助かったのか……?」


 あまりの激痛で思わず涙目になってしまうレイだったが、逆にその痛みが自分が生きていることの証明だ。とりあえず何が起こったか確認する為に、頭だけ動かして周囲の様子を確認する。


 まず左右に首を動かすとそこが空の上だということが分かる。


 次に下を見ると、太陽の光に照らされた月のような色の鱗に覆われたドラゴンの鱗が見えた。


 そして正面を見るとこちらをジッと見るドラゴンの顔……まだ視界がボヤけているため、はっきりとは見えないがそのドラゴンの顔は、他のドラゴンと比べると随分と女性的な顔立ちをしており……。


「……ルナ?」


 そこで、自分は<竜化>したルナによって助けられたことに気付く。


『……良かった。間に合った』


 レイの言葉に返事をした竜の声は間違いなくルナの声だった。五感が鈍くなってたせいで即座に誰か分からなかったのが情けない。


「助けてくれたんだね、ありがとう。あんな恰好付けて出ていったのに……ごめん」


『……私こそごめんね。サクライくんの力になるために連れてきてもらったのに、肝心な時に怖がってしまうなんて……』


 ルナはそういうと、自身の翼を大きく羽ばたかせて、随分と上空に浮上していた魔導船の方まで向かっていく。


 だが、先ほどの巨大なドラゴンが立ち塞がるように進路に立ち塞がる。


「! ルナ!!」

 レイが声を上げると、巨竜はルナに向かって炎のブレスを吐いて威嚇する。しかし、ルナはそれでも怯むことなく巨大なドラゴンと対峙する。


『……そこを退いて』


 少し前にドラゴン達の姿を見て怯えていたルナとは思えないほど毅然とした態度で目の前のドラゴンに言い放つ。


 だが、巨大なドラゴンの返事は殺意に満ちた巨竜の恐ろしい咆哮だった。


『……っ!!』


 ルナはその咆哮を受けて恐怖の感情に支配されそうになったが、自身の背に乗せた愛するレイの事を想い、再びその身に勇気が漲ってくるのを感じる。


『――退いてって言ってるでしょ!!!!』


 竜の姿をしたルナは人間の言葉で目の前の巨竜で言い放ち、膨大な魔力を放出し始める。


『グルルルアァァァァァァァァァ!!!』


 巨竜もその魔力を感じ取ったのか、レイと対峙した時のようにその目が本気になって殺意に満ちた視線をルナに向けて威嚇する。


 そして、巨体に相応しい咆哮と共に凄まじい勢いの炎の吐息を放つ。


「ルナ、避けて!!」『!!』

 

 僕の指示と同時にルナは上空に浮上して間一髪攻撃を躱す。だが、巨竜はそれだけに留まらずに翼を大きく広げて風を吹き荒びながらこちらに迫ってくる。

 

『やる気!? 怖いけど私もやるときはやるんだから!!』


 ドラゴンの姿をしているが今のルナは”雷龍”だった頃の戦い方は出来ない。代わりにその魔力は健在な為、人間としてエミリアから教わった攻撃魔法を駆使して巨竜に対して複数同時に解き放つ。

 

<中級氷結魔法>ダイアモンドダスト!!

 <中級雷魔法>サンダーボルト!!

 <中級爆風魔法>ブラスト!!

 <中級火炎魔法>ファイアストーム!!』


 中級魔法の四連続同時発動。中級と侮るなかれ。ルナの秘められた魔力により破壊力はエミリアの上級魔法に迫る。


『グギャアア!?』


 ルナはその四属性の魔法を器用に操作し回避行動を取る巨竜の死角から直撃させ、巨竜に苦悶と悲鳴の声を上げさせる。


 だがその攻撃はまだ終わっていない。ルナは翼を大きく羽ばたかせて一瞬で巨竜の腹部に肉薄する。そして、そのまま風の魔力が宿った尻尾で巨竜の巨体を薙ぎ払う。


『はああぁ!!』


 魔力を更に注ぎ込み尻尾による一撃を巨竜に浴びせて、その巨体を吹き飛ばす。


「(強い……!)」


 想像以上のルナの強さに、レイは驚愕していた。普段、人間としてのルナは気弱でオドオドした性格だったというのに、ドラゴンに変化して戦えばここまでの強さになるとはだれが想像したか。


 何よりその精神力は人間の時のそれとは大きく異なる。もしかしたら、竜としての精神が人間のルナの精神と混じってのかもしれない。


『グルルルアァァァ!!』


 巨竜は、自分に痛烈なダメージを与えたルナに対して更なる怒りをぶつけてくる。そして、ルナを食い殺そうと大口を開けて一気に接近してくるが……。


「―――そうはさせない!!」


 大切な人を傷付けられそうになった事がトリガーになったおかげか、今まで激痛でまともに動くことが出来なかったレイの身体が跳ねるように飛び出し、大口を開けた巨竜の喉に抜身だった剣を深く突き刺す。


『――――っ!!!』


「鱗で覆われていても……口の中は別だろ!!」


 そして、突き刺した剣を力いっぱい引き、巨竜の喉を斬り裂く。


『グギャアア!!』


 レイの反撃で喉を斬り裂かれた巨竜は、喉から大量に血を吹き出しながらもその尻尾で反撃しようとレイに叩きつけようとするが、その攻撃はレイに躱されてしまい不発に終わる。


 そして、レイは更に反撃、ルナの身体から巨竜の頭に飛び移ってドラゴンの身体を駆けて行き、その背中の中心に向けて剣を思いっきり突き立てる。


「―――これで」


 そして、トドメの一撃とばかりに突き刺した剣を引き抜き、ドラゴンの傷口に手を突っ込んでありったけの魔力を注ぎ込む。


「終わりだ――――!!」


 すると、レイが手を突っ込んだ部分から閃光と共に強烈な雷撃がドラゴンの体内に迸り、巨竜の身体を内部から破壊する。


『……グルルルアァァ!!!』


 巨竜は口から血を吐きながら苦痛に悶え苦しむ。


 そして数秒後に巨竜は絶命。その巨体がゆっくりと地上の大地に落下していき、レイはルナの背中に戻ってその光景を見下ろしていた。

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