第817話 勇者らしく戦いたいレイくん
仲間達の事を考え過ぎて、結果一人で魔導船から飛び出してしまったレイ。しかし、魔法障壁に張られていくらか安全を保たれていた中と違って外は沢山の成体クラスのドラゴンが跋扈する危険地帯。
「やっぱり……ドラゴンがうじゃうじゃと……」
いくらレイとはいえ自分より遥かに巨体なドラゴン達が飛び回ってる中では慎重に戦わざるを得ない。今も魔導船に向かって炎を吐き続けているドラゴンの背後で、レイは気付かれないように飛行魔法を使って空中を移動していた。
「(……他のドラゴンと連携されたらかなり厄介だ……早く目的の相手を見つけて仕留めないと)」
中級以下のドラゴンであれば、たとえ苦手な空中戦だとしてもよほどの下手を打たなければまず勝てる。レイが装備している鎧は、以前にウィンドに仕立ててもらった特注品で、純粋な魔力が籠っていなければ銃弾でもノーダメージで凌げるほどの防御力で、並のブレスであればほぼダメージは受けないだろう。
だがある程度の大きさまで育った竜は鱗が鋼鉄よりも固く、吐くブレスの威力も桁外れに上がっている。一瞬で溶解するような事は無いが長時間ブレスを浴びれば間違いなく大ダメージを受けてしまう。
またその巨体故に囲まれたら絶対に逃げ場がない。仮に挟まれてしまえば純粋な実力云々の前に押しつぶされかねない。戦い場合、必ず単独の状況に持ち込む必要があるだろう。
「(焦るな……目的のドラゴンだけ討伐すればいいんだから……)」
目的のドラゴンは魔導船の船底に取り付いているドラゴンだ。それ以外のドラゴンの討伐は一旦後回しにすればいい。
船底から引き剥がすことができれば負荷が無くなった魔導船はドラゴン達から距離を取って一旦島から離陸することが出来るようになるはずだ。
レイは可能な限り気配を消して船底のドラゴンに近付いていく。船底の近くには他にもドラゴン達がウロついており、正面から向かえば複数の中級~成体クラスのドラゴンと戦うことになってしまう。
だが、船底のドラゴンはそいつらよりも一回り大きく別格の強さだと判断出来た。
「(聖剣で一気に纏めて……いや、この距離だと魔導船に被害が出てしまう)」
他が開けた場所であれば、レイの
「(当然、極大魔法も使えない……大技が使えないとなると……)」
これがもし他の仲間達であれば絡め手などを使って敵を惑わして誘導し、目的のドラゴンだけを撃破しに行くだろう。だがレイは絡め手の類の魔法は不得手だ。加えて剣技や聖剣技なども小技などは覚えておらず破壊力重視のものしか揃ってない。
「(……となると、僕が取るべき最適な動き方は……)」
①飛行魔法で可能な限り最速で船底のドラゴンに近付いて一撃で葬る。
②周囲のドラゴンを1体ずつ数を減らし、目的のドラゴンと一対一で戦える状況を作り出す。
③追い詰められた勇者レイは、この土壇場で魔導船を傷付けずドラゴンだけ一瞬で葬り去る大技を編み出す。
④無理だ。今すぐ魔導船に戻って仲間と作戦を練り直そう。
「(……正直、④を選びたいところだけど、あれだけ大見え切って出てきて、それはちょっと……)」
仮にも”神に選ばれた勇者”とかいう肩書だけなら最上級の自分が、一目散に逃げたとあっては呆れられてしまうだろう。他に乗船している冒険者達にも白い目で見られるのも耐えられない。
「(とりあえず③は無いな……)」
ここまでの道のりもいくらかの奇跡や偶然が重なって生き延びられたことは自覚しているが、それはある程度の蓄積と自分達の努力あってのものだ。
いくら異世界ファンタジーだとしてもそんな都合のよい展開は起らない。大体そんな都合よく敵だけ消滅させて他は非殺傷な大技って何だよ。僕は勇者であって神様じゃないんだぞ。
「(なら、①は……って、うわぁぁぁぁぁ!!)」
レイは考え事をしながら飛行魔法を使ってドラゴンの真上を飛んでいたが、急に視界に割り込んできたモノに驚いて後方に距離を取ってしまう。そのおかげでギリギリでブレスを回避することが出来た。
だが、それはつまり自分にドラゴンが攻撃を仕掛けてきたというわけで……。
「しまった……周囲のドラゴンに気付かれちゃった……!!」
①の作戦である他に気付かれずに、目的のドラゴンだけ仕留めるという方法が使えなくなってしまった。
となると残された手段は……!
「もう、②しかないよね……!!」
そう言いながら僕は鞘から聖剣を取り出して構えて、気付かれたドラゴンと相対する。
ドラゴンの大きさはおよそ全長10メートル。区分としては成体の手前程度であり……つまるところ、このドラゴンはまだ大人一歩手前の成長期というわけだ。人間で例えるなら大体15~20歳くらいの時期じゃないだろうか。ドラゴン的にはそれの数倍の年月は生きてそうだ。
「(それでも体長10メートルって……デカすぎじゃないか……?)」
ドラゴンの個体によって大きさは差があるがこの種族のドラゴンはかなり巨体に分類される。当然、成長すれば空を飛ぶし力も並の魔物よりも遥かに強い。だが、ある程度成熟すると縄張り意識が強くなり、群れることも少なくなる。
同様に、”餌”を狩る時も、幼少は群れで動くが、ある程度成長すると単独で狩りを行うようになる。今この場において”餌”は僕を置いて他にはない。つまり……。
「こいつと戦っている間は、他のドラゴンは襲ってこない!」
つまり、この瞬間から周囲のドラゴンを気にせずに目の前のドラゴンだけに集中できるということだ。他が襲ってこないという事を確信した僕は聖剣の効果を起動して自身のパワーを底上げし、更に飛行魔法の速度を上げて目の前のドラゴンに突撃する。
当然、ドラゴンは行動を起こした僕目掛けて、その鋭い鉤爪で引き裂こうと腕を振り下ろしてくる。
「危ない……けど!!」
だが、そんなドラゴンの攻撃が当たるよりも早く、彼の巨体に近付いてその剣を全力で振るう。僕の放った斬撃はドラゴンの腹部を易々と貫通し、その巨体をあっさりと両断する。
「―――っ!!」
想像よりも遥かに弱い……いや、自身の強化度合いが異常過ぎて感覚が狂ってしまっていることに今更ながら気付いたが、今はそれを気にしている場合じゃない。
「(一撃で仕留めた……けど、まだだ!)」
今のドラゴンは倒したが、次のドラゴンが激しい唸り声を上げながら翼を広げて僕に急接近してくる。そして、飛びながらその巨大な竜の口を広げて、灼熱の炎を吐いてきた!!
僕は敵の攻撃に合わせて無詠唱で魔法を発動させる。
「
僕の眼前に出現した氷魔法がドラゴンの炎と衝突して打ち消し合う。瞬間、周囲に霧が発生して周囲のドラゴンの視界を奪う。
ここで選択肢が分岐する。
①目の前のドラゴンの視界を奪っている間に目的のドラゴンを仕留めに行く。
②視界を奪っている間に目の前のドラゴンを仕留める。
「②だ!!」
即断した僕は、霧の中に飛び込み、そのまま剣を大きく横に構えて剣に風の魔法を付与させる。そしてそのまま全力で薙ぎ払う。
「剣技――空破!!」
技の発動と同時に剣を横に大きく薙ぐ。すると、周囲の霧が一文字に斬り裂かかれ、その向こう側にいたドラゴンの姿を現し―――
『グギャアアアアア!!』
真空の刃となった斬撃は離れた位置のドラゴンの肉体をも易々と両断してしまう。
「次っ!」
その隙を逃さず、更に近くのドラゴンに自ら接近する。意表を突かれた次のドラゴンは、即座に深呼吸を行って、強烈な氷のブレスを放とうとする。しかし、その前にレイはドラゴンの腹部に剣を突き入れてそのまま貫く。
「食らえっ!!!」
突き入れた剣に炎の魔力を送り込み、内部からドラゴンの身体を焼いていく。
「これで、最後っ!!」
腹部を貫かれてもがき苦しんでいるドラゴンにとどめの一撃を見舞って、その巨体を両断する。
「はぁ……はぁ……これで……」
これでようやく、周囲のドラゴンが居なくなり―――
「後は、あの船底に張り付いた巨大なドラゴンを倒すだけだ……!」
その巨体は25メートルに迫る大きさで、最初の一匹目のドラゴンの倍以上の巨体を誇っていた。その巨竜目掛けて飛行魔法を使いながら一直線に駆け抜けた。
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