第815話 勇者の決断

 陛下の言葉通り、魔導船は速度を上げて魔王城目掛けて空から突撃する。


「っ、来るぞ! 衝撃に備えろ!! ――っ!!」


 だが、グラン陛下は何かを感じ取ったのか魔導船の手すりから身を乗り出して前方を見る。そして数秒後、それはやってきた。


「っっ!!??」


 轟音と共に魔王城の正面の地面が大きく抉れ、そこから何かが飛び出してくる。


「これは――!!」


 陛下が目を見開き、すぐに声を出す。


「突っ込むのは中止だ!! 即座に魔導船を減速させて魔王城から距離を取れ!!」


 陛下はそう指示すると、魔導船は緩やかに速度を落とし始める。


「うおっ、これは……!?」


「すごい揺れね……!!」


 僕やカレンさんも手すりに掴まりつつその衝撃に耐える。そんな僕達を他所にグラン陛下は魔導船の前方に出て目を凝らして前方を見つめていた。


 そして陛下は叫ぶ。


「魔法障壁発動だ! 急いで身を守れ!!」


 陛下がそう言うと同時に、前方に現れたモノの存在が露わになった。


「あれって……!!」


「ドラゴンの群れ……!? こんな所で出てくるなんて!!」


 だが、そんな事を言っている場合では無かった。ドラゴン達はこちらに睨み付け、口を大きく開いて一斉にブレスを放とうとしてくる。


「 魔法障壁発動しろ!!」


 陛下の側近の一人であるガダール団長が叫ぶと、目の前のドラゴン達を見て固まっていた船員たちが一斉に動き始める。


「「「魔法障壁、発動!!!」」」


 その号令と共に、魔導船を中心に半透明の障壁が広がっていく。


「来るぞ!!」


 直後、ドラゴン達がブレスを魔導船に放ってきた。轟音と衝撃が魔導船に走る。だが、ドラゴン達の放ったブレスは魔法障壁に弾かれて僕達まで届かなかった。


「あ……危ねぇ……」


「魔法障壁様々だな……流石、偉そうな国の船なだけあるぜ!」


 周囲にいる他の冒険者達もホッとしたのか軽口を叩くが、陛下はまだ表情が硬いままだ。


「このままでは一方的に攻撃を受けるだけだな……!!

 だが、流石に”極光の槍”の三発目を放てるだけの余力は備わっていない……一旦上空に浮上し距離を取れ!!」


 グラン陛下がそう指示を飛ばすと、魔導船は魔王城から距離を取ろう急加速する。だが、ドラゴン達はそんな魔導船に張り付きながら追いかけてくるのだった。


「っ、追い付いてくるぞ!!」


「どうするよ!? このままだと俺達食われちまうのか!?」


「いや、こっちから魔法で反撃すれば……!!」


「それだ!!!」


 冒険者は連携してドラゴン目掛けてありったけの魔法を撃ち始める。この戦いに参加した冒険者達だけあって実力は決して低い方ではない。だが、それでもドラゴンに致命打を与える事が出来ない。


「クソっ、こいつら硬すぎるだろ!?」


「障壁があるとはいえ張り付かれてるこの状況は……!!」


 不味い。


 張り付いたドラゴンも厄介だが、他のドラゴン達もこっちに向かってきている。急加速して逃げたいところだが、張り付いたドラゴンの重さのせいか魔導船の速度が先程よりも鈍い。


 このままではドラゴン達に取り囲まれて身動きが一切出来なくなる。


 いくら魔法障壁があったとしても、常時発動しない時点で使用に制限があるのはすぐに気付く。


 とすれば、反撃出来ない状況に追い込まれた時点で詰みとなる。


「こうなったら……!!」


 僕は伏せているルナの所まで走って行って彼女を立ち上がらせる。


「ルナ、今から外に出て魔導船の底に取り付いてるドラゴンを倒すよ、協力して!!」


「え、で……でも、あんな数のドラゴンが居るのに外に行くのは……!」


「危険なのは分かってるよ。だけど、このまま追いつかれてしまうと状況が悪化してしまう。まだ他のドラゴンと距離がある内にアイツを倒さないと……!!」


「そうかもしれないけど……だ、だけど!!」


「……っ!」


 そこで僕はルナが酷く震えていることに気付く。


 いくら強い能力を持っていても、ルナはまだ普通の女の子だ。戦いにおける経験が乏しくていざとなると身が竦んでしまうのは当然。


「(どうする……!? ルナを勇気付けて説得するには時間がなさすぎる。かといって僕だけ行っても……!)」


 僕は焦りながら高速で思考を巡らせる。


 船底に張り付くようにしがみ付いてるドラゴンに致命傷を与えるには、飛行魔法を使って直接向かうしかないが、僕の飛行魔法はお世辞にもうまく扱えているとは言い難い。


 足場の無い空中では上手く戦う自信が無い。なら他の仲間に頼る以外手段が無い。


「……っ!」


 空中戦で戦えるのはルナ以外ならエミリアかセレナさんの二人。だが、二人ともかなり疲労している状態だ。そんな状態の彼女達を、あのドラゴン達の群れの前に飛び出させるのは……。


「……分かった。僕一人で行くよ」


「……!」


 正直自信はない。張り付いたドラゴンの大きさから想定して最低でも成体クラス。もしかしたら龍王クラスに届くかもしれない。


 だが、やるしかない。


「(……大丈夫、以前より僕は全然強い)」


 あの時と違って僕は勇者としての力は完全体だし、頼りになる相棒ブルースフィアもいる。


 少なくとも地上であれば勝ちを狙える相手だ。


「……行ける、行ける!! 僕は強いんだから!!」


 弱音が漏れ出そうになったところで意識的に強い言葉を吐く。自信が無くとも、怖くても、辛くても、僕は強いんだと自分に言い聞かせる。


「……サクライくん」


 ルナはそんな僕の名前を呟く。そんなルナの手を僕は強く握って笑う。


「……心配しないで、すぐに終わらせてくるから」


 自信の無い心を無理矢理奮い立たせる。僕はルナの手を離して、甲板から助走を付けて空に飛び出し、飛行魔法を使ってドラゴンが待つ魔導船の底へと飛んだ。

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