第814話 懸念

「冒険者諸君、エアリアルの同志たち、そして我が国の誇るべき騎士達よ。キミ達のお陰で魔物をどうにか追い返すことが出来た。国王として、そして国を愛する一人も人間として礼を言わせてもらおう。

 しかし、真の戦いはここからだ。魔王軍と人間との全面戦争の前哨戦こそ勝利出来たが、真なる敵である魔王をこの世から消し去らなければ真の平和は訪れることは無い。……諸君、今から戦えるだけの余力は残っているか?」


 魔導船が魔物を退け、僕が魔物達を蹂躙した直後、僕達は魔導船の甲板に集められていた。そして、グラン陛下はそう言って僕達冒険者と騎士団の面々に声を掛ける。


 それに代表する様に、王宮騎士団団長ダガールさんと、自由騎士団団長のアルフォンスさんの二名が前に出て叫んだ。


「我ら王宮騎士団、陛下に行けと命じられれば例え火の中、水の中、どこまでもお供する所存であります!!」


「俺達自由騎士団も同じく、陛下に続けと言われれば何処まででもお供します」


 二人の回答を聞き届けたグラン陛下は頷く。


「流石、我が国の騎士達……冒険者諸君はどうだろうか……?」


 陛下はそう言いながら戦いに疲労してクタクタになっている冒険者達に目を向ける。


「(……この状態じゃ戦いたくても戦えないんじゃ……)」


 僕はそう思いながら冒険者の人達の様子を窺う。すると、疲労困憊で地面に寝転がっている人や肩で息をしてる人、中には立ってるのもやっとな人も居るくらいだった。


 陛下もそれは分かっているのだろう。目を閉じて数秒何かを思案し、決意をしたのか目を開けて言った。


「―――諸君、キミ達には今、二つの選択肢がある。

 ここで我らと共に、魔王軍へ共に立ち向かうか。……もしくは、今回の戦いの傷を癒すために母国に帰り、我らの奮戦を友に伝えてくれるか。

 魔導船の中には万一に備えてここに残しておく予定だったが、キミ達が祖国に帰りたいならば仕方ない。王都まで帰すのは難しいが、最寄りの街に送り届けるくらいの事は出来なくはない。

 さぁ……二つの選択肢の内、選んで欲しい。時間はあまりないが、今から30分以内には決めて欲しい」


 グラン陛下は僕達冒険者にそう問いかける。だが――


「……いや、俺は行ける」


「ああ、魔物と戦うなんて日常茶飯事だ。あんなくらいで根を上げるようでは冒険者なんかやってられないぜ」


「陛下、多額の報酬を提示したからって今更後悔しても遅いわよ。私達は絶対生き延びて国に帰るわ」


「……覚悟などとうに決まっている」


 さっきまで疲労困憊だったのに、回復でもしたのか皆我先にとアピールしていた。それだけグラン陛下から提示された報酬が魅力的だったということなのだろうか、グラン陛下自身も意外そうな表情をしていた。


「……そうか、それならば―――」


 グラン陛下は冒険者達を背にして王家のマントをはためかせて魔導船の甲板に上がって魔王城を見下ろす。


「―――覚悟は良いのだな。ここから先は死地……逃げ出したくなってから帰りたいと言い出しても遅いのだぞ?」


 グラン陛下が魔王城から視線を戻してそう問いかけると、皆それぞれの武器を掲げて大声で叫ぶのであった。


「「「応!!!」」」


「ならばその命、この私に預けろ!! 必ず勝って魔王を滅ぼすぞ!! 決して死ぬな、死ねば報酬は無くなるからな!!」


「「「「おおおおおおおおおっっっ!!!!!!!」」」」


「では行くぞ、魔導船を魔王城まで突っ込ませろ!!!」


「御意!!」


 グラン陛下の号令で、魔導船を動かしていた者が返事をして一気に加速させる。


「総員、振り落とされるなよ!!」


 グラン陛下の号令と共に、魔導船の周りにいた騎士団や冒険者達は魔導船にしがみついた。同時に、ガクンと魔導船全体が大きく揺れて、急速に速度を上げていく。


 こうなればもう止まらない。

 仮に魔王軍がまた空襲を仕掛けてきたとしてもそのまま突っ切るだろう。

 僕達も魔導船にしがみ付いて振り落とされないよう必死だ。


「クロードさん、これ大丈夫なんですか!? 陛下、このまま突っ込むとか言ってますけど!」


「魔導船が大きく衝撃を受ける前に、耐艦防御障壁を仕込んであるからそれを発動すれば問題ない……だが、冷静なあの方がここまで熱くなるとは思わなかったな」


 そう言いながらクロードさんは笑みを浮かべていた。


「なんか楽しそうですね、クロードさん!」


「そうじゃない……そうじゃないんだが……後先考えず動くのもそれはそれで爽快だと思っただけさ」


「あはは、クロードさんもわたしと同じなんですねー♪」


「いや、キミほど考えなしじゃないが……!!」


 途中で会話に入ってきたサクラちゃんにクロードさんはこめかみをピクピクさせて答える。


「実際の所、このまますんなり行けるでしょうか?」


「どういう事よ、エミリア」


 エミリアの呟きに、隣で衝撃に備えていたカレンさんが質問をする。


「さっきの空襲、数が多かったですけど手ぬるいと思いませんでしたか?」


「手ぬるいって……アンタ達はどうだったか分からないけど、魔導船に残ったこっちは結構大変だったんだからね。

 陛下を守るために私は動けなかったし、騎士達も副砲で応戦しながら迫りくる敵の相手もすることになっててんやわんだったし……」


「陛下を避難させればいいじゃないですか」


「あの方、『部下や冒険者だけに戦わせては、元勇者の私の名が廃る』って言って前線で戦おうとするのよ。確かに陛下は今でも強いけど、全盛期に比べたら相当弱体化してるっていうのに……」


「国王陛下の側近は大変ですね……ですが、それでも数に任せた魔物ばかりじゃありませんでしたか? 少なくともカレンが本気で戦うような相手は出てこなかったでしょう」


「……言われてみればそうね」


「私が懸念するのはそこです。この大陸は元々、龍王の配下のドラゴン達の巣だったって話じゃないですか。魔王軍の立場からすれば絶対に部下に加えてると思ってたんですが……」


「確かにドラゴンの類とは戦ってないわね。空からの襲撃にはピッタリの兵力だったでしょうに……」


「温存してるのか、それとも御しきれなくて持て余してるのか……どちらにしても私達にとって厳しい状況には変わりありません」


 エミリアはそう言って、魔導船の側面から海の方に目を向ける。


「(さっき出てきた変な輩の事も気掛かりですし、これ以上面倒な敵を相手にするのは避けたいですね……!)」


 エミリアはそう思案するのだった。

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