第813話 地味な活躍する女神様

 僕達は魔導船付近まで戻ってくると……。


「思ったより敵に囲まれてる……!!」


 ここまで出会った魔物達を蹴散らしていたのだけど、魔導船付近を飛行しているとその数の多さに驚愕した。空を飛べる冒険者達はこぞって魔物達と激戦を繰り広げているようで、騎士達も統制の取れた動きで副砲で敵を撃退しているが、既に何体かの魔物が魔導船内に入り込んでいた。


 どうやら途中ですれ違ったクロードさんの配下たちの人が戦っているらしいのだが、予想通りというべきか大苦戦しているようだ。


「あーあ……折角帰したのに、また死にそうになってる……」


「呆れてる場合じゃないよ! 流石に魔物にやられたら可哀想だし助けに行こう!」


 そう言ってルナに急いでもらおうとするのだが、今度は彼らの上司であるクロードさんも一緒に戦っているようだ。


「―――ったく、汚らわしい魔物共がこの叡智の結晶である魔導船に土足で踏み込むなんて、許し難いね……!!」


 怒りを露わにしながらクロードさんは手に持った剣で魔物達に斬り掛かる。


 遠目に見ても善戦しているクロードさんだが、やはり本業は魔法使いということもあってか苦戦しているようだ。


「……ち、距離が取れないと流石にきつい……!」


 そう言いながらクロードさんは魔物を蹴り飛ばし、追撃で氷の魔法で敵の身動きを止めて剣で串刺しにして倒す。


「……ふぅ」


「四賢者様、こちらにも敵が!!」


「数が多すぎます!!」


「……っ、少しは休ませてくれよ……!!」


 クロードさんの部下達が次々と襲い掛かる魔物を薙ぎ倒していく。しかし、多勢に無勢……もう既に何人かは傷を負っている。クロードさんは部下の人達が傷つくと、すぐに治癒魔法で傷を治していた。


「クロードさん、僕達も加勢します!!」


 ある程度近付いたため、僕はルナの背中から飛び降りて魔導船に直接乗り込んで近くの魔物に斬り掛かる。


「キミ達、戻ってきていたのか!!」


「はい、あの”極光の槍”はまだ……?」


「少々、チャージに時間が掛かっているんだ。何せ全力で放ったことが今まで無かったもので……」


「(ぶっつけ本番の弊害が出てる……!!)」


 ”極光の槍”はつい最近完成に漕ぎ着けたらしく、最大状態まで充填して放ったことが今までなかったらしい。


「二度目の砲撃までは予定していなかったんだよ。最初の一撃で島の障壁を突破し、後は全員でなだれ込む予定だったんだ。

 だが、こちらがなだれ込む前にあちらに先手を打たれてしまった。その為、戦闘しながら主砲のチャージをしないといけなくなり手が足りなくなってるんだ。僕達の部下が主砲の為の魔力を溜めてる最中だからもう少し時間を稼いでくれ!」


「魔力ってどうやって溜めてるんですか!?」


「複数人の魔道士が協力して溜めてるんだよ! だから、僕達も何とか時間を稼げば……」


 クロードさんの部下達が僕の質問に答えてくれる。しかし、状況はそこまで良くなさそうだ。


「(これはもう……!!)」


 どういうやり方かは知らないけど、おそらく魔力が高い人が向かえば短期間でチャージできるのだろう。僕達の中で魔力が高い者は……!!


「(セレナさんとエミリアは戦闘の直後でかなり疲労してる。僕やサクラちゃんは陛下からなるべく温存するように指示されてる。

 レベッカはついさっき強力な魔法を撃ったばかり……ノルンやカレンさんはレベッカに協力してた上に、魔導船で奮闘してたはずだ……となると……!!)」


 僕は仲間の方を振り向いて叫んだ。


「姉さん、今からそこに行って!!」

「えぇ!?」


 僕の言葉を聞いた姉さんは面喰らう。


「お願い姉さん! この中で一番魔力が残ってる状態なのは姉さんだけなんだよ!!」


「で、でも、お姉ちゃんもそれなりに疲れてるのよ? それにお姉ちゃんが一人行っても……」


 ぐぐ……それはそうなのだけど……!

 何といって説得すべきか悩んでいると、エミリアが涙を流して姉さんの手を取って必死な表情で言った。


「お願いします、ベルフラウ!! 今は貴女だけが頼りなのです!!」

「え?」


 続いてレベッカが姉さんの裾を掴んで、不安げな表情を浮かべる。


「れ、レベッカちゃん……?」


「……ベルフラウ様、お願いいたします。このままでは魔導船が魔王軍に制圧されてしまうかもしれません。事態は一刻を争うのでございます!」


「……う」


 そして、最後に竜化を解いて人間の姿に戻ったルナが言った。


「ベルフラウさん、元神様だったんですよね? お願いします……その力、皆の為に……!!」


「……わ、分かったわ! お姉ちゃん、久しぶりに人の為に頑張ってくるわ!」


 姉さんは皆の説得のお陰か、やる気に満ち溢れていた。そして、そのまま場所も聞かずに魔導船の船内に走っていった。


「ちょ」


「おい、誰か彼女を案内してやれ!」


「はっ!!」


 クロードさんの部下が姉さんを追いかけて船内に走っていく。


「(姉さん……お、お願いだから迷わないでね……!)」


 僕は心の中でそう祈った。正直、不安で仕方ない。


「……まぁ、あれだけ焚きつけてやれば大丈夫でしょう」


 さっきまで必死な表情で説得していたエミリアだったが、今は何事も無かったように落ち着いた様子で僕の所にやってくる。


「あれ? さっきまで涙溜めて無かった?」


「あ、これですよ、これ」


 そう言いながらエミリアは手のひらに収まる程度の小瓶を僕に見せつける。


「……もしかして目薬?」


「正解です」


「……」


「あれ、もしかしてレイも騙されてたんですか? 私の涙を流す姿にキュンとしちゃいましたか?」


「……セレナさん、ちょっと」

「え」


 僕はエミリアに背を向けてセレナさんの耳元で言った。


「(貴女の妹が貴女に似てきてますよ、責任とってください)」


「(ま、まぁ緊急時だから多少はね……?)」


「(少しじゃないですよ、かなりです!)」


「(あ、あはは……)」


 セレナさんは誤魔化す様に笑う。


 それから5分程して、魔力の充填の終わった”極光の槍”が再び放たれた。その一撃で、魔物達の数が一気に減少したことで魔導船は無事に突破されずに済んだのであった。


 姉さん女神様、大活躍である。

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