第807話 放っておくとヤバそう

 前回のあらすじ。

 ついに魔王軍の本拠地であるヘルヘイムに辿り着いた魔導船。


 ヘイルヘイム全体を覆う魔力の障壁を打ち払うため、”魔導船の最強兵器である”極光の槍”グングニルを放った。見事、障壁を破壊出来たものの、次に待っていたのは、報復として魔王が放ってきた無数の翼を持つ魔物達だった。


「……く、この距離ではまだ副砲は届かないか。だが、けん制にはなる。魔導船を後退させながら”極光の槍”の再充填が済むまで副砲と射程の長い攻撃魔法で何としてでも時間を稼ぐのだ!」


「……はっ! 騎士達よ、陛下のお言葉が聞こえたか! 何としてでも時間を稼ぐのだ!」


「おおっ!!」


 騎士団の団長であるダガールが騎士達に指示を飛ばすと、騎士達は各々副砲に弾を込めて敵の進軍を待つ。


「冒険者諸君は魔導船に敵が近づいてきた時、船に近付けない様に戦ってほしい。空を飛べる魔法を使える者がいるのであれば、敵の迎撃も頼む」


「了解!」


 冒険者達が返事をすると、ダガールは兵士達にも声を掛ける。


「兵士諸君よ、我らは魔王の眷属達と直接戦うことはないが、騎士や冒険者達の盾となるのだ! そしていざとなれば身代わりとなって死ぬことも厭うな!!」


「「「はっ!!」」」


 騎士団長のダガールが指揮を取り始めると、軍隊としての統率力の高さが伺える。彼の指示を聞いた兵士達も気合いの入った返事をしており、士気も高いようだ。


 ……ここから、僕達はどう動くべきだろうか。僕達は魔王との戦いに備えて出来れば力を温存してほしいとは言われているが、それでもこの状況で何もしないわけにはいかない。如何に力を温存して僕達だけ生き残っても味方が全滅しては話にならない。


「……まだ敵との距離はあるけど、おそらく交戦になるまで数分ってところね」


「……ええ、あちらの魔物達も物凄い速度でこちらに迫っております。こうなってしまえば乱戦は必至、万一この魔導船を破壊されてしまえば魔王と戦う前にわたくし達は空に投げ出されて全滅となるかと……ここは正念場でございますね」


「……で、私達はどう動きます?」


 カレンさんとレベッカが話し合っていると、エミリアが僕に聞いてくる。


「この状況だと流石に動かないわけにはいかないよ。敵が近づいて来たら、空を飛べる僕達が魔物達の迎撃をしよう。エミリアは大丈夫だよね?」


「私は全く問題ありませんが……」


「ちょっと待った!!」


 僕とエミリアが話をしていると今度は違う人が割り込んでくる。エミリアの姉のセレナさんだ。


「セレナ姉?」


「ミリーちゃんが出るとなれば私も出ないわけにもいかないわね。義弟君、問題ないわよね?」


「セレナさんの力を借りれるなら心強いですし、是非お願いします……あと、義弟は止めてください」


「それは無理」


 セレナさんはそう言うと、エミリアを連れて甲板の上へ降りていく。そして僕達も後を追って空に飛び出そうとするのだが……。


「待ってくれ、キミ達」


 今度は部下を引き連れたクロードさんに引き留められてしまう。さっきから、ちょっと待ったされ過ぎじゃないだろうか。


「今度は何ですかクロードさん……」


「……何故が不満そうな顔をされているが、キミ達は力を温存しないと駄目だろう? ここは僕達に任せてほしい。我ら魔法都市エアリアルの民は全員飛行魔法を使えるし、こういう戦いにはうってつけだ……さ、魔物達に僕達の強さを見せつけてやれ!」


「はい、賢者クロード様!!」


「我ら魔法国家の力、魔王に知らしめてやりましょう!!」


 クロードさんの指示で彼の部下達が一斉に空に飛んで魔物の群れに向かっていった。


「……あの、本当に大丈夫ですか? あれだけの魔物の群れ相手にあの人数で突っ込むのは自殺行為じゃ……?」


「彼らは頂の塔で警護の役割を与えられていた魔法都市では数少ない戦闘部隊だよ。……というか、キミ達も彼らと交戦した覚えがあるんじゃないか?」


「……?」


「お、覚えてないのかい?」


 全然覚えてない。その時、一緒にいたカレンさん達はどうだろうか?


「カレンさん、サクラちゃん、覚えてる?」


「全然知りません!!」


「……私達が頂上を目指して走っていた時に、止めに来た人達の事かしら?全員一撃で倒したから印象が薄かったわ」


「あ、そういえばそうでした……」


 カレンさんが思い出しながら言い、サクラちゃんがポンと手を叩いた。確かにあの人達がいるとしたらあの時しかないけど……あの人達が戦っていたとか全く記憶にない。


「まぁ見ていると良いさ。彼らもあれでかなりの実力者だよ」


 クロードさんは僕達の感想を聞いて苦笑いしながらも、問題ないと僕達に説明する。


「(どうしよう、かませの気配しかしない……)」


「(レイ君にしては辛辣な意見ね……クロードさんも自信満々だし、大丈夫でしょう)」


 僕とカレンさんは小声で話し、クロードさんの部下の戦闘を見守る。


 すると、彼らは予想以上の速度で空を飛んでいき、遠距離から魔物の集団に向かって炎や風、氷の矢といった様々な属性魔法を次々と魔物達に向けて撃ち込んでいく。その威力も凄まじく、一撃で多くの魔物達を撃墜させていく。


「お、おお……本当に強い……!」


「全然戦った記憶無かったけど、強いんですねぇ!」


「ちょっ、サクラ」


「……その反応、キミ達、僕達の強さを完全に疑ってたんだな……」


「いや、だって……ねぇ?」


 クロードさんがジト目で僕達を見始めたので、僕はカレンさんと顔を見合わせて言い淀んだ。


「そ、それよりほら、あの人達のお陰で魔王軍の魔物を倒せる勢いですよ! これならいけるんじゃないですか!?」


「……いえ、どうでしょうか」


「え? なんでですか、レベッカさん?」


 サクラちゃんの言葉に異を唱えたレベッカは、空を睨みながら言った。


「……まだ遠いのではっきりとは言えませんが、敵の最前線を飛んでいる魔物達は、奥の魔物達と比較して数ランク下の下位種かと思われます。

 後ろの方にはより強力な魔物が控えているかと……。クロード様、ある程度露払いを行った後、一度こちらに戻るように指示は可能でしょうか?」


「通信魔法を使えば連絡は可能だけど……。キミはこの距離から敵の強さが分かるのか?」


「わたくし、これでも視力が多少良い方なので……」


「レベッカは技能で視野が僕達よりもずっと広いんです。……確か、3キロくらいなら見渡せるんだっけ?」


「集中すれば4キロ程度の範囲まで可能です」


「驚いたな。魔法で視力を強化しても僕達には不可能な距離だ……。だが、心配は要らない。彼らも日々かなりの訓練を行って魔力を高めている。そう簡単には―――」


 ―――次の瞬間、クロードさんの部下達が戦っていた周囲が光ったと思えば、次の瞬間には爆音が聞こえてきた。


「な、何だ……!?」


 焦った表情でクロードさんが空を見る。


「大変です! クロード様!」

 すると、クロードさんの部下の一人が慌てた様子で僕達の下に駆けつけてきた。どうやら急いできたようで、かなり息が切れている。

「何が起こった!?」

「魔物の攻撃です! おそらく悪魔系の魔物が得意とする爆発魔法と思われます!! こちらも強力な魔法で対抗していますが敵の数が多すぎる……このままでは……!!」


「……く、何たる様だ……!! こうなれば、僕自ら……!!」


 クロードさんは苛立ったように爪を噛みながら、部下に指示を送る。どうやら、部下を下がらせて自分が前に出るつもりのようだが……。


「クロードさん、やっぱり僕達が行きます」


「……なっ!?」


「クロードさんの役割は前線に出ることじゃなくてサポートですよね。ここに残って他の部下達に指示を出してください。敵の距離も近づいてきましたし、このままだと魔導船に被害が出る可能性があります。騎士達や他の冒険者達と協力して、ここをどうにか死守してもらえませんか?」


「だ、だが……キミ達は力を温存しなければ……」


「力を温存した結果、共倒れになったら話にならないですし、僕達はこれだけの人数に指示や命令を出すような事は出来ません。僕達は直接敵と戦って戦力を削る方が良いと思います。……僕達に行かせてくれませんか?」


 僕がクロードさんに懇願すると、彼は少し考えた後、口を開いた。


「……分かった、ここはキミ達に託そう。だが、これだけは約束してくれ」


「何をです?」


「必ず……生きてまた会おう!!」


 クロードさんはそう言うと僕に向けて拳を突き出してきたので、僕も同じく拳を合わせるのだった。

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