第805話 サクラちゃんと妄想しよう
そして、それから1時間半ほど経過し―――
『今から軍議を行う。以下の者は今すぐ会議室に来られたし―――』
艦内にグラン陛下の声が響く。どうやら今から会議があるらしく、魔法都市の代表である四賢者や騎士団の団長、それに王宮の代表者たちなどの名前が呼ばれていく。
しかし、その人達の名前が呼ばれて少し時間が経過した後―――
『自由騎士団副団長サクラ、並びに自由騎士団元副団長カレン。そしてサクライ・レイを頭目とする冒険者一党、すまないがキミ達も今から甲板に来てほしい。繰り返す―――』
僕達一党もグラン陛下からお呼びが掛かってしまった。
「……よ、呼ばれちゃった」
「まぁ、私達は元々重要人物扱いされてましたからね。最初に呼ばれなかったのが不自然なくらいですよ」
「陛下を待たせるわけにはいかないわ。行きましょう……ってサクラ、嫌そうな顔しないの!」
「うえぇぇぇ……わたし、お偉いさんと一緒に会議とか嫌だよぉぉ……」
「もう、しっかりしなさいよ……レイ君、サクラの事は良いから私達は先に行きましょ?」
「あ、うん」
嫌がるサクラちゃんを引っ張って、僕達は船内の会議室に急ぐことにした。
◆◇◆
僕達が急いで艦内を移動していると、途中で僕達を待っていたと思われる船員の人に呼び止められる。
「お待ちしておりました。サクラ副団長、カレン元副団長。そして、レイ殿。陛下がお待ちです、こちらへどうぞ」
「し、失礼します」
一党を代表して僕が先頭を切って会議室に入る。すると、そこには騎士団の団長二名と四賢者が勢揃いしており、他にも王宮で見たことがあるそうそうたる顔ぶれがあった。
「……来てくれたか。そこの空いてる席に座ってくれ」
「……はい、国王陛下」
陛下の言葉に従い、僕達は空いている席に座った。
「では、軍議を再開しようか。今回の魔王討伐作戦だが―――」
そして、魔王軍討伐作戦の軍議が再開される。
◆◇◆
僕達が呼ばれて一時間ほど経過した頃――
「……というわけだ。作戦の中核となるのは、勇者レイとその一党メンバー、ベルフラウ、エミリア、レベッカ、ルナ、ノルンに、我が騎士団のカレンとサクラが加わる事になる。
今作戦は、彼らを無傷で魔王の元まで送り届けて、彼らに世界の命運を託すことになる。万一彼らに何かあった場合、または状況不利と判断した場合、王宮騎士団と自由騎士団が連携して前に出て彼らの盾となる。彼らの命は一万の兵に匹敵する戦力と心得よ。命を賭して彼らを魔王の元まで送り届けるのだ。では、諸君らの健闘を祈る!!」
「「はっ!!」」
グラン陛下の号令によって軍議は締めくくられた。
◆◇◆
軍議が終わって僕達は待機を命じられたため部屋に戻ってきた。
長い間、ジッと話を聞いていただけだというのに、僕達はぐったりと疲れており、部屋に入るなりソファーに座って項垂れていた。
「……なんというか、淡々と軍議が終わったね」
「こういう時、誰かが私達がしゃしゃり出てきた事に反発して文句を言いそうなものですが……」
僕の呟きに同じような感想を持っていたエミリアが言った。それを聞いたカレンさんは苦笑する。
「あはは、そんなの既に話し終えた後だもの。レイ君達が参加したのは最後の最後。既に細かい作戦と段取りは全部決まっていて、あとは齟齬が無いように各自確認をするだけよ」
「つまり私達は意見を求められたわけじゃなくて、作戦の内容を説明されてその通りに動くようにと命令を受けただけって事ね」
カレンさんの話に合点がいった姉さんが端的にそう纏める。
「そういう事ね。それでもレイ君達の参加は、作戦の成功には必須だわ。それは以前の戦いで皆十分に理解してる。
だからこそ貴方たちの参加に異議を唱える者は居ないし、今日までずっと話し合って決めた事を今更蒸し返す様な協調性の無い者は事前に弾かれている。ちゃんとした組織というものは、作戦に不都合となる存在は早々に離脱して徐々に意見が統一されていくものなのよ」
「そ、組織って大変なんだね……勉強になる……」
「……都会は人が多いから優秀な人材が集まりやすいのね。辺境だとこうはいかないわ」
カレンさんの話にルナとルナが感心したように言葉を述べる。
「それで僕達はこのままずっと待機していればいいのかな、カレンさん」
「ええ、あとは魔王城に着くまでこのままよ。今が最後の休息と考えておきなさい。この後は一日中必死に駆け回って戦うことになるんだからね」
「そうだね。こうして、のんびりしていられるのは最後なんだね……」
僕達は各々ソファーに座り、くつろぎ始めた。僕はなんとなく落ち着かなくて椅子に座らず部屋の周りを歩いていた。
「レイさんレイさん、気持ちが落ち着かないなら一緒に気晴らしでもしませんか?」
するとさっきまで会議でテンションが駄々下がりしていたサクラちゃんが話しかけてくる。
「気晴らしって何?」
「今から戦いの事を考えて戦意を高めるイメトレです! 最初っからかっ飛ばして戦いに臨めますよ♪」
サクラちゃんはシャドーボクシングをするように拳をシュッシュッと突き出している。
「……なんというか、サクラちゃんは前向きだね。その自信はどこから出てくるの?」
「えへへ、そんな事無いですよ~。私だって人並みに緊張はしますからねぇ」
そう言いながらもサクラちゃんの表情に不安や緊張と言ったマイナスな感情が見取れない辺り、やっぱり彼女は強い女の子なのだなと思う。
「そだ、レイさん。レイさんは今度の魔王はどんなのだと思います?」
「ん、魔王? ……そうだね、前は召喚した人間の身体に憑りついた感じで本体と戦ったわけじゃないし……うーん、やっぱり化け物染みた容姿なのかな。前回も触手っぽい変なのいっぱい生やしてたけど」
「やっぱり、魔物の王ってことですし、魔物のあらゆる長所を取り入れた姿だったりするんですかね?」
「あれかな、やっぱり凶暴そうなツノが生えてたり、目がいっぱいあったり、心臓が3つとか4つあったりとか‥…」
「もしかしたら、顔と両手だけの存在で、同時に撃破しないと完全に消滅しないパターンとかも?」
「あったら怖いね……なんか、イメージ的に顔と手が合体して、第二形態とかありそうな気がするよ」
「合体……その場合、やっぱり勇者なわたしとレイさんも合体して戦う展開になるんですかね?」
「僕とサクラちゃんが合体!? それどういうことなの!?」
「さぁ……わたしにもさっぱりです……」
「ノリで言うの止めようよ、サクラちゃん……」
僕とサクラちゃんが顔を見合わせてお互いに首を傾げていると、ソファーで寛いでいたエミリアがこちらを見て口を開いた。
「……なんか楽しそうですね二人とも」
「た、楽しくないよ、別に?」
「わたしたちは、魔王がやってきそうなあらゆる戦い方を予想して、今の間に高度な戦略を練って臨機応変に対応する為に話し合ってるだけですよー」
サクラちゃんが無駄に賢そうなこと言ってる!
「……はは、私は魔王と戦うって事でかなり緊張してるんですけど、主軸の二人がその調子なら何の問題も無さそうですね」
「……逆に、このノリで魔王と戦って不安になるわ」
呆れたようで感心してるエミリアを他所に、ノルンは僕達を見て不安そうになっていた。
「ノルンちゃんは心配性ですねー。わたし達がそんなに緊張してたら、逆に魔王もビビって隙を見せてくれるかもしれませんよ?」
「(それで魔王が怖気づいてくれたら楽な展開なんだけどなぁ……)」
ギャグ的なノリで弱体化してくれる魔王って、それギャグマンガの世界でしか起こらない事象だと思う。
「あ、じゃあ魔王の前でお弁当食べ始めたらどういう反応してくれるのかしら」
突然、姉さんまで変なこと言い出した。
「姉さんまで変なこと言い出さなくていいから!」
「えー、だって魔王城攻略前にお腹空いたら嫌じゃない?」
「お弁当食べながら戦う勇者パーティって斬新ですねー。やっぱりユーモアって大事ですよね」
サクラちゃんがうんうんと頷いている。
「じゃ、お姉ちゃんは今からお弁当作ってくるわね。カレンさん、冷蔵庫にあるもの勝手に使ってもいいかしら?」
「ベルフラウ様、わたくしもお手伝い致します」
「あ、私も」
姉さんが部屋を出ようとするとレベッカとルナも後を付いて行く。
「え、本当にやるのその作戦……? まぁ冷蔵保管庫にあるものは好きに使ってくれていいけど………。おかしいわね、これから魔物との戦争だっていうのに、シリアスな雰囲気をぶち壊しにしようとする何かの意思を感じるわ……」
カレンさんがブツブツ言いながら三人の後を追っていく。
そして、僕とサクラちゃんとエミリアとノルンの四人だけが部屋に残された。
「……サクラちゃん、このパーティ大丈夫かな?」
「ある意味最強じゃないですか」
「たぶん、魔王は泣くと思います……」
「泣く前に怒って攻撃してきそう……まぁ、魔王の性格次第ね」
エミリアとノルンの呟きが部屋に響く。
しかしその言葉とは裏腹に僕達の顔には笑顔が浮かんでいた。それは魔王と戦う恐怖を紛らわすためなのか、それとも戦闘前の緊張を解きほぐすためだったのか。
多分、皆が務めて明るく振る舞おうとしているのだと思う。
……きっと、最後の戦いは激戦になるのが分かり切っていたから。
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