第801話 遅すぎる伏線回収
船長室を出た後―――
僕達が部屋から出てくるのを壁際で待っていたクロードさんに話しかけられる。
「……気を遣わせてしまって申し訳ないね。父さん……いや、この魔導船の船長は、あれこれ策を練って考えるよりも自ら動いてしまった方が早いタイプでね。あまり人を上手く動かすのが得意なタイプじゃないんだ。僕としてはもう少し思慮深い人になってほしいのだけど……と、悪い……そういう話をしたいわけじゃないんだった……」
「いえ、気にしないでください」
「少し場所を変えよう。静かに話せる部屋に案内するよ」
クロードさんはそう言って僕達を別の部屋に案内してくれた。案内された部屋は簡素な椅子や自動販売機みたいな魔道具が置いてある休憩室のような場所だった。
「……さて、魔導船の案内……というのは、僕と船長の話がこれ以上こじれない様に止めるための方便だったのだろう。気を遣わせてしまったね」
「貴方も大変ね、クロードさん……。それで、お父さん……失礼、船長はああ言ってたけど、貴方は私達に付いてくるつもりなの?」
「まさか、事前にグラン国王陛下と打ち合わせは済ませて作戦は決めてあるんだ。
まず魔導船で魔王の居城まで近づいたら、魔王城の周囲に張り巡らされているバリアを魔導船の新兵器によって破壊。
その後、キミ達を地上に降ろしてから僕を含めた四賢者たちはエアリアルの同志たちとグラン陛下の騎士達や兵士達と協力して魔王城の外の敵の相手をして、キミ達が無事魔王城まで耐え凌ぐ。キミ達が魔王城に突入した後は、魔王城の外を制圧し余裕があれば僕達も魔王城の中に突入して加勢する、って流れさ」
「そんな段取りになってたんですね。じゃあ、僕達はクロードさんの足を引っ張らないように気を付けなきゃですね」
「そうしてくれるとありがたいね。調査によると魔王城とその周囲は文字通り”魔境”だ。魔物の強さも他の大陸と比較にならないレベルで強力だ。
おそらく外の連中を殲滅するだけでも相当消耗してしまうことになるが、妥協は許されない。前に立ちはだかる敵を倒すのも大事だが、後続の敵を倒しておかないと討ち漏らした敵が城内に入り込んでキミ達が挟み撃ちになってしまう可能性があるからね。
いくら僕達が優秀な魔法使いといっても限度がある。出来るかぎりキミ達を支援するつもりでいるが、僕達の役割は基本そこまでだと思ってほしい」
「(……実戦経験はそこまでと聞いていたのだけど、戦術面に問題は無さそう……それに、ちゃんと自分達の戦力と状況を把握できている……)」
クロードの言葉を聞いて、言葉には出さないもののカレンは感心して頷いていた。
「分かりました。魔王城に突入するのは僕達だけということで良いんですか? ……正直、話を聞いているとかなり難しそうに思えるのですが……」
「いや、キミ達は出来るかぎり無傷で魔王の元へ到着しなければならない。その為に、陛下がかき集めた冒険者や武芸者たちも魔王城になだれ込ませるつもりだ。戦力的にはマチマチだが、魔王城内の魔物達の戦力を分散させて敵を消耗させつつ、守りが薄くなった箇所をキミ達が突破するという目論見さ。魔王城という狭い空間では、いくら魔物とはいえ大群の利を活かせないからね。……とはいえ、懸念事項もあるのだけどね」
「さっすが賢者さん達、ちゃんと考えてますねー。わたしはてっきり、立ちはだかる敵を全部なぎ倒して進む作戦だと思いましたっ!」
サクラちゃんは、良い意味でも悪い意味でも純真無垢に言い放った。
「……いや、それは果たして作戦なのか……? まぁ、うちの父さんはそのタイプで今まで成功を収めてきたから、それを否定するつもりは無いし、キミ達の実力なら不可能とも言い切れないが……」
「いや、流石に僕達もそれは無理だと思います」
「ええ~? わたし達なら出来ますよっ!?」
サクラちゃんの自信満々の言葉に、彼女以外が苦笑する。
「まぁ詳しい事は敵地に近付いたところで改めてグラン陛下から軍議があると思う。詳しい話はその時にしよう。さて、約束通り艦内を案内してあげようと思うんだが……」
「あ、その前に姉さん達を連れてきても良いですか?」
「構わないよ。では、ここに連れてきてくれ。その後、改めて案内するよ」
「分かりました。それじゃ、一旦失礼しますね」
そして、クロードさんに一旦別れを告げて、僕らは皆を呼びに戻ったのだった。
◆◇◆
それから一時間ほどして――
「お待たせしました」
「連れてきたみたいだね、それじゃあ案内しよう」
クロードさんはそう言って部屋を出て、僕達もそれに続いて部屋を出た。クロードさんに案内されるまま、僕達は魔導船の船内を見て回る。
「ふむ……魔導船は元々戦う事を想定した船と聞き及んでおりますが、武骨な印象は見受けられませんね……」
レベッカは、クロードさんに案内される前に船内を見回っていたらしい。
「確かに戦闘に使うことも視野には入れてあるが、空を飛んで地上の敵を一方的に遠距離から砲撃することを想定されて作られているからね。
敵を接近させないよう遠距離攻撃の砲台と、魔法や銃撃による遠隔攻撃を防御するための自動迎撃兵器が搭載されている。そして船内の各所にも一応自動迎撃用の小型砲台が配置されている」
「ふむふむ……移動要塞という感じですかね?」
「概要的にはそれに近いかもね。だけど、要塞というほど守りは優れてない。上空からの遠距離射撃と魔法による迎撃攻撃で敵に手傷を負わせて、船内から遠距離の敵を遠隔攻撃で倒して疲弊した敵を近接戦闘に持ち込んだ方が効率が良いから。この魔導船は防衛拠点というより、魔王城へ奇襲を仕掛けるための船と言った方が良いかもしれないね」
「仮に、地上から大砲や上級以上の攻撃魔法で攻撃された場合、この船は耐えられるのかしら?」
これはカレンさんの質問だ。
「この魔導船が動作している間は、微弱な魔力が流れているからある程度の防御力は備えているよ。上級獄炎魔法程度であれば10発程度なら余裕で持ちこたえられるはずだ」
「なるほどね……とはいえ、その程度だと少々心もとない気がするわね……」
「……否定はしない。仮に、極大魔法級の魔法を受けた場合、おそらく三発直撃してしまうと魔導船は機能を停止してしまうだろうね」
「……それでも、極大魔法級の魔法を二発耐えられると考えるとかなり心強いですね」
「ふふ、そうだね。……さて、案内を続けていいかい?」
「はい」
それからもクロードさんは船内の案内を続けてくれた。そして一通り見て回った後に甲板へ向かう。
「……さて、この甲板の中央にある最も大きな砲台が見えるかい?」
「あの、やたら大きくて砲身の長い存在感のあるやつですか?」
「うん。あれがこの魔導船最大の兵器……広域殲滅用超長距離魔導砲……通称、
「グングニル?」
「その名前……何処かで聞いた名前だよね、サクライくん?」
クロードさんの口から飛び出した”グングニル”という名前に驚く。
グングニルの槍といえば、北欧神話の神様が持つ槍で、投げれば必ず敵に命中すると言われるファンタジーなどでおなじみの武器の名だ。
異世界にも同じ名前の武器があるとは思わなかったが、よく考えると、似たような伝説上の武器の名前は今まででもあったため、今回もその類なのだろう。
「ちなみにこの名前を命名したのはグラン陛下だよ。この武器は、王宮が独自に開発していたものだったのだけど動力部に欠陥があって威力に課題を抱えていた。それを僕達魔法都市エアリアルの技術によってようやく完成させることが出来たんだ」
「へぇ……」
「ちなみに、これと同じようなコンセプトで作られた魔法が実は存在するのだけど……。その魔法を使うと使用者が必ず死んでしまうので、編み出した張本人も一度たりとも使うことが無かったと本人が言ってたよ」
「え、本人って?」
「”長老様”の事さ。あまりにも危険過ぎる魔法だったので、誰の手にも渡らない様に、魔導書に魔法を封じ込めて、とあるダンジョンの隠し通路の先に封印したと。仮にそれを見つけたとしても多数の魔術的なセキュリティが掛かるようになってるから簡単には解読できないらしいけどね」
「そんな魔法が……エミリア、今の話聞いた?」
僕はエミリアの方を向いて彼女に問いかけるのだが……。
「え、ええ……聞いてますよ……」
何故かエミリアは青い顔をして頷いていた。
「……エミリア?」
「い、いえ……何でもないです……。(……ま、まさか、私のあの魔導書の事じゃないですよね……?)」
「エミリア、冷汗凄いけど大丈夫!?」
「え、ええ……何でもないです」
「ちなみにその魔法の名前は―――」
クロードさんは、まるで朝食のメニューを語るかのような気軽さでその名前を言った。
「究極魔法・
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