第800話 親子の喧嘩を見せられるレイくん達

 二人に連れられて僕は船内の船長室へとやって来た。


「お待たせしました。サクライ・レイ君を連れて来ましたよ」


 そうカレンさんは扉の前でノックしながら声を掛けて扉を開ける。そこに居たのは、提督のような立派な制服とマントを羽織った壮年の男性、この人が船長なのだろうか。


「おお、地上の英雄のお出ましか。初めまして、この魔導船の船長を務めているクライヴ・ケーニッヒだ」


「は、初めまして。……あの、地上の英雄というのは………?」


 僕がそう聞くと、クライヴさんがニヤリと笑いながら僕に言った。


「いやなに、君の噂はかねがね耳にしていてな。地上でも王都の事件を追っている最中に召喚された魔王と戦って撃退したと」


「!!」


「それ以外にも、魔法都市エアリアルの頂の塔で私の息子と戦って勝利を収めたとか。その若さで大したものだ」


「息子……? あの、誰の事を言ってるんですか?」


 僕がクライヴさんにそう質問すると同時に、後ろの扉が開き、誰かが入ってきた。


「船長、呼びましたか……って、うわ……!!」


 若い男性の声がした方を見ると、そこには以前に見た若い男性がこちらを見て驚いた顔をしていた。その人物は……。


「……四賢者のクロードさんじゃないですか。どうしたんですかこんな所で?」


「こんな所でとは失礼だなキミは。この魔導船は魔法都市エアリアルで建造したのだし、僕はその開発に掛かってた責任者でもあるんだ」


「クロードさんが……? というか、クライヴさん。もしかして、息子っていうのは……?」


「丁度良いタイミングで来てくれたな。では皆に紹介しよう。彼はこの魔導船の責任者であり、私の息子のクロードだ」


 そう言ってクライヴさんはクロードさんの背中を叩いて僕達の前に押し出す。


「……どうも」


 クロードはこちらを見ずにムスッとした表情で答える。


「こらクロード、客人の前で失礼な態度を取るんじゃない!」


「ぐ………!」


 父親であるクライヴさんに軽く叱責され、クロードさんはばつが悪そうに頭を掻く。


「いやはや、うちの息子がとんだ失礼を。どうか許してやってくれ」


「あ、いえ……気にしてませんよ」


 僕は苦笑しながらクライヴさんにそう答える。


「それで僕をここに呼んだ理由をそろそろ聞きたいんですが……」


「ああ、そうだったな。実は以前にグラン国王陛下と少し話をさせてもらったのだが、その時に国王陛下がキミの事を随分と褒めていたよ。それに、息子がキミに世話になっていたこともね」


「へ、陛下が僕をですか?」


「ああ、強いだけじゃなくて優しい好青年だと聞いている。陛下があまりに褒め称えるものだから是非キミに会いたくなってね。そこの彼女が知り合いだというから呼んでもらったんだ」


「陛下がそんな事を……」


「……」


 クライヴさんの話を聞いてクロードは居心地が悪そうな顔をして睨んでくる。僕、恨まれてたりする……?


「あ、あのクロードさん? なんでそんな恨みの籠った眼で見てくるんですか……?」


「……別に」


 クロードさんは僕から視線を逸らしてそれ以上何も答えなかった。


「(多分、前にレイ君に負けた事をお父さんに知られて拗ねちゃってるのね……)」


「(クロードさん、四賢者の中では一番歳が若くて未熟って聞いてるし、レイさんに負けた事を認めたくないのかなぁ)」


 カレンさんとサクラちゃんは、クロードさんのそんな様子を見て小声で耳打ちしあっていた。


「それで本題なのだが……見ての通り、息子はキミの事が気になって仕方ないみたいでね……」


「ちょっ、父さん!?」


「キミ達は、魔王城に到着したら、真っ先に魔王城に向かって敵のボスである魔王と戦うのだろう? 是非、うちの息子をキミ達に同伴させてほしいと―――」


「父さん!!」


 クロードさんはクライヴさんの発言を遮って大声を上げた。


「どうしたんだクロード、急に大きな声を出して……」


「どうしたもこうしたも無いよ。なんで、僕一人が彼らと一緒に魔王城に行く必要があるんです!?」


「なんでって……当然だろう。お前は長老様の信頼を得ている”四賢者”の一人なのだぞ。他の賢者達は各々別の任務があるが、お前は戦力として地上の者達と一緒に戦う役目だというのを忘れたか?」


「それは、そうだけど……」


「ならばエアリアルの代表として、お前自身が魔王と直接対峙してその強さを知らしめねばならん。敵だけではなく、地上の者達と肩を並べて戦うことで、我らが如何に優れた民族であるかを世界に轟かせるのも”四賢者”としてのお前の役目だ」


「……それは違うよ、父さん。確かに、僕達は魔力にも武術にも優れている。だけど、前線に戦うのは僕達の仕事じゃない。僕達はあくまで技術的な支援と、彼らの道を切り開くためのサポートだよ」


「何を言うか、私が若い頃は―――」


「……っ、確かに、父さんが”四賢者”の一人だった頃は、自ら前線に赴いて敵と戦うこともあったかもしれないけど今は時代が違うんだよ。今は、後方で技術的な支援や研究開発に徹するのが僕達の役目なんだ。勿論、戦力として働くのは吝かじゃないけど、それだってあくまで”軍”とのしての戦い方に徹する。個人の武勇としての役割は彼らの役割だよ」


「む、むう……」


「(……なんか風向きが変わってきたな……)」


 最初はクロードさんが感情的に反発しているように思ったけど、話を聞いてるとクロードさんの言ってる事の方が理に適ってる気がする……。


「あの、ボクもクロードさんの言い分の方が筋が通っているような気がします」


「なっ!? 息子が力不足だと言うのか!?」


「いえ、そうじゃなくて……」


「……すまない、キミ達。父さんはちょっと頑固者なんだよ」


「が、頑固者……」


 息子に頑固者と言われて若干ショックを受けたクライヴさんだった。


「あのね、父さん。父さんが昔エアリアルの魔法使いの中では飛び抜けて強かったことは知ってる。実際、僕も父さんの指導で魔法も剣術も教わったおかげで、こうして最年少で”四賢者”の称号を得ることが出来た。それは感謝している。だけど、僕は僕の考え方があるんだ。いつまでも父さんの言いなりになっていたら、僕はいつまで経っても一人前になれやしない」


「クロード……」


 クライヴさんは少し寂しそうな表情を見せた。


「(なんか親子のすれ違いって感じだな……)」


 僕がそんなことを考えていると、カレンさんが僕に耳打ちをしてきた。


「(ねぇレイ君。私達が口を挟むことじゃないと思うけど、二人が険悪な雰囲気になる前に解決した方がいいと思うわ)」


「(うん……そうだね)」


 僕は一度深く深呼吸をしてから、意を決してクロードさんに言った。


「あ、あのクロードさん。改めて、この魔導船の案内をしてくれませんか? ほら、魔王城に向かうまでまだ時間もありますし……僕の仲間と一緒に回っておきたいんです」


「え……まぁ構わないが…………そういうことか」


 クロードさんは少しだけ戸惑った後、僕の意図を理解してたようで、クライヴさんと向き合った。


「父さん、僕は今から彼らを案内してくるよ」


「……ああ、すまないなクロード。彼らの案内を任せた」


「うん……それじゃあ行こう、キミ達」


 クロードさんはクライヴさんに一礼して、僕達よりも先に部屋を出ていった。

 クライヴさんは彼が出ていった後、ため息を付いて言った。


「……どうやら、私が口出しをし過ぎていたようだな。息子の考えを理解せず、自分の考えだけを押し付けてしまった」


「大丈夫です、クライヴさん。クロードさんもちゃんと分かってくれてると思いますよ」


「ちゃーんと、わたし達がフォローしておきますから安心してくださいね♪」


「それでは、私達も失礼しますわ」


 そして、僕達三人も同じように頭を下げて船長室を出た。

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