第799話 弱気になるのを許さないお転婆勇者
王都の外に出ると丁度地上に着地した魔導船。その魔導船に乗った冒険者と騎士達が先に乗り込んでおり、僕達もその後に続く。
全員が魔導船に乗り込むと、魔導船で待機していたエアリアルの船乗員たちが「お気をつけて」と言って魔導船のハッチを閉める。
そして、魔導船は離陸する。高度が上がるにつれ、地上の様子がどんどん小さくなっていく。
「それでは、わたくし達も船内に入りましょうか」
「行きましょ、レイくん」
一緒にいたレベッカと姉さんが僕にそう言ってきた。僕は少し風に当たりたかったので、「後で行くよ」と答えて皆の背中を見送る。
そして、皆が船内に入っていくと、随分と遠くなった地上を甲板で眺めながらそれを甲板で眺めながら僕は呟いた。
「……今になってなんか緊張してきた」
まだ戦いは始まっていないのに、僕の心臓の鼓動は大きく激しくなっていた。
これまでも戦いばかりの日々だったわけじゃないが、それでも僕達は十分な戦いの経験を積んでおり、不完全な状態ではあったものの一度は魔王を撃退した実績がある。
その経験が自信に繋がっていたため今まで緊張せず居られた。
だが―――
「……勝てるのかな、僕達……」
ここまで言葉に出すことを避けていたが、僕も遂にその言葉を呟いてしまった。すると後ろからコツンと僕の頭を軽く叩かれてしまう。
「こ~ら、何を弱気になってるのかしら?」
「え?」
後ろを振り返ると、武装したカレンさんとサクラちゃんの姿があった。
最近はずっとドレスのような女の子らしい服装ばかりしていたカレンだったからちょっと新鮮だ。
サクラちゃんの方は、元々冒険者として活動することが多かったため見慣れた衣装だが、普段よりも装備が一段階気合いが入っているようだ。
「カレンさんとサクラちゃん……」
「どもーです。レイさん♪」
「貴方の姿を見てすぐに声を掛けようと思ったんだけど、なーんか弱気な事言ってたからつい手が出ちゃった。どうしたの、今になって怖気づいちゃった?」
「そうですよ、レイさん! 魔王をやっつけた時のレイさんならもっと頼もしいですよ!」
カレンさんとサクラちゃんが僕を元気づけるようにそう言ってくれる。僕は弱気になっている自分自身に苦笑しつつ、二人に謝罪した。
「見られちゃったか……ごめんね。いよいよ決戦だと思うとつい緊張して……あはは……僕ってこういう時本当にダメだよね……」
「レイさん、こういう時は自分を奮い立たせましょう!! 『我こそは世界最強の勇者なり! 我に敵う者などこの世におらぬ!』みたい叫んで、ほら!!」
「嫌だよそんなの!? 全然僕のキャラじゃないし!?」
「えーじゃあ、レイさんのイメージに合わせるなら……『ふふっ、所詮は旧世代の魔王、真の勇者の力に目覚めた僕の敵じゃないよ……!』……あれ? レイさんってこんな感じでしたっけ?」
「サクラちゃんの中の僕のイメージどうなってんの!?」
サクラちゃんが変なことを言うので、思わずツッコミを入れてしまった。
「ま、冗談はさておき」
そんな僕達のやり取りを見てカレンさんは両手を軽く叩いてそう言ってきた。
「レイ君が緊張する気持ちも凄く分かるけど、今回は私達を含めて騎士団や冒険者の連中も全員参加するからそんなに気負いしなくても大丈夫よ」
「あ、でも魔王さんを退治するのは私達の勇者パーティの役目ですけどね!昔から魔王を倒すのは伝説の勇者だって相場が決まってますし♪」
「もう、それだと余計緊張しちゃうじゃないサクラ……ところで、伝説って?」
「はい♪」
「いや、そこで『はい♪』と言われても……」
「先輩だって知ってるじゃないですか、今まで魔王を倒してきたのは神様に選定された勇者達ですよ。 つまり、今期は私とレイさんの二人じゃないですかー♪」
「それはそうだけどいつから伝説扱いになってたのよ。勇者の話なんて子供の絵本や歴史の教科書にも載ってるくらい有名な話でしょ? 伝説なんかじゃなくて歴史的事実よ」
「先輩、そこは”伝説”って言った方がカッコいいじゃないですか!!」
「も、もう……本当にこの子は……」
僕が苦笑していると、カレンさんが咳払いをしてから僕に話し掛けてきた。
「ごめんねレイ君、サクラが変な事ばっかり言って」
「ううん、気にしないで。サクラちゃんも僕を励ますために普段よりも明るく振る舞ってくれてるんでしょ?」
「あはっ……バレました? レイさん、なんだかんだ言って鋭いですねぇ……」
「ありがとね、サクラちゃん」
僕はそう言いながら彼女の赤い髪を撫でる。すると、サクラちゃんはびっくりした様子で僕から距離を取って、僕が撫でた場所を手で抑えて言った。
「な、何するんですかレイさん!」
「あ、あれ……? 気に入らなかった……?」
「女の子の髪を気安く触っちゃダメですよ!! レイさん、周りが女の子ばかりだからって、ちょっと女性の扱いに慣れすぎです!!」
「そんなつもりはないんだけど…………おかしいな……魔法学校の子供達ならこうすると喜んでくれたんだけど……」
「えっ……わたし、そっち側の扱いですか!? 」
「だってサクラちゃん子供っぽいし」
「『女の子』じゃなくて『子供』扱いなの!? レイさん、わたしこれでも十五歳ですよ!? レイさんと二つしか違いません!」
「いやまぁそうなんだけど……」
「大体レイさん、初めて会ったときはわたしを見て滅茶苦茶意識してたじゃないですか! あの時絶対ちょっとエッチな感じで見てましたよね!?」
「直球過ぎない!? ……いや、確かに初めて会った時は、鎧の露出の多さと胸の大きさでつい目線いっちゃったけど……」
「ほら、やっぱりそうじゃないですか、えっちー!」
サクラちゃんは胸元を抑えて顔を赤らめながら僕を軽く罵倒する。
「(あの時のレイ君、真面目な子だと思ったのに……)」
レイの正直な感想を聞いて、地味にショックを受けていたカレンだった。
「でも、今は全然そんな気持ちにならないから安心して」
「それってどういう意味ですかー!!」
「サクラちゃんって最近は妹みたいな感じがして、異性としては見れなくなったっていうか……」
「それ絶対喜んでいい事じゃないですよね!?」
「そんな事ないよ。僕の対象範囲から外れてるだけでサクラちゃんは全然可愛いよ。カレンさんもそう思うよね?」
「レイ君、私に突然振らないで……確かにサクラも黙ってれば可愛いと思うけど……」
「それ、つまりわたしが喋ってると可愛くないって意味ですか!?」
「冗談よ冗談。サクラは私にとって癒しだもの。……ほら、レイ君もあんまりサクラをからかわないであげて」
「はーい」
僕がカレンさんに返事をすると、彼女はサクラちゃんの頭をポンと叩いて言った。
「……実はね、サクラもレイ君と話すまで緊張してたのよ。でも、レイ君が励ましてくれたおかげで緊張もほぐれたみたいね?」
「え、そうだったの?」
「えへへ……実はそうだったりします。レイさんに若干悪絡みしたのは、自分の緊張を解す為でもあったり……」
「意外……サクラちゃんは緊張とかしないと思ってたんだけど……」
普段の彼女は天真爛漫で、むしろ緊張とは最も縁遠い性格をしていると思っていた。
「良い感じに二人とも緊張が解けたみたいね。それじゃあ、私達も船内に入りましょうか……。あ、レイ君を船長室に連れてきてほしいって頼まれてたわ」
「え、僕を?」
「それにサクラもよ。待ってる人が居るから、このまま一緒に行きましょうか」
「あ、はい」
そうして僕はカレンさんとサクラちゃんと一緒に甲板を離れて船内の階段を降りて行った。
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