第798話 翼

 陛下と騎士団の後に続いて歩く冒険者達。

 王都の国民達は彼らの旅立ちを見守りながら手を振って声援を送る。


「頑張ってください!!」「応援しています!!」


 冒険者達は皆、笑顔で手を振ったり軽く手を振ったりして声援に応えながら王都を出る門を目指して歩く。


 そんな冒険者達の中に混ざって歩き始める僕達だったが……。


「おう、お前達」


 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこには装備を整えたアドレ—さんが立っていた。


「アドレーさん、どうも」


「また会えましたね、アドレーさん」


 僕と姉さんが彼にそう返事をすると、セレナさんが驚いた顔をする。


「アドレ—じゃない、久しぶりね!」


「お、セレナじゃないか。一年ぶりだな。相変わらずお前が元気そうに好き勝手やってて何よりだ。はっはっは」


「はっはっは、じゃないわよ。その鎧、冒険者を引退する前に使ってたモノじゃない。冒険者を引退したっていうのにこんな戦争に参加して、奥さん怒るんじゃない?」


「アイツなら許してくれるさ。しかし、王都にやって来た日にお前がここに住んでいると聞いて探していたんだがようやく会うことが出来たな」


「私を探してくれていたの? ちょっとだけ実家に帰ってたのよ、ごめんなさい。でも、久しぶりに肩を並べて戦う機会が巡ってきたというのに、それが魔物との戦争だなんてね……」


「まぁ仕方あるまいよ、人間と魔物との戦いなんざ今に始まったことじゃないしな。……そういえば、あの二人は来てないのか」


「あの二人はとっくに前線から身を引いてるでしょう。貴方もそうだと思ってたんだけどね……」


「なぁに、俺の息子が前線で肩肘張って戦ってるんだ。父である俺が息子の後ろに控えてばかりじゃ格好がつかんだろう。それに、前線から身を引いてはいるが、いざって時にはいつでも出られるよう準備はしているさ」


「なら安心ね……アドレ—が後ろに控えてると私の士気も少し上がっちゃうわ」


「はっはっはっ! そうだろう!もっと褒めてくれていいんだぞ!」


 歳の離れた二人だが、随分と仲が良さそうだ。すると、レベッカがエミリアにこう質問した。


「ふむ、お二人とも随分親しい関係なのでございますね? 一体どういったご関係なのでしょうか?」


「10年くらい昔に冒険者としてパーティを組んでたんですよ。歳もかなり離れているのに意外ですよね」


 エミリアはレベッカにそう答える。アドレーさんとセレナさんの話を聞くかぎり他にも一緒に組んでいたメンバーが居るようだが、アドレーさんの年齢は推定でも最低40歳以上なのに対してセレナさんはまだ20代前半だ。


 どういう形で知り合ったのか気になるが、これ以上詮索するのは無粋な気がする。


「……ん、おお、すまなかったな。俺達だけで盛り上がってしまって」


「ごめんなさいね、久しぶりだったからつい」


 僕達が会話に入れないのに気付いて二人が僕達に謝罪してきた。


「あ、いえ気にしないでください」


「さきほど、アドレー様が気になることを仰っておりましたが……『あの二人』とは?」


「ああ、俺達が昔組んでいた他のメンバーの二人の事だな」


「クラリアっていう女の人とアザレアって名前の男の人でね。今は二人とも結婚して冒険者家業も引退したって聞いてるわ」


「アザレア……」


 ……何処かで聞いた名前だ。なんだろう、少し前に知り合った人にそんな名前の人がいたような……?


「昔は俺とアザレアとクラリア、そして後から入ってきたセレナの四人で色々な場所を巡って冒険したものだ」


「懐かしいわねぇ……その頃の私は今のミリーちゃんよりも子供だったわ」


「昔のお前は世間知らずのお子様って感じで、自分の事を天才魔法少女だとか言って周囲を驚かせていたな。それが今はこんな立派になって……」


「ちょっと、妹の前で変な事を言わないでよね!」


「おっと、悪い悪い。今のは忘れてくれ」


 アドレーさんは笑ってセレナさんにそう謝罪する。


「……やっぱりエミリアってセレナさんに似てるよね?」


「……ふふ、そうでございますね」


 僕の呟きにレベッカが微笑して頷く。それを聞いたエミリアは気恥ずかしそうな表情をする。


「そんなに似てますか? セレナ姉は私と違って自信家だし、外見以外の共通点が少ないと思うんですが……」


「内心はともかく他人に自分の事を紹介する時だけ妙に自信満々な所……とか」


「うぐ……」


「それと、クールな雰囲気を漂わせておりますが、本当は家族想いの優しい方である所……などでしょうか」


「ぐぐ……」


 エミリアは反論出来ないのか顔を赤らめて俯く。


「あら、ミリーちゃんは昔から良い子よ? 私の自慢の可愛い妹だもの」


「せ、セレナ姉……止めて下さいよ……恥ずかしいですから……」


 セレナさんに褒められてエミリアはさらに顔を赤らめて俯く。そのやり取りを見て、アドレーさんが微笑する。


「はっはっは! さて、ここまでずっと王都の出口を目指して歩いていたが、そろそろ門を出るころだな……っと!」


 その時、地面がぐらりと揺れた。


「地震?」


「……そうではないみたいね。皆、空を見て」


 ノルンはそう言って空を指差す。

 そこには、大きな船のような乗り物が空を飛んでいた。


「な、なんだアレは……!?」


「浮遊してやがるぞ!?」


 他の冒険者が空を見上げて驚いている中、僕はその飛行物体に見覚えがあった。


「……あれってもしかして!」


「……エアリアルの魔導船……!」


 僕達がその船の正体を口にすると、騎士達を引き連れて歩いていたグラン国王陛下が叫んだ。


「あれを見よ!! あの船こそ、魔王城へ向かうための翼だ!! さぁ、未来の英雄たちよ、あの翼にのって我らも空へと旅立とうではないか!!」


「おお……」


「すげぇ!」


 皆、口々にその船を見て感嘆の声を上げる。そして、皆がその魔導船を追うように走り出す。


「私達も行きましょう」


「うん」


 そして僕達は冒険者達や騎士達と一緒に、地上に降りてきたエアリアルの魔導船に乗り込んだ。

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