第797話 一応、最終決戦の幕開け

 そして、遂に決戦の日の朝を迎える。

 僕達は準備を済ませて朝食を食べて、それから集合場所に向かった。


 そこには王都に集められた冒険者と腕に覚えのある武芸者達、そして騎士団が面々がズラリと集まっていた。皆、今回の戦いの為に集められた勇士達だ。


 王都の住民たちもこれから何が起こるのか不安げな様子で遠巻きに見つめていた。僕達が歩いて集まっている所に行くと、人混みに紛れていたエミリアの姉のセレナさんが僕達を見つけて声を出す。


「ミリーちゃーん!!」

「あ、セレナ姉……」


 エミリアは幼少の頃の愛称で呼ばれたことで、誰が呼んでいるのか気付いたのだろう。すぐに人混みを掻き分けてセレナさんの方に走っていく。


 僕達もエミリアを追って走り出してセレナさんの元へ向かう。


「皆、久しぶりね。ミリーちゃん、寂しくなかった?」


「いえ、そんなに」


「な、なんですって……! あの寂しがり屋なミリーちゃんが……!」


 セレナさんは驚いた顔で固まる。


「いや、それまで数年会えなかったんですから、今更数週間会えないだけで寂しいとか無いですよ」


 案外塩対応のエミリアだった。


「うう……内緒で王都を出たから、エミリアちゃんに寂しい想いをさせてると思ってたんだけど……もしかして、私が居ない間に義弟くんと何かあったのかしら………(チラッ)」


 セレナさんは僕に意味深な目配せを送ってくる。


「何もないですからこっち見ないでください」


 本当は色々あったけど黙っておく。


「それよりもセレナ姉、王都を離れて何処に行ってたんですか?」


「あ、そうそう。ちょっと思い出したことがあって実家の方に戻ってたのよ。この本を持ってくるためにね」


 そう言いながらセレナさんは古びた本を胸の谷間から取り出す。


「(いや、どっから出してるんだこの人!?)」


 確かに豊かで大きな胸をしてはいるのだけど、どう考えても胸の間に挟んで保存するようなものではない。もしかして魔法か何かで胸の間に異次元空間を作り出して物体を保管するような魔法があったりするのだろうか。


「もしかして姉さんも出来るの?」

「え、レイくん、突然何を言ってるの」


 隣に居た姉さんに質問してみたのだが、どうやら意図が伝わらなかったようだ。


「その本、私が昔読み書きしていた本じゃないですか。なんで今更そんなものを……?」


「昔、ミリーちゃんが読み書きの勉強の時によく読んでいた本だもの。ミリーちゃんの顔を見たらつい読み返したくなってね……」


「何か恥ずかしいですね……」


 エミリアは少し顔を赤らめて本を受け取る。


「この本、ミリーちゃんの為に父と母が手描きで書いたものだったのよ。話の内容もページの間に挟まったイラストも全部ね、ほら、この絵なんか手作り感満載でしょ?」


 セレナさんが指差す本に描かれた絵は、確かに何処か素人臭くて如何にもな絵だった。


 絵の内容は小さな女の子が描かれているのだろう。絵のモデルはおそらく幼少の頃のエミリアだ。決して上手くはないが、イラストから一生懸命に描いたことが伺えるものだった。


「お父さんとお母さんの……」


「両親はもう病気で居なくなっちゃったけど、今もミリーちゃんを見守っていると思うわ。その本、大事にしててね」


「はい……!」


 エミリアはセレナさんから本を受け取ると、それを大事に抱きしめる。


「さて……いよいよ魔王討伐の日ね」


「セレナさんも参加するんですか?」


「ええ、といっても私は今の所誰かと組まずに単独でやらせてもらうけどね。あんまり団体行動は得意じゃないのよ」


 この人の性格的にはそうだろうなと一瞬納得しかけたが、目の前に居る妹と一緒に行動はしないのだろうか?


「僕達とは行かないんですか?」


「そうしたいところだけど……私は連携して戦うよりは一人の方が強いから。それに、貴方たちが魔王を倒す前に私が倒しちゃうのもあれだしね」


「(自信満々だな、この人)」


 正直、魔王を倒す自信があんまりないからこの人にやってほしくなる。


「サクライくん、国王陛下が出てきたよ」

「ん」


 僕達が雑談していると、集合場所からグラン国王陛下が姿を現した。どういうわけか普段の子供の姿ではなく青年の姿に戻っている。


 だが、その分威厳のある姿になっており、陛下の姿を見た国民達は歓喜の声を上げる。


「皆、よく集まってくれた。これより魔王討伐の為の遠征を執り行う! 各員、準備は良いか!!」


「おおぉぉぉぉぉ!!」


 国王陛下の掛け声と共に騎士団から大きな歓声が上がる。流石は英雄王と謳われるグラン国王だ。国民の信頼も厚いのだろう。


「此度の旅は非常に過酷なものとなろう。しかし、この戦いを制すれば魔物との長い争いに終止符が打たれて平和を取り戻すことになるだろう。皆の力を私に貸してくれ!!」


「おおぉぉぉぉ!!!」


 再度、騎士団から歓声が上がる。


「そして一騎当千の冒険者達よ! キミ達の目の前には栄光への道が開かれている!

 この戦いでこの国の歴史に名を刻むのだ!!そうすれば、キミ達は歴史に残る大英雄の一人となる!!」


「うおおぉぉ!!」


 冒険者からも歓声が上がる。


「さぁ、皆の者! この魔王討伐の為の遠征に出発するぞ!! 皆の力を私に貸してくれ!!」


「うおおぉぉぉぉ!!」


 国王陛下の言葉に国民達は大きな歓声で答えた。士気は十分だ。後は魔王を討伐して平和を取り戻すだけだ。


「……よし、皆、僕達も行こう!」


 自分なりに気合いを入れて、皆に声をかけた。皆は頷き、ボク達も後に続いて歩き出す。 

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