第795話 二人だけの時間
王都が魔王討伐に動き出すまで、あと二日―――
グラン陛下の私室にて。
「―――グラン陛下、ついに魔王軍に対抗するための”極光の槍”が完成しました。既に調整も済んでおり、あとは魔導船に運搬するのみです」
「……そうか……御苦労、ウィンド君」
「魔法都市エアリアルの賢者達の協力を得られたお陰で、実験中に事故が起きることもありませんでした。あとはこの魔王軍への対抗策である”極光の槍”を魔導船に搭載し、王都から発進するのみです」
「うむ……ここまで長かった……。先代勇者と先代魔王が滅んでから四十年……魔王復活の兆候を感じ取ってからずっと秘密裏に開発を進めてきたこの新兵器……理論的には可能だと証明はされていたのだが、どうしてもその動力部の開発に難航していた。それを魔法都市の先人達が遺した技術の知恵によってようやく形となった……彼らには感謝せねばならんな……当然、キミにも感謝しなければ、ウィンド君」
「……いえ、私だけでは橋渡しがせいぜいでした。本当の立役者は、その力を賢者達に認められ魔法都市と地上の民の確執を拭い去ってくれた彼ら(レイ達)でしょう」
「……そうだな。若い少年少女達だというのに、彼らは素晴らしい偉業を成し遂げてくれた」
「ええ、ですがここからが本番です」
「……魔王か」
「はい、如何に強力な平気で魔物達を殲滅しようとも、魔王の命がある限り魔物と永久に戦い続けなければなりません。彼らには今度こそ確実に魔王を討ち取って貰わねばいけないのです」
「……その役割、別に彼らでなくてもいいのではないか? 例えば、私の中に残った僅かな”勇者”としての能力を使えば……」
「……陛下、そのような事をお考えにならないでください。
陛下の今の肉体は女神イリスティリアからもたらされた生命エネルギーと体内に残っている勇者としての核によってどうにか生き永らえている状態です。もし、陛下がこれ以上その力を使ってしまえば、陛下の身体は欠片も残らず消滅してしまうかもしれないのです」
「分かっている……だが、何も彼らのような若者に世界の命運を託す必要はないだろう。私など、本来ならとっくに死に果てていた存在だ。それでもこんな身体になって生き続けているのは、私が人間の未来の為にこの命を捧げるために神より賜った使命を果たす為だと考えている」
「陛下……それでも、私は……陛下に……」
「……キミが私の事を慕ってくれていることは承知している。今更変な事を言ってしまったな……すまない……」
「!! ……知って、いらしたのですか?」
「キミの私を見る熱の籠った瞳を見て、何も気付かないほど私は間抜けではないさ」
「そ、そうでしたか……お恥ずかしい」
「……キミをこの王宮に招待してもう二十年か……私にとってはまだまだ最近の出来事だと思っていたのだが、どうやら不死の身体になって自分の時間の感覚が狂ってしまったらしい……。日に日に、自分が人間とは違う存在になっていくことに焦燥感を覚えていくよ」
「……陛下……」
「……正直な気持ちを言おう。私はもう”王”を演じることに疲れたんだ。かつての魔王を倒した同時に呪いに犯された私はそのまま死ぬつもりでいたが、それを女神によって命を救われてしまったことで私は、この不死となった肉体で、永遠に民を導く王として永劫の時を過ごさなければならなくなった。だが、今代の勇者がまだ幼い少年少女だと知った時……私は彼らこそが自分の代わりにこの場所にを担うに相応しい存在なのではないかと思ったんだ」
「陛下……それは……」
「……いや、すまない。こんな話をしてもキミ達を困らせるだけだな。忘れてくれ……」
「……」
「ウィンド君、キミはこの国に必要不可欠な存在だ。もし、私や彼が命を落としてしまった時、キミ以外にこの国を任せられる人間は存在しない。だから、キミは魔王討伐に参加するのは――」
「――っ!!」
ウィンドは陛下の言おうとした言葉を遮って、陛下の身体にしがみ付く。
「……ウィンド君」
「……そのような事を仰らないでください!! 祖国に失望し、抜け殻となっていた私に居場所を下さったのは陛下、貴方ではありませんか!!
私は貴方の向かう先であればどこへだって付いて行きます。たとえ、そこが死地であっても、光が永遠に届かない深淵であろうとも、私は貴方のお傍に居ると誓いました!!」
ウィンドは涙ながらに陛下に訴える。
「……すまない、少し弱気になっていたな」
「いえ……私の方こそ出過ぎた真似を……」
「……キミのような存在が傍に居ながら、私は勝手に破滅へ向かおうとしていたようだ……済まない……」
「いえ、そんな……」
「……キミが、もしよければなんだが……」
「……はい」
「……この戦いが終わったら、私と結婚しよう」
「!!」
「魔王を倒し、生きて戻ることが出来たのなら……私と一緒になってくれないか? そして、勇者レイ達が無事に魔王を倒せたなら……私達の結婚式に彼らを招こう。世界一最高のの結婚式にしてみせるよ」
「陛下……」
ウィンドは目を涙で潤ませながら再び陛下に抱き着く。
「はい、必ずやこの命に変えても貴方を守り通して見せます。貴方の隣で貴方の夢である民の笑顔が溢れる国を見る為に」
「ありがとう……私も、キミの命を守ろう……ずっと傍に居てほしい……」
「陛下……!」
そして、二人は抱擁し合い、お互いの唇を重ねた。
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