第794話 キャットファイトという名の女子会
次の日、カレンの家にて―――
「……ということを昨日レイが言ってました」
エミリアはカレンに用意してもらったクッキーと紅茶を楽しみながら、昨日の出来事を語って聞かせた。
「へぇ……レイ君がそんな事を……」
「ええ、魔王討伐の前にやっておきたい事とか、何か心残りがないか~とか皆に質問してました。きっと、何かしてほしいことがあると言えば協力したい、とかそんな感じに考えたんじゃないですかね」
「相変わらず彼は優しいわね……でも、誰も要望はしなかったのよね?」
「私達が望むことは全てを終えた後の話ですからね……。陛下は自分が死ぬかもしれないから心残りを今の間に済ませておけという意味で言ったんでしょうが、生憎全員生存しないと叶えられない事なんですよ。なら、心残りがどうとか関係ないでしょう」
「ふふっ……そうね」
カレンはエミリアの説明を聞いて苦笑しながら同意する。
「二人ともー、何の話ですか~」
エミリアとカレンが話していると、カレンの家のもう一人の同居人が割り込んでくる。エミリアが訪ねてくる前は二人で昼食を摂っていて、今まで台所で可愛らしい花柄のエプロンを付けて後片付けをしていたようだ。
「サクラ、久しぶりですね」
「お疲れ様、食事の片付けをサクラに任せちゃってごめんね」
「いえいえ~。それより、何の話をしてるんですか~?」
「あー、魔王討伐の日が近いじゃないですか。その前に今の内にやっとくことがないかー的な話ですよ。ほら、サクラは何かあります?」
「わたし? そーですねぇ……? 」
サクラは首を傾げながら指を頬に当てて考える。
「……うーん、そもそも何故魔王討伐前にやる必要があるんです?」
「魔物との戦いで生きて帰ってこれるかどうか分からない。なら、悔いが無いように今のうちからやれることをやっておきたいって話です」
「あー、成程……確かにそうですね~。んー……心残りは色々あるんですけどぉ……」
「サクラに心残りなんてあったの?」
「あー、先輩酷いですよー。わたしだって色々考えてるんですー! たとえばぁー、わたしが居なくなったらこの間拾ってきた捨て猫ちゃんのお世話どうするかとかぁ……。あと、先輩と団長に言いたい事もたくさんあるんですよー? 最近、わたしに仕事押し付け過ぎじゃ~とか?」
「前者はともかく、後者は本当にゴメン」
カレンも思う所があったのか、すぐさま反応して軽く頭を下げる。
「他にはそうですねぇ……そういえば、最近アレやってない気がします。
アリスやミーシャと組んでた時は、冒険者の仕事の合間のリラックスとしてよく遊びにいってたんですけどー」
「アレって何のことよ、サクラ?」
「冒険? ダンジョン攻略してお宝探しとかでもオッケーですよ♪」
「それ、三日や四日じゃ多分終わらないわよね……」
「何言ってるんですか先輩、命懸けでダンジョン攻略したのに一日でクリアなんてつまらないじゃないですか~」
相変わらず、サクラは冒険者稼業も楽しんでいるようだった。
「あとあれですよ。皆と一緒に温泉です!」
「良いわね、それ。魔王討伐が終わったらレイ君達も誘って皆で行きましょう。私、昔お母様に連れて行ってもらったことのある老舗の良い旅館を知ってるわ」
「……カレンが言うってことは、貴族御用達の……」
「やーねぇ、確かに貴族の人ばっかり来る旅館だけど普通の人達も来るわよ。評判の良い混浴の温泉がで二人もきっと気に入ると思うわ」
「あ、あの……レイさんも誘うんですか?」
すると、サクラは若干顔を赤らめてそうカレンに質問する。
「え、そうだけど……?」
「レイさん男性ですよね……。流石にわたし達と一緒に行くのは色々不味くありません? その、レイさんに問題があるわけじゃなくてレイさんに変な噂が立たないか心配で……」
「……まぁ」
「……そうね」
エミリアとカレンは顔を見合わせて頷く。
「英雄色を好むって事で大半の人が納得するんじゃないかと」
「この後、レイ君には魔王を倒してもらう事になるんだし、少しは羽を伸ばさせてあげたいわ。細かい事気にしちゃダメよ」
「せ、先輩はレイさんに見られて恥ずかしくないんですか!?」
「……(ポッ)」
「なんで照れてるんですか!? 」
その後もしばらく言い合いは続き……結局、温泉の話は保留となったとさ。
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