第791話 爆発オチ

 エミリアとルナが再度ぶつかり激烈な魔法合戦を初めてから十分程経過した頃。


 一方で、レイとレベッカの戦いの方は―――


「………」

「………っ」


 戦いの勝敗はほぼ確定していた。


 防御に専念して致命的な攻撃をギリギリ押し留めるレベッカ。そして、相手の状態を把握しつつ的確に僅かな隙を練って攻撃を繰り返すレイ。一見互角に見える戦いだが、明らかな差が出ていた。


 レベッカは<心眼・改>の相手の気配や息遣いなどで動きを読んで最適な防御や返し技を行うが、レイ<心眼看破>を活用した高速思考はそれすら前提で推測して次の行動に移る。攻勢に出れないレベッカは常にギリギリの判断を要求されており消耗が大きすぎる。


 一方、レイも本気で攻めているがまだ僅かに手心を加えている状態だ。互いの技量そのものは大きく離れていないが、精神面と体力面で大きな差が生まれていた。


「……レベッカ、まだやる?」

「………」


 互いの武器でおよそ二百七十三回打ち合い、互いに体力の消耗が大きくなってきた頃、レイは足を止めて静かにレベッカに問う。


 レベッカも足を止めてから、しばし呼吸を整えてからレイをじっと見て答える。



「……いえ、わたくしの敗北を認めます」


 レベッカは目を閉じてその場に膝をついて構えていた槍を地面に静かに置いて敗北を認める。彼女はこれ以上粘ってもいずれ完封されて自分が敗北してしまう事を悟っていた。


 本当は限界ギリギリまで戦うつもりで勝負に挑んでいたのだが、レイの成長を確認出来たことで、それ以上の戦いは互いが辛くなるだけと気付いたためだ。


「うん……ありがとう、レベッカ」


 レイはレベッカの降参を素直に受け入れ、聖剣を鞘に納める。


【視点:レイ】


 レベッカが敗北を認めたことで、この戦いはレイ&ルナのペアの勝利となる。当然、この戦いを一部始終映像魔法によって審判していたカレンは、勝負の決着を認めて終了を宣言する。


『――そこまで! この勝負、レイ君とルナちゃんのペアの勝利よ!!』


 カレンさんの高らかな宣言が闘技場に響き渡る。それと聞いた僕とレベッカは同時に肩を落として、緊迫した空気が弛緩してその場に大の字に倒れた。


「……はぁ……しんどい」


「……修練とはいえ、ここまで精神を研ぎ澄まして戦うとなると疲れも相当なものでございます……」


 僕とレベッカは仰向けになり、各々が試合内容についての感想を述べる。


「レイ様、素晴らしい強さでございました。ここしばらくの鍛錬でようやく追いつけたと思っていたのですが……」


「ううん、レベッカだって凄かったよ。数日前ならこうはならなかったと思う」


 今回の戦い、実力そのものは殆ど互角のはずだった。


 差が出たのは数日前、僕がミリク様に勇者の力を完全に引き出してもらったのが理由だ。同じように切磋琢磨して強くなっていったのに、最終的に僕が外部的な手段で強くなってしまったはズルい手段を使ってしまったようで申し訳ないと感じてしまった。


「……ともあれレイ様がここまで強くなってくだされば、魔王と対峙しても決して負けることはございませんね」


「……善処します」


 自信があるかないかと言われたら全く無いけど、そう思う事にしとこう。


 二人がそんな風に話している間、エミリアとルナの方は―――


『ちょっとお!! 勝負が付いたって言ってるでしょぉぉぉぉ!?』


 カレンさんが試合終了を宣言したというのに、エミリアとルナは相変わらず勝負を止めずに戦い続けていた。


「黙っててください、今良いところなんですから!!!」


 エミリアはカレンに言い返しながら大量の攻撃魔法をバラまいてルナに攻撃を仕掛ける。対するルナは、言い返す余裕こそないが、自身の限界を超えて魔力を作り出して何とかエミリアの魔法に対抗して、ルナは自分がまともに扱える中級魔法を更に巨大化して膨れ上がらせる。


 そして極大化させた結果、エミリアの降り注ぐ魔力までも取り込んで、それが臨界点に達して———


 二人の戦いの中心で大爆発を引き起こした。


「きゃああああああ!!!」

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 当然、戦いの中心に居た二人は爆発に巻き込まれ、そのまま吹き飛ばされる。そして、闘技場に組み込まれた安全装置により、炎上する周囲を沈めるためにスプリンクラーが作動する。同時に彼女達にも薄いバリアが発生し、爆発の衝撃が極限まで抑えられる。


『あぁ!? もう何やってるのよぉぉ!!』


 その様を見たカレンさんは、頭を抱えて闘技場全体に響き渡るような声で叫ぶ。


「……エミリア、何やってんの」


「……ルナ様、聞いてはおりましたが、凄まじい魔力でございますね」


 戦いを終えた僕達は、二人の戦いに巻き込まれない様に既に闘技場から退避して観客席に避難していた。


『ちょっとレイ君、レベッカちゃん! 二人がちゃんと生きてるか確認して!!』


 カレンさんのあんまりな言葉に、僕とレベッカは闘技場に上がり二人が吹き飛ばされた場所を確認しに行く。安全装置は作動したはずなのだが、爆発の衝撃で飛び散った瓦礫の破片が飛び交って半壊していた。


 そして、当の二人といえば……。


「エミリア、無事!?」

「ルナ様、お怪我はありませんか!?」


 僕達は急いで倒れた二人に駆け寄って彼女達の身体を揺すって声を掛ける。すると、エミリアはすぐに目を覚まして自分の足で立ちあがった。しかし、ルナの方は……。


「うぅ……」

「ルナ様、ルナ様、わたくしの声が聞こえますでしょうか……!?」


 レベッカは彼女の意識がすぐに戻らないと思い、必死に呼びかける。


「エミリア、どう考えてもやり過ぎだよ!」

「ご、ごめんなさい、つい力が入り過ぎてしまって……」


 エミリアは改めてルナの様子を見る。彼女は苦しそうにしながら、何か呻いているが……。


「……? ルナ様の身体が徐々に熱くなって……」


 レベッカが何かを感じ取った瞬間、ルナの身体が突然輝いた。


「え」

「え」


 予想もしない展開に僕とエミリアは思わず間の抜けた声を出す。


 そして、輝きが収まるとそこには――


『…………』


 以前よりも更に大きくなったドラゴン化したルナの姿があった。


「……竜化してる」


「……忘れてました。ルナって竜に変身できたんですよね……あはは」


 エミリアの乾いた笑いが響く。だが、ドラゴンとなった竜の顔はこちらを向き、その目は明らかにエミリアを睨んでいた。そして、ドラゴンの咆哮と共に聞き慣れたルナの大声が聞こえる。


『もう怒ったよエミリアちゃん! 私だって怒るんだから!!!』


「……エミリア、謝った方がいいんじゃない?」

「……ごめんなさい」


 流石にドラゴン化されたら降参するしかなかったようでエミリアは素直に謝った。こうして、エミリアVSルナの戦いは、エミリアの謝罪という形で決着が付くことになった。


『……もう審判とか要らなかったじゃない』


 映像魔法のスクリーンの向こうでカレンさんがため息をついて呆れていた。

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