第789話 真面目に戦う二人

 レイとルナがそれぞれで別れて戦うようになって数分後――


「……ふぅ……ふぅ……」


「……っ」


 互いに息を切らしながら、一瞬の隙を見て疾風のように駆け出し火花が飛び散る。


 ――ガキンっ!


「くっ!」

「……っ!」


 レイとレベッカは剣と槍を一瞬の隙を見て突き出し、それを互いにギリギリの所で弾いて再び離れる。

 互いに敢えて魔法などを使用しない純粋な武器戦闘、しかし、その二人の動きは常人が認識出来る速度では無く、見ている人からすればまるで二人の周りだけが超高速で動いている様に見えるだろう。


「はぁ……はぁ……!」

「ふぅ……ふぅ……!」


 そして、彼らは再び踏み込むと同時に剣と槍をぶつけ合う。


「……っ!」


 レイの攻撃を何度も何度も受けながらそれを槍一本で凌ぎ続けるレベッカの表情が僅かに歪む。槍によるリーチと防戦に優れるレベッカだが、レイから何度も高頻度で繰り出される重い一撃を受ける度に少しずつ焦りが見え始めていた。


「(これで三十七合目……少々、手が震えてまいりましたね……!)」


 レベッカの額に冷や汗が浮かぶ。以前とレイと比べて、明らかにその攻撃の手数と鋭さが増している。

 レイとレベッカの戦いはこれで四度目。初戦は修練場での軽い手合わせ、二戦目は闘技大会準々決勝での大舞台、三戦目はサクラの思い付きで唐突に始まった手合わせ。どの戦いも必ず接戦になったとはいえ、明確に力差が出ることは一度も無かった。


 だが、この四度目の戦い、明確に有利に戦いを進めているのはレイの方だった。


「(少しずつ、レベッカの攻め手が減ってきているな……)」


 レベッカの鉄壁の防御を崩すために、レイは色々な手段を模索しながら何度も剣による連撃を繰り返す。最初の方は同じ頻度でレベッカが返し技を披露してこちらの隙を狙い潰しに掛かってきたのだが、その頻度が徐々に減ってきている。


 こちらを消耗させてから一気に攻め込む狙いか……とも考えたのだが、どうやら違うようだ。レベッカの可愛らしい表情が徐々に硬くなり次第に息を切らしているように見える。


「―――隙あり!」


 ……が、そう考えているうちにレベッカが一瞬の隙をついてレイの剣を大きく弾いて、槍による強引な槍の一突きを繰り出す。だがレイは即座にその攻撃を身を逸らすだけで回避し、弾かれた剣を即座に戻してレベッカに振り下ろす。


「っ!」


 だが、レベッカは槍をその場で回転させる様にしてレイの剣の腹に槍を当てて軌道を逸らす。


 そして、レベッカは強引にレイの剣と槍で鍔迫り合いを行う状態になるが……単純な力の差になってしまうと、レベッカは更に厳しい展開になってしまう。


「……くぅ!!」

「……」


 彼女の槍から伝わってくる必死な彼女の抵抗を受けて、レイは彼女に対する申し訳無い気持ちが強くなり、槍と剣で押し合ってる力を弱めてしまう。


 しかし、それはレベッカに対して失礼な事だと思い直し、即座に力を込めて彼女の抵抗を押し返して後方に吹き飛ばす。


 態勢を崩されたレベッカは半ば反射的に槍をレイに薙ぎ払いけん制を行い、そのまま後方へジャンプして距離を取って状態を立て直す。


 一方、レイはレベッカの薙ぎ払いを冷静に後ろに下がって回避して、剣を構え直して彼女の動きを探る。


「……はぁ……はぁ……レイ様、見事でございます。ここまでお強くなられておられるとは……わたくしレベッカ、感服しております」


 息も乱れるほど体力的な余裕を失いつつあったレベッカだが、それでもレイに対しての賞賛の言葉は忘れない。


「レベッカも相変わらずの槍の腕だね。僕より全然体格が小さいのに本当凄いよ」


 対して、息を切らしていないレイは彼女の称賛を受け取って返事を返す。しかし、レイは続けて言った。


「でもレベッカ、もう体力が少ないんじゃないかな。このまま戦えば僕が勝っちゃうと思うけど、降参する気はない?」


 レイは軽く笑いながらそう言う。傍から見れば挑発のようにも思えなくもないが、純粋に彼女を心配した上での言葉だ。レベッカもそれを理解した上で返事を返す。


「……ふふ、そうはいきません。この戦いはレイ様とルナ様がどれだけ力を得られたかを見定める戦いでございます。

 わたくしの全身全霊を込めて、レイ様の全力を引き出してその力を見極めさせて頂きます。なので、まだ降参は出来かねます」


「そうか……じゃあ、レベッカに認めて貰えるようにもうちょっと頑張ってみるよ」


 レイはそう言って剣を構え直す。レベッカも槍を構え直してレイを見据える。


「……では参ります!」


 そして、戦いは再開された。

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