第785話 エミリア、ピンチ?
それから10分程してレイの休憩は終わり、今度はルナとエミリアの二人が闘技場の真ん中で向き合って立っていた。
ちなみにレイは二人の様子を見ながら観客席で見学中だ。椅子に座りながら姉のベルフラウが作ってくれたお弁当をゆっくり食べている。
【視点:エミリア】
「うう……緊張する……」
「そんな緊張しなくても大丈夫ですよ、ちょっと力を見るだけですから」
私はまともな実戦を経験したことのないルナに向けて、なるべく緊張しないように声を掛けます。彼女はレイや私と違って戦闘の素人ですし、魔法もまだ習い始めですからね……。
もし、戦いが辛いようであれば、彼女だけは魔王討伐に参加せずに支援に努めてもらうことも考えないといけません。
「二人とも、頑張ってねー」
客席の方から間延びした声のレイの声が聞こえてくる。ベルフラウに持たされたお弁当と水筒を用意して完全にリラックスモードですね……。
まぁ私の無茶な要望を達成してくれたので、文句はないです。ゆっくり休んでてください。
「準備は出来ていますか、ルナ。私の方は準備万端ですよ」
「わ、わっ! ま、待って!」
私はいつもの装備を身に纏ってルナに杖を向けて彼女に確認を取ります。ルナもワタワタとした様子で杖をこっちに構えて顔をこわばらせます。
……いきなり実戦をさせるのは流石に心苦しい。最初は向こうのペースに合わせてあまり手を出さないでおきましょうか。
「ルナ、最初はまず簡単な魔法から軽く打ち合ってみましょう。こちらは貴女の魔法を見てから合わせ撃ちするので、自由にやってみてください」
「う、うん……」
レイの話によると、相当魔力が上がって威力が跳ね上がっていると聞いてますが、流石に私のレベルには到達していないでしょう。
どの程度の能力アップがあったのか最初に把握しておいて、その後に動きながら実戦形式で行うのがいいでしょうね。
「じゃあいくね……
ルナは杖の先端をこちらに向け、そこから魔法の矢を放ってきました。
自身の魔力を小さな矢に見立てて物質化して放つ、攻撃魔法でも最も初歩の魔法です。その魔法がやや遅めの速度で向かってきますが、狙いが甘いせいか私の位置から横に逸れてあらぬ方向に流れていきます。
「ふむ」
無理矢理相殺しても良いのですが、直撃コースで無ければ別に無力化する必要はありませんね。そのまま彼女に狙いを付けて同種の魔法を放ちます。
「
そして、私の放った魔法は彼女の魔法の矢の三倍以上の速度で打ち出され、彼女の数センチ横をスレスレに通り過ぎていきました。
「ふえっ!?」
ルナはびっくりした様子で大げさに見えるくらいに仰け反って回避します。
「こ、怖い……!」
「……わざと外しましたが、ルナはまだまだ狙いが甘いですね。
杖を構える時の手が震えています。相手を見ているようで魔法を撃つときに意識が逸れて狙いが定まっていません。慣れないうちはワキを締めて杖を固定してすると良いですよ」
「き、気を付けますぅ」
「よしよし、良い子です。じゃあ次はもうちょっと強い魔法を撃ってください。杖を固定して狙いをぶれない様に意識してくださいね」
「分かった……
ルナは今度は炎属性の魔法を放つと、今度はキチンと私に向かって小さな火の球が飛んできます。これなら相殺しても問題なさそうですね。
「では、こちらも……
こちらもルナの火の球の大きさに合わせて同種の魔法を放ちます。そして両者の魔法がぶつかり合い、見事に相殺――するかと思ったのですが……。
「は?」
どういうわけか私の魔法が一方的に打ち消されて、彼女の魔法が何事も無かったかのようにこちらにゆっくりと飛んできます。
「(え、なにこれ、どゆことですか?)」
予想もしなかったことに軽く混乱した私は、すぐに気を取り直して同種の魔法を即座に連続で二発放ちます。
ルナの魔法の弾速が遅いのもありますが、その気になれば私はルナが1回魔法を使う間に同種の魔法を3回立て続けに撃つことも出来ちゃいます。
「は、はやっ!?」
ルナも私の魔法の速度にビックリしたようですが、流石に二度目は無いでしょう。私の魔法が再び彼女の魔法と衝突すると、今度は3秒ほど拮抗してこちらがやや押し込まれた後にようやく相殺することに成功しました。
「すごいね、エミリアちゃん。私が一発撃つ間に連続で撃つなんて……」
「え、ええ……まぁ、技量の差がありますし……」
ルナに笑顔で返事をしながらも、私は内心動揺してしていました。
「(今の連発の魔法……私、うっかり焦って手加減無しで撃ったはずなんですが……)」
それだというのに拮抗してようやく相殺していたあたり、ルナの魔法の威力が上がっているのは明らかです。
というより、これ、私の威力を上回ってませんか?
「じゃあ、エミリアちゃん、次の魔法行くね!!」
「え、あ、ちょっと待って―――」
「
ルナは私の言葉に耳も傾けず、更に火力の高い炎属性の魔法を放ちます。
初級炎魔法の上位互換と呼べる火球の魔法。同じように火の塊を打ち出す魔法ではありますが、その大きさと威力はおおよそ5倍ほど跳ね上がっています。
そして、ルナの放った<火球>の大きさは、約230㎝前後……この大きさは、およそ全力で放つ私の<火球>と同等程度……!
弾速こそ相変わらずゆっくりしていますが、その巨大な炎の塊の迫る圧力は尋常では無い。
「この……
思わず私も、手加減を忘れて同程度の大きさの炎をぶつけて相殺しようとします。ですが、私と彼女の魔法がぶつかり合った末、10秒ほど拮抗した後、徐々にこちらの火球がこちらの方に圧されていることに気付いてしまいました。
「え、嘘……私の魔法が力負けしてる……!?」
私の動揺もよそに、炎の波は徐々にこちらの方に押し寄せてきます。それを呆然と見つめていると……。
「エミリアッ!!!」
「っ!!」
観客席から焦ったようなレイの声を聞いて、私は正気を取り戻します。そして、私の火球を完全に消滅されてこちらに迫ってきたルナの火球目掛けて、私は―――
「魔力解放――
私の奥の手の新魔法を解き放つ。私が使用した魔法は、<火球>の魔法を応用し昇華させたものだ。
火球の熱量を極限まで圧縮したお陰で、ルナの火球よりは一回り以上小さくなったものの、その分貫通力が跳ね上がっている。
予想通り、私の魔法は彼女の火球を貫いて彼女の魔法の内部から崩壊させましたが、本気で反撃し過ぎたせいで私の魔法がルナへ向かっていき―――
「きゃあああああ!!」
「っ!!!」
私は全速力で飛行魔法を使用。彼女の元へ一瞬で飛んでいき彼女の身体を抱えて魔法の範囲外まで脱出する。
「ご、ごめんなさい、思わず本気でやってしまいました……!」
「び、びっくりしたよぉ……」
ルナはそう言いながら、自分の居た場所を見る。私の魔法が通った場所は黒く焼き焦げていて闘技場の一部の床が剥げてしまっていました。
「大丈夫ですか? 怪我とかしてませんか?」
「うん、私は大丈夫……」
私とルナが空の上でホッとしていると、慌てた様子のレイが地上から声を掛けてきた。
「おーい、二人とも、平気!?」
「一応……」
「疲れたよぉ……」
私とルナは疲れた表情でレイにそう返事をした。その後、一度私達は訓練を中断し、休息を取ることにした。ルナが持ってきたお弁当を美味しそうに味わってるの横目に、私はレイに耳元で言いました。
「レイ、ルナがあんなに強くなってるなんて聞いてませんよ!」
「いや、だって僕の見立てではそこまでだとは……、まさかエミリアの本気の魔法が押し負けるなんて予想外だよ」
「正直言って予想以上です。いったいどういう事なんですか?」
「うーん……」
私はレイに尋ねてみると、彼は難しい顔をしながら首を傾げます。
「ミリク様達の話だと、彼女はまだ雷龍の力が残っていたらしくて、それの力を引き出してもらったんだよ。
そしたら初歩の魔法で物凄い威力で……でも、さっきのルナの一撃はそれ以上だったね……。でも、エミリアが最後に使った魔法はもっと凄かったよ」
「いや、あれ私の切り札の一つですし……」
レイにそう言われた私は、少し照れくさくなってポリポリと頬をかきます。
「とりあえず、ルナの教育方針変えた方が良さそうですね……。
本来は上位の魔法を覚えてもらおうと思ってたんですが、その前に威力のコントロールを覚えた方が良いでしょう。基礎的な魔法で上級クラスの威力が出せるのであれば、それだけ使ってもらった方が効率よく敵を倒せると思います」
「上位の魔法を覚えちゃダメなの?」
レイは首を傾げて私にそう質問します。
「考えても見てくださいよ。上位の魔法ほど魔法力を消耗するんですよ。初級なら僅かな魔法力の消費で済みますが、上位の魔法なら軽くそれの10倍。
でも彼女は初級の魔法で中級以上の威力を叩き出せるわけで、コントロールがまだ下手な彼女は初級の魔法でも過剰に魔法力を放出してしまってる事になります。そんな状態で上位魔法を使っても簡単に魔力が枯渇してしまいますよ」
「な、なるほど……言われてみるとそうかもね……」
「しかし、魔法覚えたての彼女がいきなりあそこまで強くなるなんて……私、ちょっとショックですよ……はぁ、やっぱり才能ないのかな……私……」
ルナに魔法を教えてからまだ一ヶ月そこそこの筈。それと比べて、私が魔法の勉強に打ち込んだ時間は幼少の頃にセレナ姉に教わった時期も含めれば10年弱だ。
いくら彼女が元々凄い魔力を持つ竜だったからだとしても、この才能の差は納得いかない……。
「いやいや、エミリアの方が凄いって。知らない間にいっぱい凄い魔法を覚えてるし、僕なんか未だに自然干渉系の魔法と姉さんに教わった回復魔法しか出来ないよ」
「あはは……ありがとうございます……」
レイのフォローに私は苦笑しました。
それから、私とレイで彼女の教育方針を相談しました。
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