第784話 二人にお世話されるレイくん
―――それから二時間後。
「……ぐ、この俺が……!」
レイと戦いを繰り広げていた戦士が、レイの一撃を受けて地に伏せる。
「ぜぇ……はぁ……も、……もう、無理……」
だが、レイも体力が限界だったのか、その場で剣で身体を支えたまま足を崩す。
「す、すげぇ……アイツ、マジで三十連勝達成しやがったぞ!!」
「流石、レイ。見事に私の期待に応えてくれましたね」
エミリアの策に見事に乗せられてしまったレイは、本当に闘技場で三十連戦をする羽目になった。
だが、三十回も戦い続けてようやく、エミリアの目論見通りに全ての対戦相手を完膚なきまでに叩きのめしてしまった。
「(いや、もう本当に死ぬ……)」
最初の方はエミリアに対しての怒りの感情で戦っていたのだが、流石に十戦以上続くと怒りの感情も薄れ、ただただ最小限に動いて体力を温存する事ばかり考えていた。
だが、そのお陰もあって自身の現状の能力も大体把握することが出来た。倒した人達も、全員致命傷を負うことなく無力化させることも出来るようになって力加減も万全だ。この点に関しては、エミリアに感謝してもいいかもしれない。
それはそれとして、後でエミリアに何か埋め合わせしてもらわないと気が済まない。レイは息を整えながら重い身体を立ち上がらせ、観客席の最前列にいるエミリアとルナに視線を移す。
戦いの最中、ルナはずっとレイに向かって応援の言葉を投げかけてくれていた。
そのせいもあってか応援していた彼女も体力切らして息を乱していたようだ。対してエミリアは、交渉の時は怪しい笑みばかり浮かべていたのだが、今はこちらを神妙な眼つきで見つめていた。
そして、レイと視線が合ったエミリアはこう考えていた。
「(……流石にレイも限界ですね。ここまでにしておきましょうか)」
エミリアはレイと視線を合わせたまま小さく頷き、観客席の方を向く。
「さて、三十連勝達成したので賭けはこれで終わりですね」
エミリアは賭けに乗った客たちに向かってそう話す。
「く、くそ……まさか本当に勝ち抜くとは……!」
賭けに負けた男は悔しそうに歯嚙みする。
対戦相手の男は恨めし気な目でエミリアを見つめると、懐から金貨の入った袋を取り出してエミリアの方に投げる。
そして、エミリアはそれを受け取って小さく微笑むと、飛行魔法で身体を浮き上がらせてそのままレイの居る闘技場の中に飛び込み、レイの横に着地する。
「頑張りましたね、レイ」
エミリアはそう言いながらレイに微笑みかけて彼の肩を支える。
「……こ、今回は本当に無茶が過ぎるよ……死ぬかと思ったんだから……」
「私はレイが最後まで勝ち抜くと信じてましたよ。……さ、観客席に戻りましょうか」
そう言ってエミリアはレイの背中を支えながらそのまま飛び上がって客席まで上がり彼を席に座らせた。
「サクライくん、大丈夫……?」
「だ、大丈夫……でもないかな……ルナ、
「分かった……
ルナは杖をかざしてレイに体力が継続的に回復する魔法を使用する。
「ありがと……。あー、生き返る……」
レイはルナに礼を言って、弱っていた体力を回復させていく。
「それにしても凄いね……本当に全員倒しちゃうなんて……」
「レイの今の力なら全員に勝てるとは思ってましたけどね……それでももっと苦戦すると思って私は隠れて魔法でサポートするつもりだったんですが、全く必要なかったようですね」
「うん……なんか、自分でもビックリするくらい力加減が上手くいってて……」
レイはルナに回復魔法をかけてもらいながらそう答える。エミリアの策に乗った結果とはいえ、まさかレイ自身も三十人を相手に完勝できるとは思ってなかったのだ。
今のレイは格下の相手なら歯牙にもかけないほど成長していた。
「レイが全員を片っ端から倒してくれたお陰で、さっきまで騒いでいた冒険者や武芸者たちは全員ダウンして担架で運ばれて行きましたね。お陰で闘技場はすっかりもぬけの殻になりました」
「エミリアちゃんが交渉していた男の人もいつの間にか帰っちゃったみたいだねぇ……」
「私に有り金全部奪われたからショックで帰ったんじゃないですかね?」
エミリアはそう言いながら男から受け取った袋を取り出し、それをレイの膝にポンと置く。
「……なにこれ?」
「何って、レイが稼いだお金ですよ。私の元手はもう抜いておきましたら、それは全部レイの物です」
「別にお金なんか要らないんだけど……」
「受け取ってくれないと困りますよ、私だってレイに嫌がらせの為にこんなことしたわけじゃないんですからね」
「本当?」
「本当ですよ、私の言葉を疑うんですか?」
エミリアはとんがり帽子を脱いで、その場で膝を降ろして座っている僕に視線を合わせる。
「じーっ……」
「……嘘を言ってないのは分かったから、それやめてよ……」
エミリアのその上目遣いに、レイは思わず顔を背ける。体力が戻って少し元気が出たのか、レイは血色が戻って少し顔を赤らめていた。
「それは良かったです。……さ、邪魔な冒険者達が居なくなった事ですし、次はルナの番ですね」
「へっ、私!?」
ルナは驚いて、一瞬レイへの回復魔法を中断してしまう。
「忘れたんですか? 今回ここに来たのは、レイとルナの二人の能力が何処まで上がっているのかの確認の為ですよ。レイに関してはさっきの連戦で十分に強くなってる事が分かりましたけど、ルナは魔力が大幅に上がった以外だと何も分かってないじゃないですか」
「そ、そうだけどぉ……」
「レイ、体力は十分回復しましたか?」
「も、もうちょっと癒して欲しい……」
「その言い方だと甘えたいみたいに聞こえるんですが……」
「うん、もうちょっと甘えたい……」
レイの正直な反応に、二人は思わず笑いが零れた。
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