第776話 意外な繋がり
――1時間後、王宮前広場にて――
僕達が向かうと、そこには沢山の人が集まっていた。
どうやら除雪作業が行われていたようで、降り積もる雪は全て端の方に追いやられて広場は自由に使えるようになっている。
知り合いの顔を多少混じっているが、殆どが冒険者や外来の人物ばかりで、今の所王宮の騎士や兵士達の姿は無さそうだ。
「騎士や兵士達は陛下が顔を出したら城の方から一緒に出てくると思うわよ」
「それもそうか……」
僕は納得し、彼らと一緒に広場の中央に集まり、陛下達が現れるのを待つ。しかし寒い……。
だが、僕達が中央まで足を進める途中で、何処かで聞き覚えのある低い男性の声に後ろから話しかけられた。
「おーい、レイ、 エミリアーー!!」
「……ん?」
「……今の声……」
名前を呼ばれた僕とエミリアは後ろを振り返り、続いて他の仲間達も振り返る。すると、そこには意外な人物が居た。
「アドレーさん!!」
そこには、この王都から遠く離れた別大陸の湖の村で引退生活を送っていたアドレーさんの姿があった。
「おう、一か月ぶりくらいか。元気でやっているようだな」
「はい、元気です。アドレーさんこそ、以前見た時よりも立派な装備で驚きましたよ。一瞬誰だか分からなくなるくらいに」
僕達が湖の村に訪れたときは、普通の村人の衣装をまとっていたのだが、今は黒い鎧を身に纏って立派な大剣を背負っていた。
以前、冒険者をやっていたそうだが、その風体は冒険者というより老騎士といった感じだ。
「これか? 現役時代のモノを引っ張り出してきたんだ。剣だけは新しく拵えたものだがな」
「そうだったんですか。でも、どうやってこんな遠い場所に?」
アドレーさんが住んでいた場所は今、僕達が拠点としているファストゲート大陸よりもずっと遠い場所にある。
僕達が馬車で旅をしたときもここまで来るときは数ヶ月の時間を要した。
「まぁ、その件は追々話そう。それで、俺がここに来た理由だが――」
と、アドレ—さんは言葉を続けようとするのだが、話している途中で姉さんがこっちにやってきた。
「アドレーさん、久しぶり」
「フラウさんも元気そうだな。相変わらず若くて羨ましい限りだ」
「うふふ、ありがとうございます」
フラウと呼ばれた姉さんは嬉しそうに笑顔でそう返事をする。
”フラウ”というのは姉さんの事だ。
色々あって姉さんがこの人と知り合った時は自身をそう名乗っていた。
……今思えば、あれに特に意味が無かったような気がするのは気のせいということにしておこう。
アドレーさんは向き直ってエミリアに視線を向ける。視線を向けられたエミリアは被っていたとんがり帽子を外して両手で抱きかかえ、小さく頭を下げる。
「エミリア、お前も元気そうで何よりだ」
「どうも……そうだ、無事セレナ姉と会うことが出来ましたよ。あの時は情報ありがとうございました」
「お、そうか。で、セレナは何処に居るんだ?」
「今はこの王都に住んでますよ。姉も国王陛下の招集命令に応じているはずなので、多分に近くに居ると思うんですが……」
エミリアはそう言いながら周囲をキョロキョロと見渡す。
「ははっ、まあいい。どうせすぐに顔を合わせることになるだろうさ」
「そうなるでしょうね。アドレ—さんがここに居るということは……もしかして、私達と同じですか?」
「おお、さっき言い掛けてたが、俺も魔王討伐とやらに参加させてもらうことになった。まぁ、こんな老体だがよろしく頼むぞ」
アドレーさんはエミリアにそう言ってから、僕に手を差し出してくる。
「こちらこそよろしくお願いします! アドレーさんが居れば100人力ですよ」
「おいおい……俺はとっくに現役を引退してるんだぞ?」
僕とアドレーさんと握手を交わしながら話す。すると、彼は周囲を見渡してから声を抑えて話し始めた。
「……こうして目の前で見るとやっぱりお前も随分と成長したな」
「そうですか?」
「ああ、前に会った時よりもまた一段と成長したんじゃないか? 肉体的にはそれほど変わらないが、こんな時だというのに随分と落ち着いてるし、迷いも無くなった気がするな。何か良い事でもあったか?」
「あはは……まぁ色々と」
僕は以前”願いの樹”で両親と再会したことを思い出す。
「……ところで、見ない顔が何人かいるようだが、そこの三人もお前の仲間なのか?」
アドレ—さんは僕よりも少し自然をズラしてそう質問する。僕がそちらを振り向くと、カレン、ルナ、ノルンの三人がこちらを見ていた。
アドレ—さんと目線が合うと三人とも小さく頭を下げる。
「初めまして……。それで、レイ君。この方は?」
カレンさんにそう尋ねられて、僕は彼女達にアドレーさんの紹介をしてなかったことに気付いた。
「あ、そうだった!」
僕は両者の間に入って紹介を始める。
「三人に紹介するよ。この人は、アドレ—さん。僕の恩人で戦い方を教えてくれた人だよ」
「恩人ってほどじゃない。当時へっぽこだったお前さんに剣を教えたのは確かだが、そこから先は全部お前の努力の成果だろう。……で、そちらのお嬢さんがたは?」
「青い髪の綺麗な女の人はカレンさんです。こう見えて凄い剣術の達人ですよ。実際に戦ってる所をみたらアドレーさんもビックリすると思います」
「ちょっ、レイ君。女の子を紹介するのに強さに言及するのはどうなの。
……コホン、お初にお目に掛かりますわ、アドレーさん。私は、カレン・フレイド・ルミナリアと申します。お見知りおきを……」
カレンさんは、僕の微妙な紹介に苦笑いしながら、丁寧に挨拶をする。
「おお、よろしく頼むよ。……しかし、ミドルネーム持ちということは貴族のお嬢ちゃんか。レイ、見ない間に随分と交流関係が広くなったな」
「あはは、どうも。……カレンさん、紹介下手でごめんね」
僕はそう言ってカレンさんに謝罪すると、彼女は優しく微笑んで首を横に振った。
「気にしてないわ。レイ君が私をどう紹介したいのかは大体分かったし」
「?」
何か引っかかる言い方をされた気が……っていうか若干不機嫌になってる気がする。
「で、残りの二人は……」
「黒髪の女の子の方は、……ルナです。僕との関係は――」
「は、初めまして! えっと、サクライくん……じゃない、レイくんとはその、ええと……お、お友達……で、良いのかな?」
僕の紹介に割り込んで、ルナは慌てて訂正しながら何故か恥ずかしそうに僕に尋ねてくる。
「う、うん……友達……」
慌てて割り込んできた割に、僕に尋ねてくるのはどうなんだという突っ込みを入れたくなったが、ルナは恥ずかしがり屋だからね、仕方ないね。
「の、ノルンです。よろしくお願いします!!」
「……ふむ、お嬢ちゃんは、友達という関係に何か言いたいことがありそうに見えるが、……まぁよろしく頼む」
アドレ—さんはそうルナに返事した後、今度はノルンをまじまじと見つめ始めた。
「……で、そっちの子供は」
「……本名は、ノルジニア・フォレス・リンカーネインよ。ノルンで構わないわ」
ノルンは相変わらず眠そうな目で言う。
「……お、おう。嬢ちゃん、よろしくな」
アドレ—さんはノルンの態度に若干気圧されたようだった。
「それで、他のメンバーは相変わらずのようだな。そっちの銀髪のもう一人のちっちゃいお嬢ちゃんは……確か、レベッカだったか?」
「はい、アドレ―様。お久しぶりでございます」
アドレ—さんの質問にレベッカも丁寧に言葉を返す。アドレーさんはレベッカと視線を合わせながら頷き、こちらに視線を戻す。
だが、こちらを見るアドレーさんの表情が何故か少し曇っていた。
「……どうしたんですか?」
「いや……あー、なんだ。レイ、別にお前の趣味嗜好にとやかく言うつもりはないが……」
アドレーさんは、微妙な表情を浮かべて言った。
「女遊びはほどほどにしておけよ?」
「違いますから!!」
「はっはっはっ! いや、分かってるさ。冗談だよ」
僕は慌てて否定すると、アドレーさんは豪快に笑う。
「ところで、前見た元気なお嬢ちゃんが居ないな」
「サクラちゃんの事ですか? あの子は、一応騎士の一人なのでもうすぐ来ると思います」
「……騎士か、そういう風体には見えなかったが」
アドレーさんは訝し気にそう話す。
「ちなみに、カレンさんと僕も騎士だった時期がありますよ」
「それは驚きだな……。まぁ、俺も一時期騎士団長を務めた事があるから、例外があることは理解してるが……」
アドレーさんは、そういうとカレンさんと僕を交互に見る。
「俺が所属していた騎士団は、決められた規則は絶対に守る。騎士団に入団する奴は全員男で、若い奴は1年間雑用以外の仕事させられないだの、色々と厳しいもんだったぞ。今は随分と様変わりしたんだな。……いや、俺の価値観が古いだけかもしれないな」
アドレーさんはそう語るが、僕は自分の中で『騎士とはどういうものか』という明確なイメージが浮かばない。
ただ、僕が一時期所属していた自由騎士団が相当緩い組織だったというのは、アドレーさんの話でなんとなく理解出来た。
「……カレンさん、アドレ—さんの話って」
「多分、事実よ。”王宮騎士団”の方は今もそんな感じって話。騎士団を纏め上げてるダガール団長が厳しいのも理由でしょうけど」
僕達がそう話していると、広場の奥の方が少し騒がしくなった。
そちらに視線を向けると、王宮の方から沢山の兵士達が隊列を成してこちらに歩いてくる。
最後尾に立派な騎士鎧を身に纏った護衛を引き連れて歩いている人物の姿があった。護衛の三人は、自由騎士団長のアルフォンス、王宮騎士団の団長ダガール、そして何故かサクラちゃんが陛下の隣に付いていた。
そして、当然、そんな護衛に守られているのは、この国の守護神であるグラン国王陛下である。彼は相変わらず子供の姿だが、立派なマントを身に纏って凛とした表情でこちらの方に歩いてくる。
そんな国王の姿を見て、アドレーさんは目を丸くして驚いていた。
「……ほぅ、驚いたな。この国の国王は子供だったのか?」
「あ、いえ。あの姿に理由がありまして……」
僕は端的に、あの姿は本来の姿ではなく事情があって子供の姿になっていると説明した。
「ほう……その話を聞けば、セレナ辺りは興味を示しそうだな」
「……あれ、全然驚かないんですね?」
僕はアドレーさんの反応が思ったより淡泊だったことに驚いて、思わず質問してしまった。
「魔法だの女神だの奇跡だのなんでもありの世界だからな。その程度の事では驚かなくなった。まぁ、それを言ったら勇者も魔王も似たようなものだろう?」
言われてみればそうかもしれない。
「……それに、俺は国王より前に居る騎士の方が驚いたぞ」
「え?」
僕は誰の事か分からず、アドレーさんの視線を追ってその人物を定める。アドレーさんが注視してるのは……自由騎士団長のアルフォンスさん?
「彼がどうかしたんですか?」
「いやなに。奴が背中に背負っている大剣は元々俺のものでな。随分昔にくれてやったものだが、今も後生大事にぶら下げてるとは思わなかった」
「へー、そうなんですか……って、えぇぇぇええ!!??」
僕はアドレーさんの言葉に普通に相槌を打とうとして、その言葉の内容に驚いて思わず叫んでしまった。
その声で広場に居た人々は全員こちらに目を向けることになり、視線が一斉に僕に集まる。でもそれを気にする余裕はなかった。僕はそのままアドレ―さんに再度尋ねる。
「もっかい聞きますけど……あの聖剣、アドレーさんの物だったんですか?」
「ん? ああ、聖剣グラム……俺が使っていたのは八年前だったが、見た感じ劣化している様子は無さそうだ。流石、聖剣だな」
「……もしかして、アルフォンスさんと知り合いなんですか?」
「知り合いも何も……」
アドレ—さんは目を細めて、アルフォンスさんを見る。
「あいつは、俺の息子だぞ」
・・・?
「え!?」
「マジですか!?」
「全然、似てないわね……!?
……あ、し、失礼しました……思わず、つい……!」
僕、エミリア、カレンさんが同時に反応する。
カレンさんは失礼な事を言ってしまったと思い、即座に謝罪する。
「ははは、気にするな。バカ息子が元気でやってるのが見れて俺は満足だ」
アドレ—さんはそう言って、大きく手を振る。
「お ー い 、 ア ル フ ォ ン ス ー ! ! !」
アドレーさんは広場から大声で叫ぶ。ここからだとよく分からないが、アルフォンスさんはそれを見て、酷く驚いた顔をして何か言ったようだった。
アドレーさんは「やれやれ」といった感じで首を振ると、こちらに振り返る。
「まぁ家を出てしばらく帰ってこなかった息子へのサプライズとしてはこんなものだろう」
「多分、滅茶苦茶驚いてると思いますよ……」
アルフォン団長、今、危うくコケそうになった気がする。
「……さ、それよりも今から演説か何かあるんだろう?」
「……ですね」
兵士たちが続々と広場に集まってくる。
そして、最初に集まっていた冒険者たちは、彼らの邪魔にならないように後ろへと下がっていく。
最後にグラン陛下が三人の騎士に護衛されながら、広場に設置された壇上に上がる。陛下は壇上に上がると、広場に向かって大きく手を広げ、周囲に集まった人々へ語り始める。
「まずは、選ばれし強者たちよ! よくぞ集ってくれた!」
広場に居る人々は、グラン陛下の力強い言葉に鼓舞されざわつく。
そして、陛下の話が始まった。
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