第775話 召集
それから数日後――
皆で祝ってくれた誕生日会も終わり、いつも通りの日常に戻ったはずの平穏な日々。
魔王討伐の日が迫っているから気は抜けないものの、グラン陛下の計らいで僕達はここ数日は争いとは無縁な生活を送れていた。
魔法都市エアリアルから帰国した直後、陛下と謁見した時に遡る――
◆◇◆
『……レイ君、キミは勇者だ。いざ、魔王軍に攻め入る時は、キミ達が率先して魔物達と戦う事になるだろう』
『……はい』
『すまない……まだ若いキミ達にこんな重い使命を背負わせてしまって……。
最後の戦い……今までとは違い、魔王軍の残党や新魔王も死に物狂いで抵抗してくるだろう。下手をすればキミ達の命は保証できない……。
ならば、せめて最後の戦いの準備が整うまで、キミ達は平穏な日常を送れるよう最大限に計らうつもりでいる』
『……』
『悔いの残らない日常を送ってほしい。もし生活に苦労することがあれば何でも言ってくれ。最大限に援助する』
『……お心遣い、ありがとうございます。グラン国王陛下』
◆◇◆
グラン陛下から掛けられた言葉は、とても重いものだった。その日から既に2週間経とうとしている。
ここ最近、女の子から告白を受けたり誕生日パーティをしてもらってプレゼントを貰ったりと色々な事があった。
……まぁ地味にエミリアに振られてショックだったこともあったけど、その後本人を含めて励ましてもらったため既に立ち直った後だ。
誕生日以降、女の子達からデートの誘いをよく受けるようになった。
自分はしばらくそういった関係にならないと明言したのだけど、それでも構わないと言われて女の子達に外に連れ出されていった。
デートはとても楽しかったのだけど、女の子達は帰り際、毎回のように顔を赤らめて身体をモジモジさせながら何か言い掛けようとするのだが、何故か毎回何も言わずに逃げていく。
その謎の行動に頭を悩ませていたが、陛下の計らい通り僕達は平和な日常を送れていた。
話によると、僕達にお呼びが掛からないだけで、実際はここ二週間の間に何度か魔王軍の襲撃などの出来事が起こっていたらしい。
だが、それらは全て陛下の適切な指示で王都に被害が及ぶ前に、王宮の騎士達やエアリアルの魔法使いたちが出払ってすぐに追い払っていたのだとか……。
「……朝、か」
僕はベッドで起き上がり、妙な肌寒さを覚えながらも窓の外に目を向ける。すると、外は今まで見た事ないくらい真っ白く、どんよりとした雲が覆っていた。
「これは……雪、かな?」
異世界に来て初めて目にする雪に少し感動していると、ベッドの脇に立て掛けられた聖剣がカタカタと揺れる。
『レイ、雪よ』
「知ってるよ、
僕は蒼い星に返事をしながらパジャマを脱いで普段着に着替える。
「この世界でも雪は降るんだね。最近寒いと感じてたけどこの大陸は今の季節は冬なの?」
『よく分からないわ、私はこの国の事はそんな詳しくないもの……。だけど、周期的に考えたら少し先取りしている気がするわね』
なるほど、つまり季節の変わり目ということか。
「なら、これから本格的に冬になっていくのかもしれないね」
僕は
「あ、カレンさん。おはよう」
「おはよう、レイ君。今から呼びに行くところだったのだけど、丁度起きてくれたのね。……少し残念だわ」
カレンさんは何故か残念そうな表情をする。
「……? ところでカレンさん、いつも遊びに来るの違って随分と早いんだね」
カレンさんは僕達と違って、自分の家がある。親元の実家ではないものの、カレンさんとサクラちゃんの二人で暮らしている一軒家だ。
この宿から距離が比較的近いため、カレンさんはよく遊びに来るのだがこんなに朝早くから居るのは珍しい。
「うん、実は王宮の方から呼び出しがあってね」
「……!」
カレンさんの一言で、僕の身体が一瞬強張る。
「そ、それで……呼び出しの内容は……?」
「……グラン国王陛下からの召集よ。……安心して、今日、明日いきなり魔王軍の城へ最終決戦に向かうってわけじゃないから……」
「そ、そうですか……」
一瞬、強張った身体に力が抜けていく。平和な時間がこれで終わりだと思うと胸が痛くなってしまう。
「……だけど、計画はかなり進んでいる。魔法都市の方で秘密裏に調整が進められている<魔導船>の準備も殆ど終わってるし。もうそれほどしないうちに、最終作戦命令が出るかもしれないね……」
「……そうですか。なら、今日は一体何のための招集なんですか?」
「今日は冒険者や武芸者を集めて魔王軍の討伐に赴くメンバーを募るみたいよ。私達は参加することが決まってるけど、まだ兵力は足りてないからね。今までも何度か誘いを掛けてたのだけど、今回が最後の召集ということになるわ」
「なるほど……」
「私達も朝食が終わったら王宮前の広場に向かいましょう」
「うん……」
僕は静かに頷いてカレンさんと一緒に二階の階段を降りていく。他の皆は既に食卓に着いており、僕達二人が降りてくるのを確認すると挨拶をしてくれて、僕達二人も食卓に着く。
彼女達は僕よりも先にカレンさんに事情を聞いていたようで、食事が終わって片付けが済み次第、僕達も王宮前広場に向かうことになった。
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