第774話 誰も想像してなかった二回目

 レイの誕生日パーティから数日後の話。お昼の喫茶店にて、再び女の子達はレイに内緒で集まって議論?を繰り広げていた。


「では、『第二回 レイくんは私のモノ! 絶対渡さない!!』会議を始めます!」


「……」

「……また、なのね」


 会議開始の宣言をした元女神様ことベルフラウとは対照的に、他の皆は無言が冷めた反応だった。


「ちょっと! なんで皆無反応なの!! そこは、『わぁー!!』とか『いえーい!』って盛り上がる所でしょう!?」


「盛り上がるわけないでしょう、ベルフラウさん。というか、あの会議に二回目があるとは思わなかったわ……」


 と、カレンは冷静にツッコミを入れる。


「そ、そんな事言ったって、皆だってレイの事好きなんでしょ!! だったら私とレイを取り合うライバルじゃない!」


「もう明け透けですね……」


 ここ最近、露骨に感情を吐露する様になってきたベルフラウの言葉を聞いてエミリアは呆れた声を出す。


「……しかし、ベルフラウ様。レイ様のお誕生日会は大成功、皆で相談したプレゼントもレイ様に貰っていただいて大変喜んでおられました。もう、こうやって集まって相談することなど無いと思うのですが……?」


「甘いわ、レベッカちゃん! 確かに、お誕生日会はレイくんに満足してもらえて万々歳だったけど、結局”あの事”については私達誰も言い出せなかったじゃない!!」


「”あの事”……と言われると……」


「……そう、『私達全員をレイくんのお嫁さんにしてもらう』ことよっ!!」


 ベルフラウは大きな声でとんでもないことを言う。その発言は、喫茶店内に響き渡り、他のお客さん達の話し声も一瞬止まった。


 静まりかえった喫茶店内で皆が静まり返った中、紅茶を飲んでいたノルンはコップをテーブルに置いて言う。


「ベルフラウ、声が大きい」


「……ごめん、私が悪かったわ」


 今の発言に流石に羞恥を感じてしまったのか、元女神様ことベルフラウは顔を赤らめて縮こまる。


「しかし、今まで薄々そうじゃないかと思ってたことをこうしてはっきり言葉にされると……」


「とても間違った方向に私達は進んでる気がするわ……」


 エミリアとカレンは、今更ながら以前の会議に賛同したことを後悔し始めていた……。


「さ、サクライくんのお嫁さん……えへへ……」


「ルナ様はとても喜ばれている様子……しかし、ベルフラウ様の仰る通り、誰一人としてレイ様にその事を懇願することは出来ませんでしたし、まだ実現には遠いやもしれませんね」


「あ、あう……そうだよね、レベッカちゃん」


 喜んでいるルナに対してレベッカが冷静な意見を口にする。

 すると、ルナは目に見えて落ち込んだ様子を見せる。


 ベルフラウはとテーブルを手で叩きながら言う。


「そう、つまり今回の会議の議題は!!」


「ベルフラウ、他の客の迷惑だから声を落としなさい。あと机を叩かない」


「……こ、今回の議題は……」


 再び店員や他の客の視線を感じてベルフラウは声のトーンを落とす。

 そして、皆に聞こえる様にはっきりと言った。


「どうしたらお嫁さんにしてもらえるか話し合いましょうって事よ!」


「……なんかもう、根本からダメな気がしてきたわ……」


 カレンはベルフラウの一言に頭を抱えてテーブルに突っ伏す。


「というわけで、まずレイくんにどうアプローチするか考えましょう!」


「アプローチと言っても……」


「『レイ様、わたくし達全員を娶ってくださいまし』……と言えばいいのでございますか?」


 レベッカが皆の意見を代弁する様に言った。


「……い、言えないよ……そんなの……」


 ルナは顔を赤らめてカレンと同じく机に突っ伏して顔を隠す。


「そんな事突然言われてもレイだって困惑するでしょうし、私達が口にするのも難題にも程があります」


「わたくしが言った手前、申し訳ないのですが、わたくしもレイ様を前にして言い切る自信はございませんね……流石に羞恥心が上回ってしまいます。レイ様の返事を聞く余裕すらなく耐えられず逃げてしまうかもでございます……」


 エミリアの言葉にレベッカは苦笑いを浮かべて同意する。すると、突っ伏してたカレンが顔を少し上げてベルフラウを半目で見ながら言う。


「ベルフラウさん、貴女がそれとなく言えないの……? 仮とはいえ貴女はレイ君の”姉”なんだから、私達よりもハードルが低いでしょう?」


「ふっふっふ……カレンさん……あなたは”姉”というモノが何なのか分かっていないわ!」


 カレンに半眼で睨まれたベルフラウは何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべてカレンを見る。


「(あ、姉というモノ……?)」


 ベルフラウの余裕顔を見てカレンは内心戸惑う。


「教えてあげるわ、カレンさん……。私はね、この世界に転移してから”姉”としてずっとレイくんに接してたの……その結果―――」


「……そ、その結果……?」


 カレンはゴクリと固唾を呑んでベルフラウの次の言葉を待つ。


「―――その結果、レイくんは私と距離が近すぎて、女の子として全く意識してくれなくなったの!! だから、私が言っても真剣に受け取ってくれないわ!!」


「「「「「………」」」」」


 ベルフラウの告白に、他の女の子は同情的な目を向ける。


「あ、あ、あ、……皆、私をそんな目で見ないで……! 私もこんなつもりじゃなかったの……!

 本当は、異世界に転移したらずっとずっとレイ君と二人っきりで旅をして、関係を深めていくつもりだったのに、どうしてこんなことにぃぃぃ……!」


「ベルフラウ様……」


「……まぁ、自業自得ですね」


「……いいなぁ」


「うぅ……神様のバカァァァァァ!!」


 そんな悲痛な叫びが、喫茶店内に木霊するのだった。


「神様のバカって、貴女がその神様じゃない……」


「他の神様もいい迷惑ね、本当に……」


 カレンとノルンは、冷静にそう呟くのだった。

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