第756話 お姉ちゃんヤバい

【視点:レイ】

 姉さんにルナを任せて僕は一旦自室に戻り、着替えの服を用意してから宿の大浴場に向かう。服を脱いでいる時に自身の身体に触れると身体が冷え切っていた事に気付いた。


「早く入らないと……」


 僕は裸になってから念の為にバスタオルを身体に纏って浴場に入っていく。この浴場は男女の区別が無い上に、今は僕達が宿を貸し切っているためいつ入るか完全に自由なのだ。


 その為、滅多に人と遭遇することはないが稀に時間が被ってしまうことがある。


「(そしてこの宿で男の客は僕だけ……後は全員女の子だっていうね……)」


 つまり、そういうことである。お風呂で女の子と遭遇なんてラッキー♪とか思うかもしれないが、それが知り合い同士だった時の気まずさは尋常ではない。


 一期一会な出会いではなく、食事中に必ず顔を合わせることになるため、大体相手の反応で何があったか周囲に悟られてしまうのだ。結果、その日はずっと弄られ続けることになる。


 僕は誰も居ない事を祈りながら浴場の扉を開けると、そこには誰もおらず、僕は安堵の息を吐いた。


「良かった……誰も入ってない……」


 身体を軽く流してから、浴場の湯に浸かる。冷え切った身体が芯まで温められていくのが凄く気持ちいい……。


「あ~~~……」


 女の子達には絶対聞かれたくないような、おっさん臭い声が出る。仲間達と居る時にリラックスしてないわけではないが、唯一の男として格好悪いところを見せるわけにもいかない。


 外に出ると、『勇者』とか『英雄』だの持て囃されているし、王宮に向かえば元騎士扱いで一部の兵士さん達にやたら評価されてしまっている。


 端的に換言すれば、堅苦しいのだ。そういう意味で、周囲の目線を気にしないでいいここは僕にとっての聖域と言えなくもない。


「ふわぁ~~……」


 ここ最近、仕事や恋愛などで気疲れしていた僕は、大きな欠伸と共に、次第にその心地よさから目を閉じてしまうのだった……。


【三人称視点:ルナ、ベルフラウ】


 レイが浴場で伸び伸びと過ごしている頃、ベルフラウは熱を出したルナのお世話をしていた。


「んー、やっぱり熱あるわね~」


 ベルフラウは上半身を起こしたルナのおでこと自身のおでこをくっつけて彼女の体温を測っていた。熱を測り終えたベルフラウは顔を離して、トレイに用意してあった小さな土鍋を机に置く。そして、蓋を取ると中身はお粥だった。


「さ、ルナちゃん。熱いから気をつけて食べてね」


「うぅ……身体がだるいよぉ……」


「しょうがないわねぇ……ちょっといいかしら」


 ベルフラウはそう言って膝の上にトレイごと土鍋を置くとスプーンでお粥を掬ってルナの口元まで運んだ。


「ほら、あ~ん……」

「あ~ん……」


 ルナは言われるがまま、ベルフラウの差し出したお粥を頬張る。


「……んむ……美味しい……」

「それは良かったわ~、食欲はあるみたいね」


 お粥を飲み込んだ後、ベルフラウは再度スプーンでお粥を掬ってルナの口に運んでいく。それを数回繰り返して、ようやくルナはお粥を食べきることが出来た。


 お粥を食べた後、ルナは再びベッドに横になる。


「……あとがとー、ベルフラウさん~」


「はい、お粗末様。……それにしても、ルナちゃん。こんな熱出るまで外で何やってたの?」


「え、えっとぉ……」


 ベルフラウの問いにルナは気まずそうな顔をして、彼女から目線を逸らした。


「その、ちょっと考え事を……」


「考え事……? 最近は寒い日が続くようになったし、夜は早く帰ってこないとダメよ。皆が心配しちゃうわ……」


「うぅ……ごめんなさぁい……」


「それで、考え事って何なの……?」


 ベルフラウはルナの目線まで顔を下げて、ルナに視線を合わせて問う。


「……えと、その……なんと言いますか……サクライくんの事で……」

「……あら♪」


 ルナの口からレイの名前が出ると、ベルフラウはニマニマとした笑顔を浮かべた。


「それで、どうしたの?」

「……こく、はく……しちゃいました……」


 ルナは熱で赤く染まった顔を更に赤らめて、布団で顔を隠してそう言った。


 それを聞いたベルフラウは―――


「(……えぇ!? ルナちゃんまでぇ……?)」


 ベルフラウは、レベッカがレイに告白したことは事前に彼女から相談を受けていた為。知っている。エミリアやカレンがレイと何かあったことも女神としての能力をフル活用して情報を得ていた。


 しかし、まさかルナまで自身の愛しい弟に想いを告げていた事は予想外だった。


「……ベルフラウさん?」


「あ、ううん、何でもないのよ……。そっか、告白したのかぁ……レイくんはなんて言ってたの?」


 ベルフラウはそう質問する。


「ぼ、『僕も、ルナの事がすき』……って……♪」


「………………そ、そうなんだ」


「わ、わたし……すきっていわれちゃったぁ……♪」


 ルナは両手で頬を抑えながら、足をバタバタとさせて嬉しそうな反応をする。そんな可愛らしい女の子の反応にベルフラウは……。


「(ああああああああ!! 何よこれ! 凄く可愛いんですけどぉ!?)」


 内心、ルナの可愛らしさに悶えていた。だが、同時に複雑な心境でもあった。


「(レイくん……これで何人目よ……)」


 彼自身、惚れっぽい性格なのは認知していたが、まさかルナまで対象に入っていたとは……。


「(レベッカちゃんから相談に乗った時に、『自身の故郷に帰れば、一人に絞らずとも全員で婚姻を結べる』的な話は聞いてたけど、この調子だと本当にそうなっちゃいそうね……!)」


 ベルフラウは、愛すべき義弟の女性関係のだらしなさに頭を抱えていた。

 そして、彼女の我慢は色んな意味で限界を迎えつつある……!

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