第746話 気になる……。
状態異常フリーズが解除されて再起動した僕とサクラちゃん達の四人は急いで会計を済ませて冒険者食堂を出る。外は既に夜で夜空は星々が煌びやかに輝いていた。デートにはもってこいな夜景だろう。
そう、デート。
「………」
「またフリーズしてるうぅぅぅぅぅ!!」
「サクラお姉様、どうしましょうか……?」
「と、とりあえず縄で縛って引き摺りながら追いかけよう!!」
なんか後ろでとんでもない会話が繰り広げられているけど僕は正常だ。
「三人共、騒いでないで早くカレンさんを探すよ!」
「わぁっ、いきなり喋らないでくださいよ、ビックリした!!」
そんな理不尽な……。でも、確かに今の僕はちょっとおかしい。妙に動悸がするし、気持ちが全く落ち着かない。
「( 僕は、カシムさんに嫉妬してる……?)」
確かに僕はカレンさんに対して、憧れ以上に強い感情がある。
あの人は、いつも綺麗で、優しくて、格好良くて、頼りになって……。
そして僕の事を信じてくれて、夢の中でも僕を励ましてくれて……僕は、そんな彼女に……。
「――レイさん!!!!」「!!」
突然のサクラちゃんの声で僕は思考を中断する。
「先輩の事が気になるならこんな所で立ち止まってないで、早く追いましょうよ!!」
「う、うん!!」
僕はサクラちゃんに言われて走り出す。カシムさんは先に店を出たが、まだそれほど遠くには行っていないはず。確か、カレンさんは広場のベンチで待つと言っていた。カシムさんもそれを聞いていたから間違いなくそこに居ると思う。
「行こう、三人とも!」
「うん!」
「レイさん、なんか真剣だね……」
「え、もしかしてレイさんってカレンさんの事……」
アリスちゃんとミーシャちゃんに色々勘付かれそうだったので、僕は答えずにさっさと追う事にした。
◆◆◆
――そして、広場にて。
「いた!」
二人の姿を見つけると、僕達は広場の傍の樹の傍に隠れて様子を見守る。カレンさんとカシムさんはベンチに座って何か話をしているようだった。
「ここからだと何言ってるか分からないな……」
「なんか、カシムさん顔真っ赤にしてるねぇ………?」
「うん……そうだね……」
カシムさんの様子は遠目からでもよく見えた。まるでリンゴみたいに顔を真っ赤にさせて、カレンさんと何か話している。
もしかして、本当に……?
「もしかして、本当に付き合っちゃうのかな?」
「は!? そんなわけないじゃん!!!」
「レイさんマジギレ!?」
「……あ」
アリスちゃんの言葉に、思わず即時反応を返してしまう。しまった……今のは流石にカシムさんに失礼だったかもしれない。
「ご、ごめん……」
「いいけどぉ……」
「(……レイさん、本当の
真剣な表情で落ち込むレイを見て、密かにミーシャはそう思った。
「……あの、レイさん。ちょっと落ち着いて聞いてほしいんですが……」
「……何、ミーシャちゃん」
「よく考えたら、カレンさん。『外でお話しませんか』って言ってただけで、別にデートがどうとか言ってなかったような……」
「い、いや確かにそうだけどさ……」
確かに、カレンさんのあの言葉はデートとか男女の仲がどうとかそういう物ではなく、ただ単に外で話したいから外に出ようという意味で言っていたのかもしれない。
だけどカシムさんの方は明らかにその気だ。食事中、カレンさんを見る目は明らかに女性として扱っていた。カレンさんだってそれくらい気付いてるはず。
今だって、声は聞こえないけどカシムさんは真っ赤な顔をして……。
「レイさんレイさん、なんかカシムさんの様子変だよ?」
「え?」
サクラちゃんに言われて僕は少し機から身を乗り出してカシムさんの様子を探ってみる。すると、先程まで赤らめていた顔が少しずつ真顔に戻り、次第に表情が消えて項垂れていった。
「……確かに、様子が変だね」
「もしかして振られちゃったのかな、カワイソー」
アリスちゃんは口を押えてカシムさんに同情するような声を出す。むしろその同情が一番ダメージ喰らうんじゃないだろうか。
しばらく見守っているとカシムさんは立ち上がり、カレンさんの前まで歩くとベンチに座るカレンさんに謝罪をするように頭を下げる。
カレンさんは、そんな彼に軽く手でジェスチャーをする。すると、カシムさんはそのまま一礼して去って行った。
そして、カレンさん一人その場に残されてしまった。
「……終わったみたい。結局、先輩は何を話してたんだろう?」
「……さぁ」
サクラちゃんの疑問の答えは、僕達の誰にも見当が付かなかった。
「ね、もう帰らない? こんな所に居たら風邪ひいちゃうし、カレンさんに覗いてる所見つかったら怒られちゃうよ」
「アリスの言う通りだね。サクラお姉様、レイさん、もう行こう?」
アリスちゃんとミーシャちゃんは動かない僕達にそう促す。僕とサクラちゃんは頷き、その場を後にしようとするのだが……。
背後から、カレンさんが動いた気配がした。
「こ~ら、あなた達。なーにを隠れてるのかしら~?」
「「!?」」
背後から聞こえたカレンさんの声と同時に僕の肩がポンと叩かれる。驚いて振り向くと、そこにはカレンさんがニマニマした表情で立っていた。
僕も驚いたけど、それ以上に隠れていた三人も物凄く驚いていた。
「か、カレンさん……気付いてたの?」
「わたしたち、一応気配消してたつもりなんですけどぉ……」
サクラちゃんの言う通り、僕達は技能を使ってなるべく気配を消して窺っていた。実際、戦士職のカシムさんは僕達に全く気付いた様子が無かった。
だが、カレンさんには完全に見抜かれていたようだ。
「気付くに決まってるでしょ。あなた達は私の可愛い後輩たちなんだから……で、なんでこんなところに隠れてたの?」
「え、えっとそれは……」
「……あ、あのね……カレンさん……」
サクラちゃんはしどろもどろになってカレンさんの質問に答えられないでいる。僕もこんな呆気なくバレるとは思っていなかったため言い訳も用意してない。
何を言うべきか僕は迷ってたのだけど、ミーシャちゃんがおどおどしながら挙手をする。
「なーに、ミーシャ?」
「結局カレンさんはカシムさんと何を話してたんですか?」
「え?」
カレンさんは目を丸くする。
「ねぇねぇ、もしかしてカレンさんは、あのカシムって人に告白されて盛大に振っちゃったの?」
「……はい?」
カレンさんはアリスちゃんの発言を聞くと、怪訝な表情をする。
「……告白? ……あ、もしかして、あの人が顔真っ赤にしてたの、それが理由だったのかしら?」
カレンさんのその発言に、今度は僕達が目を丸くした。
「え?」
「え」
「……えぇ?」
「……まさかの、カレンさんが気付いてないパターン……」
最後の台詞はミーシャちゃんだ。
正直、僕もカレンさんは気付いてると思ってだけど……。
「カシムさん、結構かっこいいからもしかしたらって……」
これはサクラちゃんの言葉だ。一応、サクラちゃんも男性にカッコいいとかの考えはあったらしい。ある意味それが一番驚きだ。
「(……でも良かった。少なくとも、カレンさんはその気じゃないようだ……)」
カシムさんとカレンさんが何を話したかは分からないが、少なくとも僕が想像した最悪のケースだけは実現しなかったらしい。とりあえず、そうならなかっただけで僕の胸のモヤモヤの九割は収まった。
……ん、それじゃあなんでカシムさんはあんな表情で、最後に礼までして去って行ったんだろ?
「それで、何の話をしてたの?」
アリスちゃんは再びカレンさんに質問を繰り返す。
「ああ、それは簡単。あの人が、私が探していた人物かどうか確認を取ってただけなの」
探してた人物……もしかして、今朝会った時に言ってた話だろうか?
「ふーん、それでどうだったの?」
「紆余曲折あったかんじだけど、どうやら間違いないみたいね」
カレンさんは満足そうに頷く。僕は話が飲み込めなくて質問する。
「なんでカシムさんを探してたの?」
「あら、サクラはともかく、レイ君も忘れちゃったの?」
「えっ?」「んんん?」
僕とサクラちゃんはそれぞれ声を上げる。
「いや、僕全然心当たりないんだけど……」
「一体何の話ですか、先輩?」
「……まぁ彼、名前を偽ってたみたいだし、気付かないのも無理ないか……」
カレンさんは一瞬呆れたような表情をするが、すぐに理由に思い当たったのか納得する。その様子に僕達はますます困惑してしまった。
「彼ね……本名は、【アスタロ・アーネスト】よ。魔法都市エアリアルの四賢者の一人、【グラハム・アーネスト】の一人息子なのよ。思い出した?」
・・・・・・・・・・・
「えええええええぇぇぇぇぇぇ!?」
「え、嘘!? あの人がっっ!?」
「……アスタロ?」
「……誰?」
僕とサクラちゃんが衝撃を受けているのを他所に、事情を全く把握できてないアリスちゃんとミーシャちゃんは首を傾げるばかりだった。
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