第739話 パパとの邂逅
そして、その次の日の朝―――
「お世話になりました、エリアさん」
僕達はお世話になったウィンドさんのお母さんにお礼と別れの挨拶を済ませる。
「あらあら、もう帰っちゃうの? もう少しゆっくりしていけばいいのに……ウィンド、貴女もなの?」
エリアさんは娘のウィンドさんになんとも言えない寂しそうな視線を向ける。
「……ええ、お母様、申し訳ありません」
「……そうなの。やっぱりお仕事?」
「はい、お母様」
「残念ね……クレスさんもしばらく家を空けてて、私、また一人ぼっちになっちゃうわ」
「……」
ウィンドさんはエリアさんの言葉を聞いて、複雑そうな表情をする。クレスさんとは、ウィンドさんのお父さんの事だ。長期的な仕事で普段は世界を飛び回っているらしい。
その彼の懐刀であるライオールさんは、クレスさんの命令でエリアさんの事を守るように命令されたため、この屋敷で住み込みで働いているという話だ。
しかし、エリアさんは自分の言葉で雰囲気が暗くなってしまったことで慌てて表情を明るくする。
「あ、ごめんなさいね。変な事を言ってしまって。……そうそう、でもクレスさんはもうすぐ帰ってくるって話なの。貴女の今の仕事が一段落付いたらまた帰ってらっしゃい。その時は家族三人でゆっくりしましょう?」
「……ええ、必ず」
ウィンドさんは少しだけ間を置いて母エリアの言葉に頷いた。
◆
そして、エリアさんと別れて僕達は外に出る。するとライオールさんが僕達の護衛を兼ねて街の出口まで送ってくれることになった。
「……ウィンドお嬢様。それでは参りましょう」
「別に私達は送迎など必要ないのですが……」
「……いえ、エリア様のたっての頼みでございまして……母上様のお気持ち、汲んではいただけないでしょうか?」
「……」
ライオールの言葉にウィンドさんは押し黙る。そして、改めて僕達に頭を下げた。
「……それではこちらへどうぞ、馬車を用意しておりますので……」
ライオールさんはそう言って僕達を馬車に乗せてくれた。
そして10分程で僕達は街の出口に到着した。出口まで着くと、そこにはグウィード様に僕達に同行するよう命令された賢者の三人が待っていた。
「やぁキミ達、待ちくたびれたよ」
賢者の一人であるクロードは僕達を見掛けると軽く手を振る。
僕達は馬車を降りて彼らとも挨拶を交わす。
「クロード、ミント、グラハム。三人共、もう準備が出来たのですか?」
ウィンドさんは彼らにそう質問する。
「ああ、一通りの僕らの仕事の引継ぎは済んだからね」
「……と言っても、大半はコーリンの奴に投げることになったが……」
クロードの言葉に、グラハムは苦笑して話す。残る賢者の一人であるミントは二人を静かな目で見つめていたが、横からサクラちゃんに声を掛けられる。
「あー♪ ミントさん、もしかして髪形変えました?」
「あら、本当ね」
「……ッ!」
サクラちゃんとカレンさんが突然話しかけてきた事に驚いたのか、ミントさんがビックリしたような顔をする。
「……え、どうして、分かったの……?」
「えー、それはもう。昨日見た時と違って、髪の先にウェーブが掛かってて、髪の長さも違うし、何よりミントさんは素敵な人ですから、見間違えませんよー♪」
「ッ!? ……あ、ありがと……」
サクラちゃんの言葉にミントさんの顔が真っ赤になる。
「(髪形変わってたのか……全然気付かなかった)」
ミントという女性は不思議な雰囲気を纏った綺麗な人だけど、髪のボリュームそのものが気になって細かい部分まで気付けなかった。
「え、ミント、何か変わってたのかい?」
「ふむ……言われてみれば……」
だが、気付かなかったのは僕だけじゃなかったようで、賢者のクロードとグラハムも彼女の髪形が変わっていた事に気付いていない様子だ。
そんな二人を見てミントは若干落ち込んだような表情をする。
サクラちゃんはクロード太刀を指差して言った。
「二人は女の子の気持ちを全く理解できていませんっ!!」
「えっ」
「……な、なんだと……?」
クロードとグラハムは困惑した表情を浮かべる。
「……女性がせっかくおめかししてるのに、それを指摘くらいしてあげなさいよ」
「賢者って言っても、案外鈍感なんですね……」
続いてカレンさんとエミリアが二人を責めるようにジト目で言った。
「ええ……」
「……何故、俺達は今責められてるんだ……?」
クロードとグラハムが助けを求めるようにミントさんに目を向ける。
「……分からないなら、それでいいんじゃない?」
ミントさんは完全に不貞腐れて、そっぽを向いてしまった。
「ねぇねぇ、サクライくん」
「どうしたの、ルナ?」
「勿論、サクライくんは気付いていたよね?」
ルナが僕の腕を引っ張って聞いてくる。
「………うん」
「だよねー」
はい、嘘です。サクラちゃんが指摘するまで全然気付きませんでした。
「……コホン、雑談はその辺りにしましょう」
ウィンドさんは場を仕切り直すように言う。
「ライオールさん、ここまでありがとうざいました。私達は地上に戻りますが、母の事をよろしくお願いします」
「お任せください」
「……それと、お父様には『今までごめんなさい』……と伝えて貰えますか?」
「……承知しました」
「それじゃあ、皆さん」
「ええ」
「行こう」
ウィンドさんが出発を促すと、僕たちは魔法都市の門を出て外へ向かう。しかし飛行魔法で地上に戻ろうとすると、ライオールさんが言った。
「……ですがお嬢様。その言葉、クレスお父様本人に直接言ってあげた方が宜しいのでは?」
「……え?」
ウィンドさんは振り返ってライオールさんを見る。しかし、そのライオールさんはこちらを見ておらず、腕を横にして街の中の一か所を指差していた。
「あちらをご覧ください」
「……っ!」
ライオールさんの指差す場所に視線を逸らすと、そこには壮年の男性がウィンドさんをジッと見ていた。それを見て、ウィンドさんは声を詰まらせて驚きの表情を浮かべる。
「……お父様」
ウィンドさんがそう呟くと、その男性はこちらに近づいて来た。
「……ウィンド」
「あ……あの…………お久しぶりです」
「そうだな……お前とこうして会話は交わすのはもう何年前だろうか……変わり無いようで安心したぞ……」
「……ええ、お父様」
ウィンドさんはそう短く答える。そして、二人の間に数秒間、沈黙が生まれる。
そして、ウィンドさんはチラリとこちらを見て言った。
「……皆さん、少しだけ……お父様と話をさせてもらえませんか?」
「……分かったわ。皆、邪魔にならないように少し離れてましょう」
カレンさんは彼女の言葉に頷く。
そして、僕たちも二人の邪魔にならないようにその場から離れることにした。
―――それから30分程経過。
「……皆さん、お待たせしました」
ウィンドさんがこちらに駆けてきた。
「お父様と話は出来たの?」
カレンさんがそう質問すると、ウィンドさんは首を縦に振った。
「……ええ、気まずさがあってぎこちない形になりましたが……それでも十数年ぶりに話をすることが出来ました」
「……そう、良かったわね」
カレンさんは珍しくウィンドさんに優しい表情を向ける。
「でも師匠、もういいんですか?」
「ええ……今の仕事を終えたら、また会う事を約束しましたから……」
「そうか……なら、早くその仕事を片付けないとね」
「ええ。行きましょう」
ウィンドさんは力強く言うと、飛行魔法を発動させて空に浮かび上がる。僕達も同様に飛行魔法を使用し、空に浮かび上がると一斉に魔法都市から離れて地上に降りて行った。
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