第737話 祭典
次の日――
レイ、サクラ、カレンの三人は予定通り、魔法都市の祭典に参加することとなった。
ベルフラウ達はウィンドの屋敷で今は待機しており、この後は当事者ではなく一般人として祭典に参加する予定だ。
【視点:レイ】
僕達は未完成の魔導船に乗り込んで、数人の作業員が魔導船を起動させる。万一何か異常が起こらない様に、動力が安定するまで僕達は甲板の前で見守る。
「こう見てると、飛空艇そのものだね……」
僕は自分がテレビゲームで見たような空を飛ぶ機械を想像して独り言ちる。
以前、馬車で旅をしていた時に飛空艇みたいな乗り物があればいいのに、と呟いたことがあったがまさか本当にあるとは……。
「レイさん、それなんです?」
「あー、えっとね……」
サクラちゃんの質問でなんと答えようかと迷っていると、甲板内で準備をしていた四賢者の一人のグラハムが作業を止めてこちらを向く。
「……オレも興味があるな。飛空艇というのはどういった乗り物なのだ?」
「……風を動力にして空を飛ぶ乗り物です。船のように帆を広げてプロペラっていう小さな翼を回転させて風を加速させて空を飛ぶって話です。……まぁ、そんな乗り物存在するか分かんないけど」
何せ、自分の世界には存在しなかった空想上の乗り物だ。
「なるほど……それは興味深いな。この魔導船は純粋な魔力を動力にしているため、無風であっても飛ぶことは可能だが、いかんせん燃費がな……」
「風を動力……でも不思議……ね……そんな乗り物……エアリアルの……記録でも見た事ない……わ」
ミントは不思議そうな表情で僕を見る。
「あの……僕の故郷の架空の乗り物なので……」
「ふーん……?」
「しかし、その飛空艇とやらがこれと同程度の規模だとしたら、それほどの重量の巨体をどうやって風だけの力で飛ばしているのだろうな?」
グラハムの興味深そうな問いに、現場を監督していたクロードがこちらに歩いてくる。
「興味深い話だね。魔法無しでそれを実現するのが難しいように思える……だが、工夫次第で可能なのか……?」
「可能といえば可能だろう。例えば――」
……ヤバ、賢者三人が真剣に考察し始めてしまった。
カレンさんがため息を付いて言った。
「レイ君の呟きで完全に話が逸れちゃったんだけど」
「いや、これ僕のせい?」
「冗談よ。でもああいう根も葉もないことで盛り上がれるのはある意味羨ましいわ」
「わたしはちょっとロマンを感じますよ? 風の力で空を飛ぶって、もしかしたら魔法無しでも人間も空を飛べるようになるかもしれませんし」
サクラちゃんは目を輝かせながらそう呟く。
そうして話していると、作業員の一人の男性がこちらに向かってくる。
「準備が完了しました。あなた達も乗船してください」
「了解です」
「……しかし、初めての飛行実験でまさか地上の人間に乗せることになるとは……」
「……」
「あ、いえ。失礼しました。私達も長老達のご命令なので、反対などしませんよ。賢者様達にも許可を頂いております。それではご乗船ください」
彼はそう言って僕たちを甲板へと案内する。甲板の上では作業員が慌ただしく動き回り、魔導船の起動の最終調整を行っていた。
やがて準備が整ったのか、数名の作業員が魔導船に乗り込んできて僕やカレンさんと握手をする。
そして、賢者たち三人も乗船すると一人がスイッチを押すとブザー音が鳴り響き、地下のシャッターが開いてそこから外の光が溢れる。
最初はゆっくりだった上昇スピードも徐々に速くなっていき徐々に魔導船が浮かび上がっていく。サクラちゃんやカレンさんも歓喜の声を上げて、僕も胸が高鳴って行くのを感じていた。
「―――さぁ、この魔導船の雄姿を、皆に見せてあげよう!」
クロードは魔導船を見上げながらそう叫んだ。その後、魔導船は無事に空へと浮かび上がりなら高速で動き出し、地下を抜けて一気に空を飛び立つ。
そして魔法都市の空を駆け巡り、国の人達の驚きと歓声の声を浴びながら僕達は注目を浴びることになった。
その日はクタクタになるまで僕達は国の中を駆け巡りお祭りを楽しんだ。
時には僕達を毛嫌いする人達も居たけど、四賢者の説得と、遠くから見守っていたウィンドさんの物理的な支援のお陰で事なきを得た。
魔法都市の人間は数百年間地上との交流を排してはいたものの、切っ掛けが無かっただけなのだ。
これを機に少しずつ交流を深めて、少しでも仲良く出来れば……。そんな事を考えながら、僕達の祭典は大成功を収めた。
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