第736話 緊張してるレイ君

 再び頂の塔の全知の間に戻ってきた僕達。


「長老様とお会いできるのは、僕達四賢者と彼らだけなんだ。済まないが他の者達はここで待機していてもらえないか?」


 クロードは姉さん達にそう言いながら僕達に目配せする。その目線の意味を何となく理解出来た僕は、彼に頷いてから姉さん達に声を掛ける。


「姉さん達はここで待ってて。僕達だけで会ってくるから」


「大丈夫なの?」


「うん。それじゃあ行ってくるよ」


 そして、姉さん達は一旦、全知の間で別れてから5人で魔法陣を使って長老の元へワープする。


「……レイ、意図を理解してくれて助かるよ」

「……うん」


 クロードの呟きに、僕は小さく頷いて答える。おそらく、『長老』の姿を見せると混乱が起きる可能性があるのを避けたかったのだろう。


「あの姿だとみんな驚くでしょうからね」

「わたしは今でもびっくりしてますよぉ」


 カレンさんの言葉にサクラちゃんが胸を手で抑えながら答える。


 そして、再び『長老』ことグウィード様の元へ戻ってきた。


 ――クロードよ、案内は終わったようだな。


「はい、長老様」

 クロードは姿勢を正して、目の前の存在に対して敬意を示す。


 ――して、どうであった客人達よ。 我らの<魔導船>はお主らの期待に応えるだけのものであったか?


「ええ、グウィード様。あれほどの代物ならば、大勢の兵士達を乗せて空から魔王城へ向かうことが出来ると思います」


 ウィンドさんは満足そうな表情で答える。


 ――ふむ。そうか。それは良かった。


 グウィード様は満足したような声色で語る。顔が無いので表情は分からないが喜んでいるようだ。

 ――では、今度はこちらからお主たちに頼みたいことがある。


「協力?」


 ――今回、地上のお主らに力を貸すとあって、この国の多くの者が反感を持つだろう。知っての通り、この国は自国民以外の人間に対して排他的で差別的な傾向がある。如何に四賢者が説得しようとも、長い歴史に渡って染みついた風潮は簡単には拭うことは出来ぬ。


「確かに……」


 ――そこで本題だ。ウィンド・ジーニアスの弟子の三人。レイ、サクラ、カレンよ。


「僕?」


「わたし?」


「……長老殿、私達に何かご要望が?」


 突然、名前を呼ばれた僕達は戸惑う。


 ――お主らには、我が国の祭典に参加してもらいたいのだ。そこで彼らと交流をし、この国の歪んだ考えを払拭してもらいたい。


「祭典……ですか?」


 ――うむ、お主らには<魔導船>の試運転も兼ねて参加してもらう。互いの国にとって決して悪い話ではないはず。


「……どうします。三人共?」


 ウィンドさんは僕達三人に問いかけてくる。


「私は構わないわ。長老殿の仰る通り、手を取って協力し合うのであれば不仲のままでいるわけにもいかないわ」


 カレンさんはそう言って即答する。


「わたしも問題ありませんよー」


 サクラちゃんもカレンさんが決めたので続いて返事をする。

 ならば僕も当然……。


「……あの、祭典って何をするんですか?」


 元々弱気な性格なので、即答できないのが自分の悲しいところである。


 ――難しいことなど何もない。四賢者と共に魔導船に乗って空から都市内を巡ることになる。そして、交流会を開いて国民達と触れ合う。それが主な目的だ。魔法都市の各拠点に回って挨拶してもらうことになるため、少々気疲れするかもしれぬが。


「な、なるほど……じゃあ僕からは何も問題はないです」


 元々、自国でのお祭りなど参加したことがないのでちょっとドキドキしている自分がいる。


 ――ならば、明日だ。早速祭典を執り行うとする。今日は一日ウィンド・ジーニアスの屋敷に止まると良い。


「分かりました」


 ――では、今日はこれにて解散。四賢者の諸君らにも明日は働いてもらうぞ。


「長老様の仰せのままに」


「異論はございません」


「分かり……まし…た」


 四賢者の三人はグウィード様のその言葉に恭しく答える。そして、グウィード様の言ったとおり、その日は解散ということになり、僕達はウィンドさんの実家で身も心も休むことになったのだった。

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