第735話 魔導船
【視点:レイ】
グウィード様との話し合いを終えた僕達。
――では、クロード。彼らを<魔導船>の元へ案内してやってくれ。
「仰せのままに、長老様。……ではキミ達、行こうか」
グウィード様に命令を受けたクロードは頭を下げて、僕達を案内するためにその場を去ろうとする。
「あ、待ってください」
「?」
僕が引き止めると、クロードが足を止める。
「僕達の仲間が、1階でずっと洗脳の魔法を受けて動けなくなってるんですけど。元に戻してもらえませんか?」
「ああ、その事か。既に洗脳は解けているよ」
「本当ですか!?」
クロードが僕達の仲間を洗脳から解いたと教えてくれたので、僕達は驚く。
「あの魔法を掛けたのはコーリンだけど、彼もキミ達の仲間をどうこうしようとしわけじゃないからね。僕達がキミ達の前に姿を現す前から彼女達の魔法は既に解かれていたよ」
「……そうだったのですね」
ウィンドさんは少し安心したように息を吐く。
――コーリン・アロガンスが失礼したようだな。だが、あの男も悪気があったわけではなく、真面目に職務を全うしただけなのだ。あまり恨まないでもらいたい。
「……はい」
グウィード様の謝罪に、ウィンドさんは首を縦に振る。
「……今まで敢えて質問は避けていたのだけど、コーリンって人はウィンド、貴女とどういう関係なの?」
複雑そうな表情をしていたウィンドさんにカレンさんは質問する。
「あの人は、私が魔力適正検査を受けた後に指導をしてくれた先生です。少し性格に難はありますが、頭が良くて知識も豊富で魔法の腕も確か。この国でもトップレベルの魔法使いの1人です」
「なるほど……伊達に四賢者の一人ってだけの事はあるわね」
カレンさんは納得する。
続いてサクラちゃんは手を挙げて質問する。
「あの人、師匠が自分に恋い焦がれてた~とか言ってませんでした?」
「……はぁ」
ウィンドさんはサクラちゃんの質問に、頭に手を当ててため息を吐く。
「……サクラ。相手が本気で言ってるかどうかくらい、見分けがつくようにならないと駄目ですよ」
「えー!?」
「あの人は自信過剰な面があって、自分の弟子は皆自分を尊敬してると勘違いしてるんです。ちなみに、彼の本来の年齢は既に70近いですよ。変身魔法で若い時の自分に姿を変えているだけです」
「え、70!?」
「ええ、本来の姿はもっと年老いてますよ」
サクラちゃんの驚いた反応に、ウィンドさんは苦笑して話す。
「……彼、わたしたち、四賢者のリーダー、なの」
「……多少、嫌味な部分はあるが、確かに奴には人望がある。魔法の才能もな」
ミントちゃんの言葉に、グラハムが補足する。
「彼は戦闘においては僕達ほどではないけど、ある意味、最も賢者らしい人物かもね。……さて、案内するよ。ついておいで」
クロードはそう言ってまた歩き出す。僕達も彼の後を追って歩き始めるが、今度はグラハムが声を掛けてきた。
「……カレン・ルミナリア」
「……ん?」
自分の名前を呼ばれてカレンさんは足を止めて振り向く。
「……もし、地上で俺の息子を見掛けたら……」
「……こっちに戻ってくるように伝えておくわ」
「すまない……」
それだけ話すと、カレンさんは彼と別れて僕達と合流した。それから、階段を降りて頂の塔の1階に戻ると、既に魔法の解けた仲間達が僕達を出迎えてくれた。
「レイ様!!」
「サクライくん!」
僕の姿を見るなり、魔法の解けたレベッカとルナが僕達の元へ急いで駆けてきた。
「二人とも、元気そうで良かった」
「も、申し訳ございません……あんな魔法の虜になってしまい、足を引っ張ってしまいました……」
「私も……」
二人は申し訳なさそうに謝罪する。
「いや、アレは仕方ないよ。ところで姉さん達は大丈夫だった?」
「はい、ベルフラウ様もエミリア様もノルン様も無事です」
「そっか……」
他の仲間達の様子を見ると彼女達も魔法が解けており、僕達が声を掛けるとすぐに反応してこちらに歩いてきた。
ただ、エミリアに関しては、魔法関係なしにここに保管されている魔導書の数々に興味を惹かれたのか、本棚に並んでいる魔導書を読んでいる。
「エミリア」
僕は彼女の名前を呼びながら近付いていくが、彼女は集中しているようで全くこちらに気付かない。
「エミリア?」
もう一度名前を呼ぶと、今度は僕に気付き僕達は視線が合う。すると……
「あ、レイ。お帰りなさい、首尾はどうでした?」
エミリアは何事も無かったかのように言った。そんな彼女の様子に僕は少し呆れながらも返事をする。
「長老に無事会えて説得出来たよ。ところでエミリアは何してるの?」
「魔法で無理矢理読まされていたのですが、読まされている間に興味が出ちゃいまして……私の知識欲が収まるまでここで読んでいようかと……」
エミリアは下をペロッと出して可愛らしく答える。
「クロードさん、構いませんか?」
「……まぁ、本を汚したり、ここから持ち出したりしなければ構わないよ」
クロードは苦笑して答える。
「え、本当ですか!? ……というか、貴方誰です?」
「……」
エミリアの言葉にクロードは固まる。
「……四賢者のクロード・インテリシアだ」
「へー、私はエミリア・カトレットです。賢者って割に冒険者みたいな格好ですね」
「まぁ賢者ってのは役職みたいなものだから……」
賢者って役職だったのか。
てっきり、知識を求めて世界中を飛び回っているような人達かと……。
「読んでいても構わないけど、ここの本を持ち出したり何処かにメモを残すのは禁止。あくまで頭の中に入れるだけにしてほしい。これでも、この国の最高機密なんだ」
「分かりました」
クロードの言葉に、エミリアは素直に頷いた。
「では、他の人達は<魔導船>の所まで案内するよ」
「クロードさん、質問なんですが……<魔導船>っていったい何なんです?」
「フフフ、知りたいかい……? でも、それは後のお楽しみだよ」
ウィンドさんの質問に、クロードは意味深な笑みを浮かべる。
◆◆◆
その後、読書に勤しむエミリアと、眠ったまま動こうとしないノルンを残して僕達はクロードに案内される。
頂の塔を出て、馬車に乗って魔法都市の西へと進んでいく。そしてとある建物の前に到着すると、クロードだけ先に馬車から降りて建物の扉の前で何らかの魔法を唱える。すると、建物の扉はズズズと物音を立てて開いていった。
「さ、準備が出来たから入って」
クロードに言われるまま、僕達は建物の中に入る。建物の中は真っ暗で、中央へ地下に向かう階段だけが用意されていた。
「この階段を降りればいいんですか?」
「ああ。ただ、この場所は厳重に警備されているから普段は誰も立ち入れない様にしてある。出来ればこの場所の事は口外しないでほしい」
「分かりました」
「ふむ……何というか、こうまで秘匿されていると何があるのかドキドキしてしまいますね……」
レベッカは興味深そうに言った。
「……まぁ、行けば分かりますよ」
ウィンドさんはそう言って僕達よりも先に階段に足を踏み入れる。
僕達もそれに続いて階段を下りて行き、一番下に辿り着くと―――
「これは……」
「凄い……!」
レベッカとルナが目の前の光景を見て目を輝かせる。
そこには、巨大な魔道具仕掛けの巨大な船があった。
「これが<魔導船>だ」
クロードは誇らしげに目の前の船を見て答えた。
「これが完成すれば、この空を自由に行き来できるようになる。キミ達が目的とする魔王軍の拠点へ向かうことも造作もないわけさ」
「そんな凄いものを、私達が使ってもいいの?」
クロードの言葉に姉さんはそう質問する。
「長老様のご命令だからね。それに、魔王軍は僕らにとってもキミ達と共通の敵だ。その為に力を貸すのは僕達だって吝かじゃないさ」
姉さんの質問にそう答えて彼は笑う。
「しかし、この魔導船はまだ調整中の段階だ。少なくともあと1週間は時間が欲しい。それだけ時間があれば魔王軍の拠点を攻略する準備が整うはずだ」
「そんなぶっつけ本番で大丈夫なんですか?」
「万全とは言えないが、この魔導船の情報が魔王軍に漏れてしまうと危険だ。下手をすれば魔法都市が魔王軍に優先して狙われてしまう可能性もある。
勿論、一度や二度の襲撃で落ちるような事は無いが、その間に対策を取られる可能性もある。なるべく秘匿しておきたい」
「なるほど……」
「では一旦長老様の所へ戻ろう。まだ話の途中だったからね」
「了解です」
そして、クロードの指示に従って僕達は頂の塔へ戻ることになった。
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