第734話 話し合い
【視点:レイ】
不穏な気配を感じた僕達三人と賢者三人は急いで転移用の魔法陣を使い『長老』の元へ向かった。
「『長老』、ご無事ですか!?」
真っ先に階段を登って辿り着いたクロードは切羽詰まった声で『長老』の身を案じる。
僕達も彼に遅れて辿り着き、周囲を見渡すと、周囲には仰々しい魔道具の設備と、何かの容器で満たされている巨大な試験管のようなガラス管が中央に置かれていた。
そして、その手前にはこちらをポカンとした表情で見つめるウィンドさんの姿があった。
「皆さん……」
「良かった、無事だったんだね……」
「全く、心配を掛けさせないでよね……」
僕とカレンさん達は彼女の無事な姿を見て安堵する。
「……どうやら杞憂だったようだな。『長老』はご無事のようだ……」
「すこし、焦っちゃった、わ……」
グラハムとミントの二人は、『長老』が無事だったことに表情が緩んで、その場で立ち止まる。
しかし、彼らが心配する長老の姿などない。一体、何処にいるのだろうか?
「クロードさん、何処に『長老』が居るんですか? ここにいるのはウィンドさんだけのような……?」
僕はクロードにそう尋ねる。すると、クロードは真っすぐに中央の何かの容器に満たされた大きくて細長いガラスを指差す。
「……あの方が、キミ達が会いたがっていた『長老』だよ」
「え?」
その言葉に、僕とカレンさんとサクラちゃんがそちらに視線を向ける。
しかし、その容器の中に人などいない。
「え、長老なんて何処にも……」
「……いえ、待って。あの容器の中に何か入っているわ」
カレンさんは注意深そうにその容器の中を見つめる。僕達も彼女に習って目を凝らす。
――すると。
「……ひっ!?」
中にあるナニカに気付いたサクラちゃんが悲鳴に近い声を出す。
「嘘……」
「そんな……」
僕とカレンさんもその中身のナニカを認識してしまい、恐怖に近い表情をしてしまう。
そのガラスの中に満たされていたのは、謎の液体と、その中でプカプカと浮かび上がる人間の臓器と大きな人間の脳だった。
――ようこそ、客人達よ。儂がこの国でお前たちが『長老』と呼ぶ存在だ。
すると、突如、そのガラスの中から声とも言えない音が響き渡る。
「今の……まさか……」
「あの、脳が喋ってるって事よね。本当に、アレが『長老』だと言うの?」
カレンさんは額に汗を流しながら賢者たちに問いかける。
三人の賢者は無言で首を縦に振る。
――改めて自己紹介をさせてもらおう。儂はグウィード・ヴィズ・ラスティオーネ。正確にはグウィードの記憶と知識を受け継いだ存在である。客人たちよ、お前たちの事を歓迎させてもらおう。
「知識を引き継いだ……? どういうことです。それに、何故あなたはそんな姿に……?」
目の前の『脳』が僕達に言葉を発していることを認識し、僕は彼にそう問いかける。
――ふむ。人間の寿命は短い。如何なる魔法を用いたとしても人間の寿命はせいぜい150年と言ったところ。
――この国を創設した大賢者グウィード・ヴィズ・ラスティオーネは、自分が創設したこの国の行く末を見届けるために自分の記憶や知識を後世へ受け継がせる方法を考案した。それがこの姿ということになる。
「だ、だからって脳だけになって生きるなんて……。う、グロ……!」
サクラちゃんは『長老』の姿を見て、顔を青くして口元を手で押さえる。
「おい、長老様に失礼だろう!」
グラハムは怒った様子でサクラちゃんに厳しい声を掛ける。
――良いのだ、グラハム。このような姿を見て、何の反応も示さない方が人として問題だ。
グウィードの『脳』は、彼と同じ声でそう答える。
「長老様、我々は貴方様に謝らなければいけない事があります」
すると、クロードが一歩前に踏み出して謝罪の言葉を述べる。
「僕達は彼らを試すつもりで、長老様の許可なく彼らに挑んでしまいました。挙句、僕達三人とも彼らに負けてしまいました。このような失態、貴方様になんと謝罪すればいいのか……」
クロード、それにグラハムとミントの三人は、その場に跪いて
――ほう、お前たちほどの者達を負かすとは……。
グウィードの『脳』は興味深そうな声色でそう言った。
――なるほど、若いがかなりの魔力と実力を併せ持つ一騎当千の実力者たちのようだ。して、お主らは何のためにここに来た?
グウィードの『脳』は僕達にそう質問する。
その質問に、ウィンドさんは僕達を代表して答える。
「『アーティフィシャル・アニマ』……いえ、グウィード様と呼んだ方が宜しいですか?」
――そう呼んでもらった方が分かりやすくて助かる。
「では、グウィード様。私達は、魔王討伐のために、この国に協力を要請しに来ました」
――……ほぅ、魔王か。
「はい、そして我らの国の主であるグラン・ウェルナード・ファストゲートは、魔王との最終決戦に向けて着々と準備を進めています。
しかし、魔王が拠点としている大陸は堅牢……大勢の兵士達を引き連れて一気に攻め落とさなければ勝機はありません。そこで、この魔法都市エアリアルの知恵を技術を私達に貸し与えていただきたいのです」
――ふむ、具体的に何を望む?
「……はい。この国の戦力と、そしてあなた達が今、秘密裏に開発を進めている<魔導船>を我らを貸していだきたい」
「……魔導船?」
ウィンドさんの言った聞き慣れない言葉に、僕は疑問に思った。
――その情報、何処で得た?
「……私は、国を出たとはいえこの国の出身の人間です。疎まれているとはいえ、それなりに情報を得る手段を持ちあわせております」
――ふむ、如何なる情報網を使ったのか気になるところではあるが……。
――しかし、<魔導船>はまだ試作段階。実用に耐えうるとは限らんぞ。
「それでも、私達は<魔導船>は必要不可欠なのです」
――……。
ウィンドさんがグウィードに魔王討伐の協力を要請すると彼は沈黙してしまう。彼女だけの頼みでは足りないのだろうか。僕も前に出て同じように懇願する。
「僕達からもお願いします。その<魔導船>というのはよく知りませんが、僕達は今度こそ魔王との決着を付けなければいけません。その為にも、是非力を貸してください!」
僕がそう言うと、カレンさんとサクラちゃんも同じように前に出る。
「お願いします。世界の平和の為にも力を貸してください!」
「地上の人間も、この国の人間も同じ仲間だと思うんです。一緒に力を合わせて魔王なんかブッ倒しちゃいましょう!!」
僕達三人はそう言って頭を下げる。
――……ふむ、グラハムよ。お前はどう思う?
グウィードの脳は彼にそう問いかける。
「……恐れながら、グウィード様。……地上の人間と我ら魔法都市の民は、以前から良い関係ではありませんでした。しかし、いつまでも敵対しているわけにもいきません。これを機に、少しずつ歩み寄るのも一つの手かと思います」
……意外だ。他のエアリアルの人間は地上の人間を見下しているように思えたのだけど、彼は違うらしい。
――クロード、ミント……。お前たちはどう思う?
「……僕は、貴方様の言葉に従います」
「……彼らも、悪い子達じゃないと、思います……。力を貸してほしいっていうのなら、少しぐらい、協力してあげても……と、思います」
――ふむ。
グウィードの脳は納得したかのような声を出す。
――ならば、是非もなし。……ウィンド・ジーニアス。
「……は」
ウィンドさんは畏まって、グウィードの次の言葉を待つ。
――我ら、エアリアルはお主らに力を貸そう。力を合わせて魔物達の脅威を振り払おうぞ。
「グウィード様……。ありがとうございます!」
こうして、僕達は『長老』……改め、グウィード様の協力を得ることが出来た。
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