第731話 VSクロード(決着)
【視点:レイ】
カレン達が戦いを終えた頃、レイとクロードの戦いはクライマックスを迎え、危険な領域に突入していた。
「<
クロードが剣を構えてこちらに向けると足元に魔法陣が出現し、更に周囲に風の上級魔法を発動する。この魔法は元々規模の広い魔法だが、彼の魔法は魔法陣のサポートを受けて更に範囲を広げており、その範囲は闘技場全体に及ぶ。
周囲の砂煙を巻き上げながらゆっくりと迫ってくるそれは『嵐』そのもので、逃げ場も無い自然の暴力に自身の身体がちっぽけな存在に見えてくる。
「補助結界によるブーストを込めた一撃だ。そう簡単に凌げるかな?―――行け!!」
クロードが指示を出すように剣を上に掲げると、魔法はスピードを上げて凄まじい勢いで迫ってくる。その魔法に対して、僕は……。
「
彼と同じく<無詠唱>を用いて別系統の上級魔法で対抗する。
「……上級魔法? 強化されてないそれでは、到底―――」
クロードはそう言葉を吐いて笑うが、僕の攻撃魔法の対象は自身の剣だ。自身の剣を上空に掲げて、僕の炎の魔法を流し込む。そして、炎の魔力を吸収した剣を手にして駆け出す。
「たああああああっ!!!」
クロードの風魔法に向けて一閃して炎の魔力を解き放つ。
風と炎の魔力がぶつかり合い、強大な魔力の衝撃で周囲が激しく揺れ始める。互いの魔力が混ざり合い周囲を破壊しつくすが、それでも炎が優勢になってクロードの魔法を完全消滅させる。
「な……!? 負けた……だと!?」
クロードはその光景を目の当たりにして、驚愕する。そして、その隙を突いて僕はクロードの死角から逃れるように横に動いて、今度はこちらから攻める。
「
約120センチ強の大きさの火球を同時に二発放つ、火球はくるくると螺旋を描きながら一つに混ざり合いクロードに飛んでいく。
この魔法はクロードに魔法を使わせて相殺することを狙った一撃だ。
しかし、予想に反してクロードは前に出た。
「こんな魔法で……舐めるなぁっ!!」
「……っ!」
クロードは剣を持って僕の火球に向かっていき、その火球の中心を狙って剣で貫く。
本来であれば、接触した時点で大爆発を引き起こす魔法なのだが、クロードの剣によって貫かれた火球は霧散して消えていった。
「今の技は……」
「……技なんて大したものじゃない。形のない風の魔法ならともかく、火球のようにある程度の形作られた魔法というものは核が存在する。
上手く物理的な衝撃を加えれば霧散することがある。魔法を極めるのであれば当然の知識だよ。キミだって無意識にやってたんじゃないのか」
クロードは少し誇らしげに僕に向かって説明する。
彼のいう通り、今までも形が崩れた魔法が霧散するということは何度かあった。だが、実際にそれをこうして自分の魔法を破られると驚く。
「しかしキミの魔法剣は何度見ても不可解だ。
強化や付与魔法ならまだしも攻撃魔法を特定の物質に閉じ込めて固定化するなんて聞いたことが無い。
ましてや、強化した僕の上級魔法を突破するほどの威力なんて……そんなもの、『長老』ですら実現出来なかったことだ。素直に敬服するよ」
「それは……どうも……」
「だが、それが出来るからといって僕に勝てるわけじゃない……そろそろ頃合いだ。僕が極めた『魔法』の神髄……ここで見せてやる……!!」
クロードは僕から離れて<飛翔>の魔法を使用して上空に浮き上がる。そして、頭上に剣を掲げて詠唱を始めた。その詠唱には聞き覚えがある。
「あれは……まさか……!」
クロードが詠唱しているそれはエミリアから聞いたことがあった。
「――光に覆われし漆黒、夜を纏いし爆炎よ、彼の地に来たれ。
―――我が魔力の奔流を受けて唸る業火よ。全てを焼き尽くす劫火よ、猛き力を以って顕現せよ」
彼の声が周囲に振動しながら響き渡る。彼の頭上に強大な魔力が集まっていき、やがてそれは赤い炎となって顕現する。
その炎は蛇のように畝り、その炎の蛇は徐々に空に広がっていく。やがて、空一面は灼熱の業火が渦巻く光景となり、それは世界の終末を思わせる光景だった。
「極大魔法……!」「……ん?」
クロードは詠唱を中断し、感心したような目で僕を見下ろして言った。
「知っているのか。そうさこの魔法は<自然干渉魔法>の炎属性の頂点される極大魔法……その名も、
「……仲間から教えてもらいました。そういう魔法があることを」
「知っているなら話が早いね。この魔法は、我らが『長老』……グウィード・ヴィズ・ラスティオーネが数百年の研鑽を得て編み出した究極の魔法の一つ。極大魔法と分類される魔法の半数は、この都市によって生み出されたものだ。
地上に伝わってたのは意外だが、『長老』が書き記した文献を元にして、誰かが再現して広まったのだろうね。だが実際に見るのは初めてじゃないかな?」
「……」
僕はクロードの言葉には答えない。
「まぁいい。知っているなら、この魔法がどれほどの力を秘めているか、聡いキミならば理解できるだろう。今の間に降参することを勧めるよ」
クロードはそう言いながら微笑む。
おそらく、彼はこの魔法を放てば必ず勝てるとそう考えているのだろう。
だが、僕はその光景を見て剣を構えて、戦いの意思があることを示す。
「……本気かい? この魔法を全力で放てば、人間はおろか大陸の一部にクレーターが出来てもおかしくないほどの威力があるんだよ。
キミは聖剣使いのようだが、それでも『賢者』である僕の極大魔法の威力には及ばないだろう。悪い事は言わないからすぐに降参した方がいい」
「本当は出来れば降参したいんですが……」
僕は正直な気持ちを語る。
「なら、何故?」
「多分、僕の仲間ならこの状況でも諦めたりしません」
今、きっと僕と同じように戦っているカレンさんやサクラちゃんも同じように四賢者と激戦を繰り広げているだろう。だが、彼女達が仮に苦戦して窮地に立たされても諦めたりしない。
なのに、一応リーダー格である僕がこんなところで弱気になって降参したら、後で何を言われるか分かったもんじゃない。エミリア辺りには散々弄られて、レベッカには同情の目を向けられて地味に僕の心が傷付くことになるだろう。
「仲間なら命が掛かった状況なら許してくれるだろう?」
「そうですね、僕の仲間ならきっと怒ったりしません。
でも、僕は一党のリーダーなので。一人だけ負けて、仲間から何とも言えない視線を向けられたくはありません。クロードさんはそう思いませんか?」
「……それはまぁ、軽く死にたくなるかもしれないね」
クロードは僕の質問に答えて同情的な視線を向ける。
「ということで、僕は諦めたりしません。……それに、僕もまだ使っていない切り札があるので」
「切り札……? 剣技だの上級魔法だの聖剣技だの、挙句の果てには魔法剣とかいう理解できない魔法を披露しておいて、まだそんなものがあるのかい?」
クロードは疑うような目で僕に質問する。
「はい。というわけで、僕も使いますね……極大魔法」
「……………は? はぁ? 今、なんて言った!?」
クロードは一瞬、呆然とした表情をした後に絶句し、その後怒ったように声を張り上げる。僕はそんな彼を無視して詠唱を始める。
「――天よ、我の言霊を聞き届けたまえ。我は汝を統べるもの。我は天の代行者なり、故に告げる」
「……そ、その詠唱……ま、まさか……!!」
クロードは焦ったように声を出す。どうやら彼もこの魔法の存在は知っているようだ。
「雷鳴よ轟け、稲妻よ、その力を解放し我が敵を討つ剣となれ。
全てを滅ぼし浄化する、神聖なる雷よ――」
「嘘……だろ………そ、その魔法は………!!」
ある程度詠唱を終えて、自身の周囲に雷の魔力を増幅させたところで一旦詠唱を中断する。
「これを知ってるんですか?」
「雷魔法の極致、
クロードは声を荒げて、詠唱を中断していた
「賢者が地上の人間に魔法で負けるわけにはいかない!!」
「僕だって勇者ですから、簡単に負けるわけにも行きません!!」
互いに想いをぶつけ合い、そして―――
「
互いに剣を振り上げ振り落とすと同時に、二人の極大魔法が発動する。
空から空一面から無数の火球の雨と、生き物のようにうねる炎の濁流降り注いでくる。更に、天から一筋の光が差し込み、凄まじい衝撃音と共に雷鳴が降り注ぐ。
炎と雷の巨大魔法が、互いの魔法を消滅させようと押し合う。衝突が発生した付近から凄まじい爆音と衝撃と共に空間が弾け、そこから同心円状に衝撃波が広がっていく。
そして、視界が真っ白に染まる。数秒後、目を開けると互いの魔法は完全に相殺され、元の光景へと戻っていた。
「……互いの魔法が完全に相殺されてしまったというのか……!」
「……ほっ」
クロードの驚愕の声と、僕の安堵の声が重なる。もし、僕が極大魔法が使えなかったら、彼の魔法の発動を許した時点で負けていただろう。別系統の極大魔法を習得していたことでどうにか拮抗状態に持ち込むことが出来た。
「まさかこんなことが……一体、キミは何者なんだ……!?」
「……ウィンドさんの弟子ということで、ここは一つ」
「ふ、ふざ……っ!! ふざけているのかっ!?」
「いえ……ふざけてるわけじゃ……」
僕がそう返事をすると、クロードは怒りの表情で空から降りて地上に着地する。そして剣を僕に向けて言い放つ。
「くっ……いいさ、キミが何者でも構わない。魔法で勝負が付かないなら、
「まだやるんですか……」
流石にこれ以上は付き合っていられない。
どうにか彼を説得して武器を収めてもらうしかなさそうだ。
というわけで、精神攻撃開始。
「やる気になっているところ悪いですけど、ここまでの戦いで分かる通り、剣の勝負だとどうやっても僕が優勢だと思いますよ」
これ以上勝負が長引くと色々きついので、僕ははっきりと断言しておく。
「それにクロードさんは魔法剣使えませんよね?」
「ぐ……!!」
僕がそういうと、クロードは悔しそうに顔を歪ませる。
「どうしても勝負を付けたいなら受けて立ちますが……素直に『合格』と言って貰った方が僕としては助かるんですが……」
わざとらしくため息を吐きながら僕はそう言った。クロードは、眉をぴくぴくさせて何か言いたそうだったが、次第に諦めの表情になっていく。
「……『合格』だよ」
クロードは、小さな声で僕の合格を認める。しかし、その後にボソッと「今度リベンジマッチするから覚えてろよな」と物騒なことを呟く。
「そうですか、ありがとうございます」
「くっ……!!」
クロードは眉をピクピクさせて怒りを抑えながら剣を鞘に納めた。
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