第728話 VSミント(決着)

【視点:サクラ】


「たぁぁぁぁぁぁ!!! って逃げないでくださいよっ!!」


「に、逃げないと、捕まるじゃ、ない……」


 わたしサクラは、上空に飛んで逃げるミントさんを追いかけ回していました。


「捕まえた!!」「あっ……」


 ようやく、ミントさんを捕まえました! これでわたしの勝ちです!!


 ……って思ったら、いきなり彼女の身体が透けて消えてしまいました!!


「あ、あれぇ……?」「ふぅ、危ない……わね……と」


 後ろを振り向くと、ミントさんは少し離れた所で息を付いていました。


「い、今の、幻影?」


「……そ。この、<花園の世界>フラワーガーデンでは、私の、本体を捉えるのは、容易じゃない、わ」


「最初にわたしに不意打ちしたのもそれだったんですね!! ズルい!!!」


「……ズルいって言われても……ね。あなた、わがまま……」


 ミントさんは困った顔をして、わたしを見つめていました。


「うぅ……って!!」


 わたしの周囲の花が巨大化して蕾の中に取り込もうと首を動かしてきました!

 わたしは大慌てで飛行魔法で空に飛び立って難を逃れます!!


「……惜しい、わね」


「ミントさん、そういう攻撃は卑怯じゃないですか!?」


「だって、私の使う魔法って、大体そんな感じ……でも、仮に捕まっても勝負には負けだけど、絶対死ぬような事はしないから、安心して?」


「そ、それは助かりますけどぉ……勝負には負けたくないっていうか……」


「熱血なのね……女の子なんだから、もうちょっと、慎みを……ね?」


「げ、元気な女の子も可愛いと思うんです!」


「可愛いけど……お転婆過ぎる……の」


 ミントさんは、かなり困惑した様子でした。


「むむむ……」

 

 でも、正直ピンチです。彼女と刃を交えなくて済んだのはホッとしてますが、幻影などの魔法を自在に操る相手を捕まえるのは正面から戦うより難易度が高いかもしれません。


「じゃあ、ここからは一気に勝負を付ける、わね」

「えっ?」


 わたしが返事をするより先に、ミントさんはロッドをくるくると回して魔法を唱えます。


「花のマナの精霊……私の声に応えて……!!」


 そして、彼女のロッドが輝くと、彼女の身体が無数に分裂して、四方八方に広がりました。


「えぇっ!?」


 驚いている間に更に分裂、地面や空に沢山のミントさんの姿が現れて、最終的には全部で50人くらいに分裂してしまいました。


「み、ミントさんが増えた……!?」


「……本体は、一人だけ……よ……あくまで他は幻影……」


 ミントさんはそう言って私の言葉を否定します。ですが、その彼女の声は全ての彼女の幻影から聞こえてきて、何処から喋っているのか判別が付きません。


「うっ、本物はどれっ!?」


「……それを、探してみるのも……あり、ね……」


「たぁっ! たぁっ!!」


 わたしは手近なミントさんを狙って手加減パンチを繰り出しますが、幻影はその拳をすり抜けてしまいます。


「ひにゃぁっ!?」


 そして背後からわたしの背中をポンと叩かれて変な声を出してしまいます。振り向くと、そこにはミントさん?が立っていて、わたしはやり返すとやっぱり煙のように消えてしまいました。


「え、幻影? でも、今、感触が……?」


「この<花園世界>フラワーガーデンなら、私の幻影は、僅かながら質量を持つの……。力は弱くても、軽く触れたりするくらいなら……」


「うー、本物を見分けられればいいんだけど……っ!?」

 周囲を警戒しながら呟いていると、後ろから気配がします。慌てて振り返るとそこにもミントさんが空を飛んで4人同時に迫ってきました。


「「「「捕まえたっ!」」」」

「うわっ、危ない!」


 左右と上下同時に私は弱々しい彼女の両手に捕まりそうになります。わたしは慌ててすり抜けて地上に逃れるんだけど、今度は花が巨大化して襲い掛かってくるので再び空中に逃げる。だけど空にはミントさん?の群れが……!!


「こ、この世の地獄……?」


「ひ、酷い……こんなに綺麗な光景、なのに……」


「それだけ、私達が嫌われているっていう……ことね……」


「うぅ、悲しい……」


 幻影に悲しまれるのも複雑な気持ちです。


「(で、でもどうすれば良いのかな……)」


 地上に降りるのはマズい。そこらへんにある綺麗なお花が大きくなって蕾が口みたいに動いて襲い掛かってくる。


 あの蕾の中の花粉がどういう効果があるかもしれないけど、なんとなく危険な気がする。かといって、上空はミントさんがフラフラといっぱい飛んでて近づくとわたしを捕まえにくる。


 別に幻影に触れられても大したことないけど、『捕まったら負け』の条件だから身動きを封じられた時点で負けだ。


「(本物を見分けるにしてもなぁ……)」


 戦士職には【心眼】と呼ばれる相手の戦意や殺意を察知する技能がある。わたしは戦士だから当然使える技能なんだけど、この状況だと使い辛い。


 何故かというとミントさんの気配は極端に薄いからだ。その辺にいる幻影ほど薄くは無いけど、少し動き回られてしまうとそれだけで察知が難しくなる。


「そー……っと……!!」

「!!」


 背後で小さな声が聞こえたので、わたしはすぐに振り向く。

 予想通り、ミントさんの幻影が複数近づいていたのでわたしは、そのまま上に飛ぶ。が、私の移動しようとした場所にもう一体ミントさんの幻影がいて、私はそのまま激突してしまうのだが……。


 ―――ボフッ。


 勢いよく当たってしまったためか、ミントさんの幻影にそのまま突っ込んでしまい、幻影は実体のない雲同然に消えてそのまま通過してしまった。


「ああ、惜しい……」

「今のは……」

 惜しがる他のミントさんだったが、今のでわたしはピンと来た。


「(そうだ。本体が分からないなら……!!!)」

 心の中でそう考えると同時に、わたしは詠唱を開始する。


「制約的に攻撃魔法はご法度。だけど、わたしにはこれがある……!!

 ――誰よりも早く疾風のように、韋駄天の力を<超超ちょうすっごい速度強化足が速くなる魔法>!!」


 自身を対象に、わたしは付与強化魔法を使用する。


「強化……魔法……? でも、それに何の意味が……?」


「ふふ、こう言う事ですよっ!!」


 わたしは自慢げに笑って飛行魔法で更に上空に飛ぶ。そして、超速度で最も遠い場所のミントさんの幻影に飛んでいく。


 その距離は約200メートルだが、到達時間はほぼ3秒。地上にいる時と比べて摩擦による抵抗が無いためその分遥かに早い。


 狙いの幻影以外にもわたしの進路方向にいた幻影も巻き込んで容赦なく突っ込んでいく。結果、目標の幻影含めて進路上の幻影にも突進して雲のように次々と消えていく。


「は、はやっ………きょ、強化魔法でそんなに早くなるものなの……?」


「ふふん、わたしの<付与強化魔法>は特別なんですよっ!!

 気配が分からないなら超速度で飛び回って幻影に体当たりすればいいって気付きました!! そうすれば、いずれは本体に当たりますよねっ!!」


「ええっ……?」

 ミントさんの幻影たちは引いたような表情で後ずさりする。わたしは遠慮なく超速度で何度も何度も突っ込んでいく。


 ミントさんの幻影は時間ごとに増えていくが、わたしはそれ以上の速度で突っ込んでいき、本体のミントさんを探す。


「(流石にこれだけ速度が上がれば本体を見誤る事はないですっ)」


 そしてわたしは、ようやくミントさんの姿を捉える事が出来た。


「みーつけたっ!! 」

「わぁ……っ!!!」


 わたしは大声で叫んで思いっきり彼女に向けて飛び掛かります。ミントさんは、驚いた様子で背後に振り向いて逃げようとしますが、その背中を後ろから抱きしめます。


 ―――ぽよん♪


「あ……」「っっっっ!!!」


 勢い余って、ミントさんの大きな胸をわたしの手が揉んでしまいました。


「わ、わぁぁっ!! ご、ごめんなさいっ!!」


 慌ててミントさんから離れてわたしは謝ります。ミントさんは顔を赤くしたまま呆然としていましたが……すぐに正気に戻ってムッとした顔を見せました。


「もぅ……今のはズルいわよ……」


「はぅぅ、すいませんでした……」


「……でも、私の負けね」


「やった、わたしの勝ちです!!!」


 こうして、わたしサクラは、賢者ミントさんとの戦いに勝利したのでした!!

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