第727話 VSミント2
ウィンドが独断で『長老』の元へ向かい、レイとカレンが別の場所で四賢者と激闘を広げている頃……。残る戦士であるサクラはというと……。
「――すぅ……」
「……ふふ……可愛い、寝顔……」
サクラはというと四賢者の一人、ミント・ブリリアントにあっさり敗北し、彼女の膝の上で安らかに眠っていた。
「かなり、魔力的素養のある、女の子だったのに、ね」
ミント・ブリリアントは独特のイントネーションでそう言いながら、サクラの髪の毛を優しく撫でる。
「でも、どうしようかしら、こんなに気持ちよさそうに寝てたら、起こせないわ……」
ミントは、膝の上で気持ちよさそうに眠るサクラに困ったように眉を下げる。
「(……他の二人は……まだ、途中みたい)」
ミントは、こことは別空間で戦いを繰り広げている仲間達の様子を自身の魔力を飛ばしてぼんやりと把握する。
別空間といっても、彼女達三人の賢者が作り出した空間は遠いようで非常に近い場所にある。塔の中にある魔力の通りやすい場所に自身と相手を飛ばし、その空間を自身の心象イメージで作り上げたものだ。
つまり、ここは現実の空間とは違う場所。精神的な距離は離れているが、ここがどういう場所が認識している彼女にとって外界の様子を伺うのは造作ない。
「……ん……んぅ……」
「ふふ、気持ちよさそう……」
そんな考え事をしていると、サクラが寝返りを打つようにミントの膝に顔を擦り付ける。そして、その口から気持ち良さそうな寝息が漏れる。それを見て、ミントも思わず笑みがこぼれる。
サクラがすぐに目覚めそうにない事を確認してから、ミントは目を瞑って瞑想状態に入る。
自意識を外界へと飛ばし、仲間達の魔力の痕跡を辿って、彼らが作った固有空間の中へ自身の精神の一端を送り込む。
そこからは、その固有空間で現在行われている戦闘の様子を覗ける。
「(あの子(クロード)の方は……随分と、必死に、戦ってるみたい、ね?)」
クロードは強化魔法で自身を強化した状態での剣術と物量にモノを言わせた絨毯爆撃のような多段魔法を駆使して、侵入者の少年と戦っているようだ。
しかし、少年の方は青く輝く不思議な剣を涼しい表情で振いながら彼の魔法をいとも簡単に切り払っていく。
そして、クロード魔法が途切れた瞬間に接近して剣で切り掛かる。クロードも得意の剣で応戦するのだが、身体能力を底上げしたにも関わらずあっさり劣勢に陥ってしまう。
剣と魔法、両方を器用にこなすクロードだが、逆に言えばどちらも中途半端になりやすい。どちらかに特化すれば、より強力になるが、その分足元をすくわれるリスクも高くなる。
少年の方は魔法こそ使っていない様に見えるが、時折青い剣から炎や雷が迸り、クロードの魔法を相殺しながら見事な剣技を繰り出している。そういう魔道具なのだろうか……?
「(クロードも、まだ全力を出し切っていない、ようだけど……表情でどちらが優勢か……分かっちゃう……わ…ね……)」
クロード・インテリシアは『長老』に賢者として認められてまだ日が浅い。
それゆえ、自分達と比較すればいくらか未熟であるのだが、こと戦闘力においてはエアリアルにおいても1,2を争う戦闘力の持ち主だ。それほどの実力の彼が、あんな大人しくて可愛らしい少年に追い込まれているとはにわかには信じがたい。
一方、グラハムの方は―――
「(鋼鉄変化と憑依呪術の二つの魔法を併用して、戦ってる……これなら大丈夫そう、ね……)」
相手の青髪の女性もかなりの強者のようだけど、それでも【獣王】と化した彼の力には及ばない。何とか攻撃を凌いでいるようだけど時間の問題だろう。
何らかの逆転の手を狙ってる可能性も否定できないけど、【獣王】状態のグラハムはほぼ無敵だ。人間を遥かに凌駕した古代種【気高き巨獣(フェンリル)】を憑依させ、そこに肉体を鋼鉄と同等の強度を与える<鋼鉄変化>を使用している。
本来、<鋼鉄変化>は身体を鋼体にするだけの魔法だが、彼は長い修練により肉体の強度のパワーだけを伸ばしながらも、敏捷性と柔軟性を維持するという高度な魔法の使い方を可能としている。
<鋼鉄変化>を扱えるのはグラハム・アーネストただ一人だけであり、ここまで極めたのは後にも先にもおそらく彼一人だけだろう。そんな彼に対して、どう逆転するかも想像できない。
「(なら、クロードの方を、手助けに、行くべきかしら、ね)」
ミントはそう考えて、次が自分が何を為すべきかを考える。そして、自身の行動を決めて意識を浮上させようとしたその時――――
「(―――っ!)」
突然、自分の空間で何者かの気配を感知した。
だがおかしい、ここに入れるのは私自身と、私と同格の魔力を持つ四賢者ではないと不可能だ。だが、他の四賢者は戦闘の真っ最中。戦線離脱した【コーリン・アロガンス】は少なくとも戦える状態では無いしこの場に乗り込んでくる理由が無い。
「(なら、一体誰が……!!)」
ミントは瞑想状態を解除して自身の精神を肉体に浮上させようとするが一つ思い当たることがあった。
「(ま、さ、か)」
誰かが、後からがやってきたわけじゃなくて、倒したはずの、彼女が、目を覚ました―――!?
次の瞬間、彼女は瞑想状態を解除し、自身の精神を肉体へと浮上させた。
◆
【視点:サクラ】
「もしもーし!!!」
わたしサクラは、凄く綺麗な花嫁さんと戦っていつの間にか寝ちゃってました。
でも少し寝て気分戻って目覚めると、そこには花嫁さんが目を瞑って眠ってたので大声で呼びかけてみました。
すると、突然花嫁さんが目を開けて身を起こして、困惑した目で私を見つめてきました。
「な、なんで、起きてる、の……?」
「んん???」
この花嫁さん、寝ぼけているのかな?
寝てたのはわたしじゃなくて、花嫁さんの方なんだけど……?
「わ、私の
「うーん、わたしいつも目覚めスッキリで起床するから、必要以上の睡眠が要らなかっただけじゃないかなぁ……?」
「そ、そんな……」
花嫁さんはしばらくわたしを見つめて唖然としていました。
「それよりも、再戦ですよ!! わたし、まだまだ元気ですから、今度こそ決着付けましょう!!」
「えぇ……!?」
わたしはそう言って、剣を前に構えました。
「さぁ、掛かって来てください!!」
「……もぅ……よく分からないけど」
花嫁さんは、しばらく戸惑いを見せていたけど。すぐに気を取り直してロッドを構えた。
「こ、今度こそ、静かに眠って、ね」
花嫁さんの杖から再び花弁が飛び交ってわたしの方に飛んでくる。でも、今度は特に意識が途切れることもなく飛んでくる花弁を双剣全て切り裂く。
「……う、嘘……?」
「花嫁さん……じゃない、ミントさんの魔法は何となく分かりました。
多分、精神に干渉して催眠状態にする効果ですよね。でも、わたしもう自覚しちゃいましたから通じませんよっ!」
わたしはそう言って、剣を構えてミントさんに向かって走り出しました。
「!(この子……何者?)」
わたしが迫る中、ミントさんは戸惑うように後ずさる。そして後ろに下がった時、何かに足を取られて躓いて倒れてしまいました。
「あっ!」
わたしはチャンスと思って距離を詰めようとしますが、ミントさんは即座に飛行魔法で上空に逃れてわたしの攻撃を回避します。
「危ない……それにしても、あなた、凄いのね」
「えへへ、どうもー」
「……そんなに、すなおに、照れてくれると、やりにくわ……」
ミントさんは困った顔で笑っていました。
「あの、ミントさん。わたし、出来ればあんまりミントさんに攻撃したくないんですけど!」
「なん、で?」
「ミントさん、悪い人に見えないです!」
「……それは、そうよ。私、別に悪いことしてないし……どっちかっていうと、許可なく、塔に忍び込んだ、あなた達の方が、悪人……なの……?」
ミントさんはわたしの言葉を聞いて、困惑した様子ながらもそう言ってきました。
「む、むぅ……確かに」
言われてみれば、確かにそうです。でもでも!
「わたし達、別に危害を加えに来たわけじゃないんです!
ここの『長老』って人に会って、魔王討伐に協力をお願いしに来ただけなんですよっ!!」
「それは……うん、お仕事、御苦労さま……?」
「ガクッ……なんか、ミントさん、マイペース過ぎて……話の緊張感が……」
わたしは肩を落として、脱力してしまいました。
「そんなこと、言われても、困る……」
「じゃあせめて、わたし達と戦わずにお話ししてくれませんか?」
「それは駄目、よ。私達、四賢者の、お仕事なの。そっちが、『長老』に会うために、この塔に来たのなら、私達は、あなた達を試すお仕事に来たの。あと、『長老』の護衛とかあるけど……何もせずに、解放するつもりはない、わ」
「むむ……じゃあ、どうすれば……」
「こ、困ったわ、ね……」
どういうわけか、わたしもミントさんも困って動けなくなってしまいました。
お互い、別に戦いたいわけじゃないのに、何故戦ってるのか……お仕事じゃなければ、きっと本当の意味でお友達になれそうなのに……。
「うーん、どうしよう……」
「じゃ、じゃあ、こうしましょう」
ミントさんは名案とばかりに表情を明るくして、後方に大きく跳ぶ。
「私は、あなたを魔法で動けなくするから、あなたは私に捕まったら負け。逆にあなたは、私を捕まえたら、勝ち。どうかし、ら?」
「じゃあそれで決定ですっ!」
わたしはそう言って双剣を鞘に納めて、徒手空拳で構える。
「なんで、武器を収めるの?」
「え、だって、双剣なんて使ったら、ミントさん、傷付けちゃうじゃないですか」
「……わたし、これでも『賢者』よ? すごく、すごく、強いの」
「えっへん、それならわたしも、すっごく強い『勇者』ですよっ!!!」
「……???」
「(あ、あれ……伝わってない……?)」
何故かミントさんは首を傾げていました。
「……まぁ、いいわ。始めましょう?」
「はい!」
わたしとミントさんは構える。そしてルールを改めて戦いが再開されます!
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