第723話 一方、その頃……
レイ達が別の場所で戦いを繰り広げてる頃、ウィンドだけは戦いの場に巻き込まれることなく、レイ達が戻るのを持っていた。
【視点:ウィンド】
ウィンドは腕を組みながら【頂の塔―全知の間―】にてレイ達が戻ってくるのを静かに待っていた。
「(残る賢者が待ち構えていようとは。彼らは無事でしょうか……)」
魔法都市エアリアルの四賢者。
彼らの事は、この国出身のウィンドにもある程度の知識はあった。
魔法都市エアリアルで生まれた子供は十歳になると魔力検査が行われる。
その時、魔力の測定値が一定以上の場合は、最大十年間【四賢者】の下で指導が行われることになっている。更にそこで稀有な才能があると判断された場合、【長老】の元に引き取られることになる。
この国において魔力は絶対的な価値観として認識されており、魔力が高い人間ほど高い地位に就くことができる。
その中でも、彼ら【四賢者】は【長老】に引き取られて才能を見出された『特別枠』の魔法使いだ。そのため【四賢者】は魔法都市の人間にとって羨望の的となっていた。。
しかし魔力検査で【素質無し】と判断された者の末路は悲惨なものだ。すぐに親元に返された後、魔法都市内では一生冷遇され続けることになる。場合によっては、存在しないものとして扱われることもある。
社会的な地位の向上も望めず、魔法都市から自ら去って、地上の国に帰化することも珍しい話じゃない。
「(そういう私も、この国を捨てた人間ではあるのですが……)」
ウィンドの場合、十歳の時の魔力検査において【最高位の素質】と判断された。その後、彼女はおよそ四年ほどの間、親元を離れて『コーリン・アロガンス』に教えを受けていた。
しかしこの国の<創世の御柱>の教義に不信感を持っていた彼女は、彼との口論の末に破門されてしまう。理由は自らの母であるエリアの事だ。
彼女は【素質無し】と判断され、国で冷遇されていたが、父であるクレスに見初められたことでこの国の定住が許されることになった。
父のクレスは、元四賢者の一人で社会的地位が高かったため、彼女が直接誰かに害されることは無かった。
ある時、屋敷に刺客が入り込み、母の命が狙われてしまった。結果、母を庇った父は怪我を負い命は無事だったのだが、問題はその刺客だ。
父の懐刀であるライオールが死角を捕縛して尋問をしたところ、刺客に暗殺を命令したのは当時の四賢者の一人だった。その時から彼女はこの国の教えに強い疑念を持つようになった。
彼女は、師の『コーリン・アロガンス』と相談したのだが、結果は芳しくなかった。その件があってウィンドはこの国を飛び出すことを決めた。
「……ふぅ」
当時の事を思い出して、ウィンドはため息を付く。
「(結局、暗殺を企ててお母様を亡き者にしようとした賢者の事は分からず仕舞いでしたが……)」
少なくとも、先程見た三人の賢者はウィンドは知らない人物ばかりだった。以前、幼少の頃に見た時とは顔ぶれが変わっていた。つまり、あの中に母を暗殺しようとした黒幕は居ないということになる。
「(―――もっとも、『コーリン・アロガンス』は以前から変わらず四賢者の地位に居るようですが……)」
彼が私の母を殺そうとした黒幕かどうかは確証がない。彼の態度はウィンドにとって愉快なものではないが、それでも四年間『先生』と仰いだ存在だ。出来れば違うと思いたい。
ウィンドは、内心複雑な思いでそう思っていた。
「(……まぁ、今そんな事を考えても仕方ないことですね)」
ウィンドは考えるのを止めて、仲間達が戻ってくるまで再び腕を組んで瞑想に入る。
……しかし。
――ジーニアス家の才女か、これは懐かしい顔だ。
「――っ!!」
突然、頭の中に響いた年老いた声。
「だ、誰ですか……!?」
ウィンドは周囲に人の気配が無い事を確認してから大声で叫ぶ。
そして、彼女の声に応えるように、再び老人の声が響く。
――誰、とは片腹痛い。この頂の塔の主は誰だと思っている?
「……まさ……か‥…」
この頂の塔は、地上の国の国王……いや、地上の『神』にすら匹敵する存在が、この国を監視する為に建てられたものだ。それはつまり『長老』と呼ばれる存在に他ならない。
「『長老』……様、なのですか……?」
ウィンドは全身に汗を流しながら、恐る恐るその声の主に問いかける。
――クックック………『長老様』と来たか。如何にも、お主が思い当たる存在に違いは無いが……。
声の主は、彼女の質問に喉を鳴らしながら愉快そうに答える。しかし。
――『様』とは、尊敬する者に付ける敬称だ。お主は、儂を尊敬などしていまい。
「っ!!」
ウィンドは、自身の心が筒抜けであることを見抜かれて動揺してしまう。
――どうやら、ここに来たのは別の目的があってのことのようだが……。
『長老』は勿体ぶるように、じっとりとした口調でウィンドに語りかける。
「それは……」
――だが、それはお主の真の目的ではなかろう……本当は……。
「……っ!」
……そこまで見抜かれているとは!
――どうせ、そこで仲間の帰還を待っていても仕方なかろう。……儂の元に来るがいい。真実が知れるかもしれんぞ……。
「なっ!? まさか、貴方が――!!」
………。
ウィンドは感情のままに叫ぶが、返事は無かった。
「……まだ彼らの戦いは終わっていないようですが……」
ウィンドは『長老』の元へ向かうための転移用の魔法陣に視線を向ける。
「(……好都合かもしれませんね。彼らが居ない間に真実を知ることが出来るのですから)」
そうつぶやくと、ウィンドは転移用の魔法陣に乗る。すると、一瞬にして彼女は『頂の塔』の最奥へと転移する。
「(……ようやく、母を暗殺しようとし、父を国から追放した人間の正体が分かる……!)」
ウィンドは自身の杖を強く握りしめ、待ち受ける『長老』の元へ急ぐのだった。
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